第4話

 将来の夢。

 それは小学生の時に、誰でも書いたことのある文章のタイトル。

 サッカー選手か、警察か、それとも医師か。正直あの時の志望はすっかり忘れた。多分全部も志望だった可能性もあるかもしれない。

 気まぐれで決めたものとは言え、一応自分で決めたという事実は変わらない。小学生の俺にはちゃんと夢があった。ちゃんと将来の夢を見ていた。

 それに比べて、高校生になった俺は、進路ですら決められない。大人になる直前の高校生なのに。

 いや、これはちょっと違う。

 一つだけは叶えたかった。ほんの少し前まで夢だった。

 俺は未羽と同じ道を歩みたかった。

 同じ大学を志望校にして、例えそれが偏差値の高い大学だとしても、大学受験に向けて一生懸命頑張るつもりだった。

 途中でくじけたり泣いたりしても、励まして励まされて、最後にはお互い合格通知書を見せ合う。

 そして大学の四年間は、今と同じような関係を続け、いや、もしよかったら今より深い関係になって無難な大学生活を過ごす。

 そんな未来を送りたかった。

 あえて進路調査票を提出しないのもそれが原因だ。彼女の進路を知る前に、提出しないことにしたから。

 フッ、様見ろ。

 自業自得だ。

 進路より恋愛を大事にした結果は、この有り様だ。




 力の抜けた足を引きずり、知らないうちに駐輪場に着いた。

 自転車に乗ろうとしたところ、スマホがブルッと振動した。ズボンのポッケトからスマホを取り出して、指でロックを解除する。

 新着メッセージが七着あった。どれも由美ゆみさん――俺を育ててくれた人からだ。


『ソウくん、まだ学校?』

『急に病院から連絡あったの』

『和音の体に何か異常起きたって』

『ソウくんは早く病院に行って』

澄美すみは今先生から事情を聴いてるの』

『心配しないで』

『私もあちらに向かってるから』



「異常ってなんなんだよ」

 スマホをポケットに入れ、俺はすぐ自転車に乗った。

 時間は五時四十五分。全速でこげば六時前に到着できるはずだ。

 多少危険が伴うが、今はできるだけぶつからないように気をつけるしかない。

 俺にできることはそれだけだ。

 いや、まだ一つある。

 自転車をこぎながら、俺は途切れることなくただただ祈っていた。


 頼むから、神様。

 彼女だけは、俺から連れ去って行かないでくれ。

 未羽の次に、和音までを連れ去って行かないでくれ。

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