真葛式新訳 ふしぎの国のアリス

中村真葛

献詩

黄金こがねきらきら昼下がり、

僕らはのんびり川下り。

オールをあやつる小さな手、

力はわずかで大よわり。

幼いおててが自信持ち、

案内あんないしてくよ右ひだり。


ああ、ひどいよ三人、こんな時間!

ぽかぽか眠くてこりゃいかん。

なのにお話ねだるとは!

こんな息でははねも飛ばん。

なのにこちらはたったのひとり、

三つの舌にはまずかなわん。


えらぶる一の姫さまぴしゃり、

「さあ、はじめよ」とアナウ

二の姫さまはさもやさしげに、

「たっぷりちょうだい、ナンセ!」

三の姫さま、ちゃちゃ入ればっか

話つづけるの無理ざ


やがて、三人しいんとだまる

ふしぎな話に夢中かい?

かけずりまわる夢の子追えば、

へんてこ新鮮、奇々怪々ききかいかい

鳥やけものと楽しくトーク、

本物かもよ、こんな世界せかい


そして、話はすっからかんさ、

ふしぎの井戸はもう限度げんど

つかれたしゃべり手ガラガラ声で、

ひとまず告げる「また今度こんど――」

すると姫たち、禁じてくるぞ、

楽しい声で、「もう今度こんど!」

 

不思議の国のお話たちは、

こうしてできたよ、ゆっく

へんてこできごと出し切っちゃえば、

お話終わるよ、すっき

おうちに向かってお舟をこげば、

おひさま沈むよ、とっぷ


アリス!幼き話をもらっておくれ

幼子おさなごの夢 からまるほう

優しきその手でそなえておくれ

思い出の帯たなびくほう

遠き異国いこく巡礼じゅんれいたちが

みてらしたむりのように。

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