第106話 ……ばか。
鈴木「――明彩!!!(廊下で追いついて、大きな声で名前を呼んだ。)」
明彩「……。」
鈴木「(走って追いついたので、息は荒れていた。それを見た明彩は、少し不思議そうに立ち尽くす。――勘違いかもしれないけど、こんな風に自分を見失い、誰かに気持ちを伝えたいと思ったことは、これまでに一度もなかった。)」
明彩「っ……?」
鈴木「俺とお前は、ずっとずっと前から……。――この世界で生まれる前から、恋人だった。本当は、お前はそれを知っていた。そうじゃないのか?!」
明彩「……ぇっ。」
鈴木「(明彩の表情がみるみるうちに変わっていく。突然のことで目をパチクリさせていたかと思うと、今度は真顔でこちらを見てくる。)……この前の合宿で、地下の図書室に入ったろ。あの時、俺は一冊の本を見つけた。その本には、俺とお前が手を取り合うように微笑んでいる様子が描かれていたんだ。それを見て確信したんだ! 俺とお前は、この世界で生まれるよりも前に、あっちの世界で出会っていた。そうだろ?」
明彩「……ぇっ、と……。」
鈴木「(困惑したように、俯く明彩。しばらくして、それからゆっくりと顔を上げた。その瞳には溢れんばかりの涙が見えた。)」
明彩「……ぁ……っ。」
鈴木「席が隣になった時から、お前の様子が変だと思ってたよ。それは、お前が全てを知っていたからだ。だから、俺に昔の記憶がないことに驚いた。きっと何か、俺とお前は、約束してたんじゃないのか?」
明彩「……どうして、そう思うの?」
鈴木「ほら、俺が妹と10年前に『付き合う』約束をしたって話した時、お前はあっさりその約束を守る方がいいと言った。たった10年前の約束も守れないのかってそんな目をしてた。その時に感じた違和感、それは俺とお前が、うんと昔に何かの約束をしてたってことに繋がると思う。……違うか?」
明彩「……………………。」
鈴木「(明彩の瞳に溜まった涙が、溢れて、ゆっくりと流れおちた。)……やっぱりそうか。何かを約束してたんだな。例えば、もう一度、出会うことがあったら付き合う、とか……?」
明彩「……っ……ぅ。」
鈴木「はっきりと答えてくれよ。いつもはベラベラ喋るくせに。・・・もしかして、一発で正解を言っちゃったとか? それで驚いて何も言えないのか……。……そうか。俺、直感だけは冴えてるからな。」
………………
鈴木「(明彩がじっとこちらを見てくる。そしてゆっくりと口を開いた。)」
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明彩「……ばか。」
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鈴木「(明彩は涙を流しながら、嬉しそうに微笑んでいた。爽やかな風が吹き抜け、明彩の髪が揺れた。聞き慣れたはずの『ばか』って言葉、それが嬉しいと思えたのは、これが初めてだった。――――俺は、ずっと何かを探していた。何をしていても、どこにいても。心にぽっかりと、穴があいていた。その穴を埋める、何かをようやく見つけたのだ――。こんな喜びは、ほかにはない。ありのあままの気持ちを伝えようと思う。)なぁ明彩、聞いてくれるか?」
明彩「……ぅん。」
鈴木「俺たちは、時を超えてやっと出会えた。」
明彩「ぅん。」
鈴木「俺を見つけてくれて、ありがとう。」
明彩「うん。」
鈴木「好きだよ――。」
明彩「――うん!」
鈴木「(体中の細胞が、嬉しくて飛び跳ねた。周りの全てが俺たちのこれからを祝福してくれているような気がする。なんと素晴らしい世界か。隣席のツンデレ美少女は、ただ拗ねてただけじゃなかった。ずっと気づいて欲しいと、心の中で叫んでいたのだ。)気づくのが、遅くてごめんな。」
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明彩「ばか――。」
<ツンデレ美少女が拗ねてて可愛すぎる件・終>
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