第3話 あたしの恋愛事情

飲みに行ってから踊りに行こ!


毎週土曜日は、きまってガールズバーの友人達と居酒屋に行き、

その後はカラオケで騒いで、酔いがまわった勢いでクラブで踊る。

最終的には、ファミレスで朝食を食べて解散。

これがあたしのだいたいの週末。

ただし例外の週末もある。

それが、あたしの「恋愛」だ。


すいませーん!山盛りのフライドポテトと焼酎ボトルで。


この日もいつもの友人達3人と、安く酔える居酒屋で集まる。

ここは、渋谷のど真ん中。それなのに、混雑することは滅多にない。

おそらく古ぼけた外観だろう。

そして地下すぎるってことだろう。

それでも、ガールズ4人には嬉しい個室を完備しているし、トイレも2つある。

なめろうとか、エイヒレとか、渋い料理ばかりだから、必ずフライドポテトを

毎回注文する。嫌いな人はほとんどいないメニューだから。


お待たせしました、新しいオリジナル焼酎のボトルと氷と緑茶のセットです。


ここの店長さんは、あたし達を完全に覚えている。

あたし達にはない記憶も、きっと店長さんは覚えている。

だから、毎回同じ銘柄の焼酎のボトルと、既に氷の入ったグラスが4つ、割る用の渋めな緑茶をさっと用意して持ってきてくれる。

いつもの場所。いつもの人。いつもの時間。

うん、居心地がいい。

最初は濃い緑茶で割った焼酎も、後半には焼酎の方が濃く感じる。

しかめた顔で、濃い焼酎を飲み干し、勢いよくお会計をした。


じゃあ、次はカラオケね。とりあえず電話してみるー。


ほろ酔いよりは完全によっている状況で、誰かが必ずカラオケ屋に電話をして

混雑状況を確かめる。

渋谷の週末の夜は競争が激しいから。

お気に入りのカラオケ屋が混んでいる時には、他店にも電話をして部屋の有無を確認する。もちろん飲み放題も。

競争には勝ちたい。

無駄なプライドだけはあるから。

部屋が決まれば、これでもかって言うほど曲を入れる。

思いついた曲は全部入れる。

そして歌いながら、聴きながら、おきまりの言葉を友人達と言い合う。


わかるー!ほんと、それー!すっごいわかる!!


歌詞に共感して、涙をする。

だから歌の力ってすごい。

あたしだけじゃなくて、みんな悲しいこととか、忘れられないこととか、苦しいことがあるんだ、って思うことができるから。

夜のあたしは、人を感じることができる。


じゃあ、そろそろ踊りに行こう。化粧直してくる!


毎週同じクラブに来ているから、入口の年齢確認の際はスムーズに通過する。

1つのロッカーに4人分の荷物を押し込み、いざ出発。

あたし達にはお気に入りの場所がある。

クラブの中のバー・カーウンターから少しだけ離れた丸テーブル。

ベトベトするテーブルに2人は残り、あたしと友人でお酒を買いに行く。

テキーラのショットを一気に飲み干し、くし切りのライムにかじりつく。

なぜか、いつもウイーって言ってしまう。

そしてジントニックで再度乾杯。

好きな曲がかかれば、もはや自分たちのステージのように、思い思い踊る。

少しすると、トイレに行く友人、お酒を買いに行く友人、男と話す友人。

ここまでのチーム力は個人力への勝負と変わる。

あたしは、だいたい、微妙に踊り続けるか、お酒を買いに行く。


「あたし」じゃん。今日来てたんだ。


バーカウンターには意味のわからない列。

この日もどこに並んだらいいか分からず、フラフラしながらバー・カウンター横の柱の近くに行くと、「あの男」がいた。

あの男とは、体の関係がある。

連絡先を交換して、その日のうちに家に来たことがあり、する事はした仲。

酔ったあたしは、あの男をまた求めようとしているのか。

あの男も、完全に見つけたって顔をしている。ただの餌食を。

そんなのは分かっている。

だけど、なぜか柱のそばのあの男に会えたことを、嬉しく思ってしまう。

これは恋ではないのは分かっている。

これは愛でもない事は分かっている。

だけど、なぜか今は一緒にいたいと思ってしまう。

この人と、恋が始まるかな。

この人は、あたしを好きなのかな。

彼氏もいないあたしは、あの男を擬似的な恋愛対象として思い始める。


そして、酔っ払いのあたしは、今日も人を感じるために、寝る。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

灰色の中からの駆け足 @Ryo_to_Ryo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ