第104話 ――恋
鈴木「(動き出した【明彩】の文字が傘を持つと、その傘の中に【鈴木】の文字が入った。それから【明彩】の文字はハートを持って嬉しそうに微笑んでいる。なんとも奇怪な光景だ。いや、味方によっては乙女チックと言えるのかもしれないな……。【明彩】の文字が傘とハートを持ったまま、【鈴木】を引っ張り、こちらに近づいてくる。何が始まるというのだろう。)」
――ルンルンルン
鈴木「(スキップで、鼻歌でも歌っているようだ。そんな軽快なステップでこちらの机までくると、その勢いのまま俺の腕に這い上がり、どんどん進んでくる。)」
明彩「ガツーン! と、頼むわよっ。遠慮なんていらないんだからねっ――。」
鈴木「(明彩の奴が、文字の【明彩】に手を振ると、それらが勢いよく俺の胸に向かって飛び込んで来た。)」
鈴木「――っ!? まじかよ? (異物が体内に入り、気持ち悪い。乗り物酔いのような感覚に襲われる。)」
明彩「……どう?」
鈴木「なんか気持ち悪い、クラクラする。」
明彩「ヘンね。」
鈴木「お前、俺に何をした?」
明彩「べ、別に何もしてないわよ!」
鈴木「気持ち悪くなってきたぞ。全身に毒が回ってるみたいだ。」
明彩「毒? 人聞きの悪い言い方ね。でも、効いてきたってことよね!」
鈴木「うぉっ、吐きそう……。」
明彩「ちょっと予想外の反応だけど、まぁいいわ。」
鈴木「よくねぇよ。おぉぉ気持ち悪っ。」
明彩「……よーく私のこと見て、ひとつ質問よ! どう?」
鈴木「どうって?」
明彩「だからその、女として?」
鈴木「(わがまま女――っ! 頭の中ではそう発言したいのだが、声にできない。)」
明彩「失敗したかも、変化なしかぁ。」
鈴木「(……っ変化?!)」
……キラキラ
……キラキラ
――――キラキラ
――――キラキラ
――――――――――――キラキラ
――――――――――――キラキラ、キラキラ、キラキラ
鈴木「(髪を揺らし、ゆっくりとこちらを振り向く明彩が、キラキラ光、甘い香りに包まれて見えた。美少女って言葉だけでは説明できない。そこに存在している明彩が世界で一番美しく見えてしまう。)」
明彩「ねぇってば!」
鈴木「(ぉぉぉおおおおお!!! 俺のことを認識して話しかけてくれている。すごいことだ。ど、どうする! 俺がこんな美女と友達であっていいのか。教科書を
明彩の机の上に置くと、俺はとっさに机ごと、距離を取った。近くにいたら、心臓が高鳴り平常心が保てない。――明彩さんと一緒の世界に存在し、一緒の空気を吸う。その喜びだけで、この命に感謝し、愛を叫びたくなる。)」
明彩「効果絶大だったりして。さっすが私っ!」
鈴木「(ど、どうして……こっちを見て笑っているのですか? そんな笑顔で見られたら気が狂ってしまう。俺がこんな美人と隣席だなんて奇跡だ。これはアンビリーバボー!)」
――にこにこ。
鈴木「(明彩さんが微笑みながら、首を少し傾げるその姿に、俺の胸は張り裂けそうだった。)」
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