第95話 あらがう弱者
鈴木「……笹島さんの言いたいことは、よーく分かった。けどよ、それじゃ俺の気持ちは、納得できねぇよ! 明彩に涼葉さん、柳生さんをこんな目に合わされて黙って見てられるかっ! おまけに、笹島さんが化け物に食べられる! ふざけんじゃねぇよ!」
……
………………
笹島「…………鈴木くん。でも、これは笹島家の問題だから……。みんなを巻き込んで申し訳ないとは思ってるよ・・・。」
鈴木「いいや、笹島さんはなぁんにも分かってねぇ! 目前で笹島さんが、妖怪に食べられるのは、俺の問題だ! よって、笹島さんの主張は認められない。笹島さんがどれだけ、辛い思いをしてきたか、俺は知らない。けど、俺の前で笹島さんが妖怪に食べられたら、俺がどれだけ悲しむのかを、笹島さんは知らない。それにな、その化け物は笹島さんを食べたあとは、俺たちのことも、逃しちゃくれないだろうよ!」
夏メ「つべこべうるさいでっす! 私の食事の邪魔をするなでっす! この娘が私に食べられたいと言っているんでっす! なんの問題もないはずでっす! それとも、お前が先に食べられたいのかでっす!」
鈴木「……俺には、何の力もねぇ。お前と戦っても、勝ち目はねぇよ! けどよ、少しだけ、俺も妖魔ってやつを、使えるようになったんだよ。その妖魔で、何が出来るか分かるか?」
夏メ「お前の妖魔? 全くもって非力過ぎて、何も感じないでっす!」
鈴木「あぁそうだ! 俺の妖魔は微力で非力だ。でもよ、感じるものには、きちんと伝わってるんだよ!(ただ時間稼ぎで無駄話をしている訳ではない。そう――僅かながらに、涼葉さんに妖魔を送り続けているのだ。つまり、涼葉さんがそろそろ、俺の妖魔によって……。)」
夏メ「雑魚など――無視して、あぁああ素晴らしいでっす! 美しい肌でっす! こんなにも美味しそうな体は初めてでっす! すべすべしたこの体、私の血となり肉となるのでっす!」
鈴木「(夏メが笹島さんの裸体に舌を這わせた。見ているだけで、吐き気がする。その刹那――渦巻状に突風が吹き荒れた。」
――
――――――
――
――――――ビュー、
――――――――――――ビュー!
鈴木「(――風の正体は、涼葉さんの妖魔だ。俺には、見える。風の中に、刀のような爪を持つイタチが、はっきりと見える。そのイタチが、涼葉さん達を縛り付けている蜘蛛の糸を切った。――ゆっくりと立ち上がる涼葉さんの目は、見たこともない光を放っていた。)あんな怒りに満ちた涼葉さん初めてだ。」
夏メ「おやおや、華奢で可愛い女の子が、こんな力を持っているとは、驚きでっす! それでは、私も本気を出させてもらいまっす! 長く生きていると、不思議な力が身につくものでっす!」
鈴木「(夏メは、紙と筆を取り出すと、そこに鬼熊と、文字を書いた。すると、紙はあっという間にたたみ6畳分はある巨大な熊へと姿を変えたのだった。俺は、とっさに意識を失っている明彩と柳生さんを、なんとか物陰に運び込んだ。もちろん、笹島さんも無事に避難している。残念なことに、笹島さんの服までは持ってこれなかったが、それは許してもらいたい。)」
夏メ「お望み通り、ここにいる全員を殺してあげまっす!」
鈴木「(鬼熊が、涼葉さんに向かって爪を突き立てた。涼葉さんは、刀のような鉛筆で必死で堪えている。が、しかし……。鬼熊の力が強いのだろう、涼葉さんが押されている。いつものことだが、戦いとなると涼葉さん頼みなところがあるからそこは、力負けしないで欲しんだが……。やばいぞ、これは・・・。)」
……
…………ちょんちょん。
鈴木「ん?」
……
…………ねぇってばっ!
鈴木「(振り返ると、意識を取り戻した明彩が、俺の背中をツンツンしていた。)なんだよ! お前と遊んでる場合じゃない、この状況をよく見ろ!」
明彩「違うわよっ! さっき渡した犬の縫いぐるみ、まだ持ってる?」
鈴木「……縫いぐるみ!? あぁ持ってるよ。」
明彩「じゃちょっと床に置いて! はやく!」
鈴木「なんでだよ?!」
明彩「いいから――!」
鈴木「(俺は、明彩に急がされるままに、ポケットから犬の縫いぐるみを取り出すと床に置いたのだった。)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます