第99話 交渉の切り札


――ペタ


――ペタ

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鈴木「(足音と共にゆっくりと、白くて綺麗な毛並みが姿を現した。)」


番人「騒がしいと思って来てみれば、こんなお客人は見たことないですわ。」


明彩「フクロウが喋ったわよっ! もふもふしてて、可愛い!」


涼葉「貴依奈の出番は、なかった。」


柳生「打たせてくれーーー! この地下ごと、あのもふもふを吹っ飛ばしたい!」


鈴木「やめとけ。笹島さんに恨まれても、俺は助けてやれないからな。」


柳生「す、鈴木まで……。無念。」


番人「ここは図書室ですわ。お静かに。今では誰もお客さんなんてこなくなりましたけれど。申し遅れましたわ、私はここの司書、オルと申しますわ。ぜひ名前で読んでもらいたいものですわ。・・・で、あなた方は、どうしてここへ?」


鈴木「(そう言うと、オルと名乗るフクロウは、メガネをクイッと、動かした。」


オル「一体何をしにきたのですか?」


鈴木「(オルの質問に答えるに答えられないでいると、口火を切ったのは笹島さんだった。)」


笹島「あのぉ、オルさん。ここにいるみんなは、高校で図書委員をやっています。ひとつ提案してもよろしいでしょうか。お伺いしたところ、ここにはお客さんが誰もこない。そうですよね?」


オル「そうですわ。昔は賑わっていましたのに、残念ですわ。」


笹島「それなら、ここの書籍を全部、私の高校の図書室に移動させてくれませんか? うちの図書室も、あまりお客さんが多いと言えるほどではありませんが・・・あっ、でも! 最近はここにいる素敵な図書メンバーのおかげで、お客さんがぐぅんと増えたんですよ。だから、ここの本を移動させることが出来たら嬉しいと思いました。どうでしょう?」


鈴木「(さすがの笹島さんのコミュ力でも、これは無理な交渉だろう。はっきり言って、オルにとって魅力的な交渉ではないと思う。)」


オル「その提案は、お断りしますわ。私は司書です。お客さんがこなくても、ここでお客さんを待っていたいのですわ。それに、本を守る義務もありますわ。」


鈴木「(笹島さんは、にっこりと笑う。それから、再び口を開いた。)」


笹島「ひとつ、聞いてもいいですか?」


オル「どうぞ。なんと言われても、私の答えは変わりませんわ。それに書籍の修理がありますので、手短にお願いしますわ。」


笹島「はい。もちろんです。それでは、ひとつだけ。・・・ここの図書室を利用するのは、人間ですか? 妖怪ですか?」


オル「それは、もちろん妖怪ですよわ。」


笹島「そうでしたか。――安心しました。それならオルさんに、頼みたいことがあります。私達の図書室は、夜は開館していません。でも、もしオルさんが私の図書室で、夜の司書さんとして、本を守ってくれる。というのでしたら、ぜひオルさんに、夜の担当になってもらいたいと思っています。つまり、ここの本と一緒に、オルさんをお迎えしたいと思っています。きっとたくさんの妖怪さんが、本を読みに来てくれる図書室になりますね。あはは。」


鈴木「(笹島さんの流れるようなコミュ力は、俺の予想を超えてきた。これはすごいな。交渉も完璧だ。オルさんにとって間違いなく、有益だろう。)」


笹島「すべての人に、すべての妖怪さんに、ぜひここにある本を、自由に手に取って読んでもらいたいと思っています。それとも、夜の当番がひとりだと大変でしょうか?」


オル「わ、私に大変という言葉はありませんわ・・・! どれだけお客さんが来ても、私がいれば問題なんてないのですわ。それに、どうしてもというのであれば、仕方ありませんわね……!」


笹島「どうしても、オルさんが必要なのすよ。夜をお任せできる方なんて、他にはいませんから。素敵なお返事を頂けて、とても嬉しいです。あはは。」


鈴木「(――あっという間に、ここにある書籍が全部、全部! 笹島さんが管理する図書室のものとなった――――。こんなことってありえるのだろうか。夏メ蒼石さんの書籍が全部ある――それだけじゃない……! ここにある本は歴史的価値がありそうな本がずらりと揃っているのは素人が見ても一目瞭然だ。初めて見る古文書から、妖怪が書いた童話に、歴史書、禁止書まで――。これは、とんでもない合宿だぞ。笹島さんの横顔をちらりと見やる。いつものように、上品に美しく微笑んでいる。さっき、夏メ蒼石さんのために、仮にも死のうとしていた人には見えない。まるで別人だ。・・・もちろん、笹島さんの周囲には、いつものように爽やかな淡い光が漂っているので、全く嫌な気はしないのだが。)」





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