ツールフプーレグ【二人用声劇台本】

あんみつ

ツールフプーレグ

ツールフプーレグ



自分自身と向き合うお話です。

「少年」と「?」と「男の子」は同じ人に読んでいただけると嬉しいです。


2人用台本(性別変更可能)


少年・?・男の子:少年、幼い声

僕:男、大学生


ストーリーそのものを変えなければ、

性別を変更して読んで頂く程度のアレンジはOKです。


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少年:「ねぇお父さん、グレープフルーツの反対って何?」




僕:今朝、夢を見た。

 たぶん僕の小さい頃の記憶だと思う。

 お父さんがとても面倒そうな顔でこっちを見て、

 黙って目を逸らしたのをなんとなく覚えている。



少年:「きっとまた変なことを聞いちゃったんだ。」



僕:胸の奥に微かな痛みを残したまま、朝の支度を済ませていく。

 変な夢を見る程の悩み事があるわけでもない

 大学の友人とだってうまくやっているし

 成績も程よく平均で、バイトも淡々とこなして


少年:「ねぇ、お父さん」


僕:波風立てないように、迷惑かけないように

 (身支度のために鏡を見る)

 「…あれ

 なんで泣いてるんだろう…あはは気持ちわるっ」


僕:涙が一粒落ちると、何かが抜けてくみたいに心が軽くなった。


?:(嬉しそうにそっと笑う)


僕:その日も一日、なんてことのない日常だった。

 大学へ行って講義を受けながら、グループラインに適度に既読をつけて返事をして

 「写真部」とは名ばかりの、

ただの馴れ合いの場みたいなサークルで時間をつぶして

 夜はバイト。無断欠勤した新人の穴埋めのために、店長から呼び出されてしぶしぶ働いた。


僕:「ただいま。誰もいないけど

 はぁ 夜ごはんも、お風呂も、もういいや」



僕:(ため息)


?:「こんなのダメだよ」


僕:「だれ だ…」


?:「なんとかしてあげる!」





僕:昨晩も、変な夢を見た気がする。

 …え、なんでグループラインの通知こんなに来てんの?」

?:「思ってること、言っといてあげたよ」

僕:「うわ!!!誰だお前!!!…なんだよこれ」

?:「明日のコンパ行きたくない。人数合わせに呼ぶのはやめてくれ。

 講義のレポートは次回から自分たちで書け。

 写真撮る気が無いならもうサークルに来んな。

 って言っておいてあげたよ?」

僕:「は?嘘だろ?…このメッセージ、お前が勝手に打ったのか?」


?:「スッキリしたでしょ??」

僕:「ふざけんなよ!!!」


?:「!

 バカみたい

 なんで?なんでそんななの?やりたいことやればいいじゃん

 なんでやりたくないことばっかりやってるの?」

僕:「……」

?:「なんで!?嫌なことして辛そうな顔して笑ってるの!!バカみたい!!」


僕:「  ぅるさい

 僕なりに何とか生活してるんだ放っておいてくれよ!」


?:「…」


僕:「お前は誰なんだよ!」


?:「…つまんない会話なんてほっとけばいいじゃん。授業の方が楽しみにしてるんでしょ?

 サークルもさっさと辞めちゃえば?バイトだって嫌な時は断りなよ!」

僕:「!! …なんなんだよ」

?:「いつまでそんなことしてるの?…死んじゃうよ」

僕:「別に、死ぬほどのことじゃないだろ!!」

?:「僕が死んじゃうの!」

僕:「はぁ!?」


?:「グレープフルーツの反対って何?」


僕:「!!!…やめろ」


?:「ねぇ教えて?」


僕:「やめてくれよ…」


?:「ヒコウキの反対は?ユウエンチの反対は?ジェットコースターは?

 教えてよ考えてよ一緒に遊ぼうよ」


僕:「お前なんていらない!消えてしまえ!!」




僕:「…っ!」

 肩が痛い?ベットから、落ちたのか、今

 さっきまでのは一体何だったんだ、夢?

 「そうだ、スマホ」

 慌ててスマホを確認するも、さっき見たはずの荒れた会話は無くて

 明日のコンパの話とか、いつも通りの会話が流れていた。

 「全部夢だった、の、か?」


?:「グレープフルーツの反対って何?」


僕:あんなに鮮明な夢なんてあり得るんだろうか


 考えても仕方ないから、さっさと支度を済ませて大学へ行った。

 講義を受けながら、グループラインに適度に既読をつけて返事をして

 「写真部」とは名ばかりの、

ただの馴れ合いの場みたいなサークルで時間をつぶして

 夜はバイト、新人はやっぱり来なくて

 ああ、なんだこれ


 「苦しい」


 写真が好きで写真部に入ったのに、

 バイトして買ったカメラのレンズも、放っておいたせいで曇ってしまって

 買い集めてた風景写真集も部屋の隅でホコリまみれで

 人の顔色ばっかり見て


?:「バカみたい」

僕:「ほんとだ、バカみたいだ」

 ごめんホントは、コンパとかあんまり興味なくて行きたくない

 グループラインにメッセージを送った。

 そしたらすぐ「あ、そうなの?わかった別のやつに声かけるなー」

 って返事が来て、何事もなく会話が流れていった。


 「ははは何だ、こんなに簡単なことだったのか」


 それから日に日に、自分の思っていることを話せるようになっていった。

 授業中にスマホを見なくなり、無理してまでバイトすることも無くなった

 写真を一人まじめに撮り始めるようになって嫌味を言うやつなんかもいたけど

 なんでかあまり辛いとは思わなかった。


 今日は大学の近くの公園で、植物を撮影している。

 そういえば、いつか夢に出てきた変なやつは小さい頃の自分にどことなく…


男の子:「ねぇお兄ちゃん」


僕:「君は」

 小さい頃の自分にどことなく似てる


男の子:「お兄ちゃん、グレープフルーツの反対って何?」

僕:「…!」

男の子:「ぼく今ね、反対言葉にハマってるの!」

僕:「反対言葉…」

男の子:「うん!いろんな言葉をね、反対から読むの!」

僕:「ツールフプーレグ

反対から言うと、ねツールフプーレグだよ」

男の子:「わぁ!!すごい!!お兄ちゃんかしこいね!!」

僕:「最近ちょうど同じことを聞いてきた子がいてね

 じゃあさ、ジェットコースターの反対は?」

男の子:「ええー!難しいよぉ」

僕:「一緒に考えようか」

男の子:「うん♪えっと…ター?タース……ねぇ、お兄ちゃん」

僕:「ん?」

男の子:「楽しいね!」


僕:「うん、楽しいね♪」



?:(そっと笑う)



おしまい

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