第94話 最後の償い

鈴木「(足が震えて、呆然と立ち尽くす俺の横で、笹島さんがゆっくりと口を開いた。)」


笹島「夏メさん、ようやく会えましたね。とっても嬉しいです。私は、夏メさんのこれまでの作品を全て読んでいるんですよ。つまり、夏メさんは私にとっての、憧れの人――。現在の今になっても、どこからともなく現れる夏メさんの小説も全部読んでるんですよ。……でも実は、最近の夏メさんの作品は、あまり好きではありません。どこか人間味にかけているというか……。そうですね、単刀直入に言わせてもらうと、ワクワクしないんです。でも、ここに来てその全ての謎が解けました。夏メさんには、もう面白い作品は書けません。だってあなたは妖怪、いいえ、悪魔に魂を売ってしまったのですから。でも忘れないでください……、私は夏メさんの小説が、本当に大好きだったんです。昔の作品は本当にどれも素晴らしいものだった。一文一文、どこを切っても血が噴き出すような文章で、それはまるで龍が飛び出すような感覚でした。憧れの人に、お願いをするのは、少しばかり恐縮ですが、……もし夏メさんが小説を書くために、血と肉が必要だと言うのでしたら、どうか私を食べてください――。私の血と肉でその体を満たしてください。――でも、一つだけ。約束して欲しいんです。人間を食べるのは、私で最後にしてくれませんか――。」


鈴木「(笹島さんは、ゆっくりと服を脱ぎ裸になると――、夏メ蒼石の元へと一歩一歩近づいていく。……待てよ。笹島さんが、妖怪に食べられる。……そんなこと黙って見てられる訳ないだろ……。何か何かできるはずだ。その時、ポケットに入った犬の縫いぐるみに気がついた。)」


笹島「――鈴木くん、ごめんなさい。みんなを変なことに巻き込んでしまって……。こんな私を許してくださいね。私は、夏メ神社の噂話を知った時からずっとこうしたかったんです。大好きな夏メ蒼石さんを助けたいと思っていたんです。苦しみなが、魂を失っても、それでもなお小説を書き続ける夏メ蒼石さんを救ってあげたいと思っていたんです。だって、それが出来るのは私だけなんです。」


鈴木「意味が分からない……。分かるように説明してくれないか?」


笹島「あはは。そうですね。実は、私と夏メ蒼石さんは、血が繋がっているですよ。ご存知かもしれませんが、夏メ蒼石さんの小説を独占販売しているのは、笹島書店です。つまりは、夏メ蒼石さんは、人を食べながら、笹島書店のためだけに、作品を書き続けてくれていた。私は、それが辛かったんです。なんの罪もない人を食べ、笹島書店の繁栄のために人が死ぬ。これまでに夏メさんに食べられた人に謝りたい。でも、どれだけ謝っても、きっと許されることではないですよね。だから、鈴木くん。止めないでくださいね。」


鈴木「そんな・・・。」


笹島「図書委員のことは、これからも皆さんでうまくやってください。素敵なメンバーが集まりましたし、もうなんの不安もありません。あはは。皆さんと会えて、楽しかったです。」


鈴木「(笹島さんは、いつものように笑っていた。そして、夏メ蒼石を抱きしめるその姿は、いつものように爽やかな風が吹いていた。)」


笹島「夏メさん、本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。さあ、一緒にあの世に行きましょう――。」




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