第96話 犬神様
鈴木「(明彩の手のひらが光を放ち、妖魔の渦が増していく。涼葉さんの妖魔と比べると、とても弱いが……、それでも俺の妖魔とは比べものにならない。全く悔しいが、頼りにするしかない。)」
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――――――――――――
明彩「天地が分れし時――。」
鈴木「(明彩の手から結界が現れ、静かに風が舞う。)」
明彩「――神は高く貴き高嶺を目指す、闇も隠れ、月の光は見えずとも、神の名において来れ。我が名を持ち、命を宿す。」
鈴木「(犬の縫いぐるみの上に、小さな結界が重なる。そして、犬の縫いぐるみは、閃光すると、烏帽子(えぼし)を被り、平安貴族の正装・束帯を着た犬が動きだした。)」
明彩「どうよっ! 私の妖魔もなかなかやるでしょ!?」
笹島「わんちゃんですか。小さくて可愛いですね。あはは。」
鈴木「(笹島さんが、いつもの笑顔に戻っていた。それを見て安心したいところだが、)――こんな動く縫いぐるみで、あの夏メを倒せるのか? ここは、はっきりと言わせてもらおう。絶対に無理だ。」
明彩「犬神様に失礼でしょ! 謝りなさいっ。呪われるよわっ!」
鈴木「呪う? この縫いぐるみがっ?」
明彩「あんた2回も、犬神様をバカにしたわねっ!」
犬神「ごっほん、いや。構わぬ。」
鈴木「喋った……。」
明彩「当たり前でしょ。本当にバカね。あのね犬神様、このバカのことは、許してあげてください。何も知らなくて、口ばっかり。美少女とか、エロいことしか考えてない、ただのお調子者なんです。」
鈴木「(すげームカつく……。どうしたらそんな悪口が思いつくのだろう。)分かった、いいから。早くあの化け物を退治してくれよ。」
明彩「犬神様は、喜怒哀楽が激しく、情緒不安定な人間には効果は抜群なのよっ! あんな奴けちょんけちょんにしてくれるわっ!」
鈴木「(……けちょんけちょんって、久しぶりに聞いたな……。)」
笹島「頑張ってください。応援してますからね!」
鈴木「(そう言いながら、笹島さんが犬神様の頭をなでた。なんとも嬉しそうに、尻尾を振っているではないか。)」
笹島「おてっ。」
犬神「わんっ!」
鈴木「(器用だな。だが……これは、ただの犬だ。期待値が、ますます下がってしまった。が、この犬神様にすがるしかないのも現実だ。犬神様が、夏メに向かって歩き出した。)」
夏メ「おーや! 何かと思えば、憑き物。蠱術(こじゅつ)、すなわち呪いとは危険でっす! こっちのかまいたちといい、今度は犬神とは、本当に厄介でっす!」
犬神「ほっほっほっ! なにやらとんでもない力の持ち主と見ましたよ。けれども、相手が悪かったですね。瞬殺してあげましょう。」
鈴木「(夏メは紙と筆を持つと、美女と雪と書いた。とたんに、紙が雪女に変わる。それは、まるで魔法のようでもあった……。雪女の手からは、吹雪が放たれ、犬神様を狙う。)」
明彩「……っ犬神様! 交わしなさいよっ!」
鈴木「(次第に雪女の手からは、氷の固まりが飛び出し、床まで凍らせていく。なんたる威力か……。犬神様は、ギリギリのところで交わしているが、やはり押されているのは、犬神様の方だ。防戦一方で、見ちゃいられない。」
夏メ「全てを凍らせて、殺してあげまっす!」
鈴木「(犬神様の逃げ場は、徐々に少なくなっている。それに、あんな氷の固まりを、まともにくらったら、終わりだろう。)」
夏メ「――これで、最後でっす!」
――
――――――バキッ。
鈴木「(雪女が最後の一撃とばかりに、巨大な氷を放つ。なんとか交わそうとする犬神様の足に、氷が当たってしまった。」
明彩「キャッー!!! 犬神様が……死んちゃう。」
鈴木「ダメだったか、仕方ない。俺が突っ込んで、なんとか時間を稼ぐ。だからその間に、明彩と笹島さんは、柳生さんを抱えて逃げろ!」
笹島「そんな、鈴木くん……。」
明彩「そうね。ここは、鈴木の言う通りにしましょう! あとで、蘆屋道満を連れて来てあげる。……多分。」
鈴木「頼りない返事だったように思うが……、頼むぞ!(考えたところ、何か現状が良くなる気がしないのだ。ここは、俺がなんとかしないと――!)」
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