第103話 相合傘

鈴木「(机をくっ付け、真ん中に教科書を置いた。手が届く距離に明彩が隣に座っているだけで、意識しなくてうっとりしてしまう程の甘い香りが鼻まで届いてくる。妙にくすぐったさを覚えつつ、全力で気にしてないふりをする。ここで胸やスカートから伸びる素足に視線を送ろうもんなら、いろいろな意味で俺の負けだ。)」


明彩「ありがとうっ。感謝してる。」


鈴木「別に、お礼を言われるようなことはしてねぇよ。隣席がお前じゃなくても、こうしてるし。」


明彩「そ、そうよね! むしろ私と席をくっ付けられるなんて、逆に私があんたに感謝されてもいいくらいよねっ!」


鈴木「……! お前ってやつは……。(教科書をこちらのゾーンに引き戻してやった。もう見せてやらない。ささやかな反撃だ。だが、すぐに教科書を引っ張り戻され……、おいおい、完全にあいつの机に俺の教科書が行ってしまった。なんて奴だ。美少女ってだけで、甘やかされると思ったら大間違いだぞ。ここは、ガツンと言ってやらないと。)あのなっ!」


明彩「ねえ!」


鈴木「……へ? なに?!(ガツンと言ってやる前に、明彩の方が素早くノートを開いた。)」


明彩「ここにあんたの名前を書くことを許可するわ。」


鈴木「……?(意味も分からず、ノートの真ん中に『鈴木』と書いてやる。すると、すぐさま明彩がその隣に自分の名前を『明彩』と書いた。そして、2人の名前の間に傘のイラストを書き加える。最後にはハートを付け足した。これって……、)」


 ――ドキン


鈴木「(見ているだけで、心臓がはやくなった。なに考えてんだよ! 相合傘だろ!!! 両思いになるおまじないみたいなもんだろ!!! 訳が分からず取り乱しそうになるのを必死に我慢する。)」


明彩「……」


鈴木「……お前?」


明彩「静かにして!」


鈴木「って、こんなの書いておいて……、(明彩はゆっくりと目を閉じると、小さな声で、)」


 ――――

 ――――――――――――



明彩「……天地が分れし時、神は高く貴き高嶺を目指す……、」


鈴木「(明彩の手から親指くらいの小さな結界が現れた。その途端、ノートが風になびく。)」


明彩「……闇も隠れ、月の光は見えずとも、神の名において来れ。我が名を持ち、命を宿す。」


鈴木「(信じられないが、ノートに書かれた相合傘と、2人が書いたそれぞれの名前、それからハートマークがノートから命を持った生命体のように動き出した。なんだこれは……。)」

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