第105話 告白する権利

鈴木「(明彩と席をくっつけ、ドキドキしっぱなしだった午前の授業をなんとかやり過ごし、ようやく昼休憩。どうしたことか、俺は明彩に呼び出され、校庭に来ていた。転がっていたテニスボールを拾うと、すぐさまこちらに向かって投げてくる明彩。そのボールをキャッチして、またすぐに投げ返す。)」


明彩「……鈴木、学年で一番美しいのは誰か答えていいわよっ…………!」


鈴木「(上から目線の物言いはいつもの事だが、今回だけは弱々しい言葉尻に聞こえた。学年で一番美しいのは、笹島さんや柳生さんと答える男子生徒は大勢いると思う。もちろん、明彩の性格を知らない男子からすれば、明彩は学園アイドルとして崇められている……。しかし、俺の中で学年一といえば不器用さなんかも含めて、涼葉さんだと思っている。そこだけは譲れない。)」


明彩「さぁ、遠慮せずに言っていいわよっ……。」


鈴木「(す、す、す、す、す、す、す、す、……す…………ぅ……、あいつにかけられた妖魔のせいで、口が自分の意識で動かない。辛い。それに加えて、今度は勝手に口が動き出した――! 何を言おうとしている??? 止めろおおお――!!!)」


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鈴木「俺が好きなのは、世界でたった一人! それは明彩さんだけです。」


明彩「……。」


鈴木「(うぉぉぉおおお! 心にもないことを言ってしまったぁぁぁああああああ。まずい。これはまずいぞ。)」


明彩「……バカっ! そんな直球に言われたら恥ずかしいって! 変態!」


鈴木「(あのアホ! 何を恥ずかしがっている! これは間違いだ。口が勝手にだな……。)」


明彩「あんたって、昔から私が好きなんでしょ。私知ってるんだから。いつもストーカーみたいに私の周りをうろうろしてたでしょ。」


鈴木「(好きじゃねぇよ! それにストーカーって言いがかりだ。)」


明彩「仕方ないわねっ。そんなに私のことが好きだったら、あんたにだけは、告白する権利をあげるわっ!」


鈴木「(何度か続くキャッチポールで手のひらがじんじんと熱を持っている。そしてボールをキャッチするたびに、――パチンパチン。と、胸の中で甘酸っぱい何かが弾ける。きっとそれは青春というキラキラした何かだ。……がしかし、これも妖魔の力なのかもしれない。)


明彩「私なりに、告白の返事も考えておいてあげるんだから感謝しなさいよっ!」


鈴木「(そういうと、あいつはくるっと一回転してスタスタと校舎へと戻って行った。一瞬見えた明彩の真っ赤な横顔に、胸が締め付けられる。俺の意思を超えて、遠ざかって行くその後ろ姿が、あまりに愛おしい。今すぐに追いかけて抱きしめたい。好きです! って言って楽になりたい。彼女の足の先から手の先、髪の毛の先まで、俺が俺でいるために必要だ。――どうしてだろう、その全てを明彩に伝えたい。俺はずっとずっと昔から、……この世に生まれるずっと前から、あいつのことが、たまらなく好きだった。この気持ちは妖魔のせいなだろうか。わからない。が、もうそんなことはどうだってよくなっていた――。)」


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鈴木「(――後先を考えずに、明彩を追って走り出す。俺は、人生で初めての愛の告白を、決意したのだった……!)」

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