第87話 クール美人の初めの一歩

鈴木「(――最終候補者の3人は黙々と本を読んでいるが、水着で読書というのは、違和感しかない……。それぞれにお尻から腰、胸のラインがすごく魅力的で視線のやり場に困ってしまう。すごくエッチだ。――違うっ! とても似合っている。それは俺の意見ではなく、利用者がどんどんやってくるのだから間違いない。とうとう新聞部まで駆けつけ、3人のしれつな最終決戦を見守っている。)」


新聞部「インタビュー宜しいでしょうか? 笹島さんは、この図書委員をまとめていらっしゃるのですよね? 今の気持ちを聞かせてください。」


笹島「はい。まず、みなさん――本屋さんが、どんどん潰れていることは、ご存知でしょうか? このままだと町から本屋さんは、消えてしまうでしょう。でも、本を好きな人が増えて、本を好きになった人が本屋さんで本を買ってくれれば、本屋さんも潰れずにすみます。だから、私にできることは、小さなことかもしれませんが、図書室を利用してくれる人が増えて、本の楽しさを知ってもらいたいと思っています。」


鈴木「(笹島さんは、さらりと言っているが、スケールが大きくて、格好良すぎだろ。笹島さんと、一緒にいられることが、誇りに思えてくる。この水着審査を、エッチな目で見ていた自分が情けない。)」


新聞部「そうですか、素晴らしいですね!!!」


――

――――――キーンコーン カーンコーン♪


鈴木「(ついに、チャイムがなった。)」


笹島「それでは、新しい図書委員を――――――」


鈴木「(笹島さんが、決める新メンバーなら俺に口出す権利はない。さあ新しいメンバーを選んでくれ! 明彩と柳生さんも、固唾を呑んで見守っている。新聞部がカメラを構えた。)」


笹島「発表します。新しい図書委員は、――――田中涼葉さんです。おめでとうございます。」


新聞部「どうして田中涼葉さんなのですか? 一言お願いします。」


笹島「彼女は、毎日毎日図書室に通ってくれている人だからです。きっと彼女は、図書室が、本が好きなんです。私は、そんな彼女と一緒に仕事がしたい。そう思ったんです。」


鈴木「(なんかぐっと込み上げてくるものがあった。明彩と柳生さんも、感動しているのか、若干目がうるうるしてるように見える。)」


新聞部「田中涼葉さん、今の気持ちを、ここにいる皆さんに、お願いします。」



…………


……………………

……………………………………


鈴木「(長い沈黙。涼葉さんが、口をぱくぱくさせて、必死のおもいで、何かを伝えようとしている。涼葉さんは、不器用で自分の感情とか、想いを人に伝えるのが苦手な人だ。でも、がんばって欲しい。涼葉さんの、気持ちを知りたい。)」


…………


……………………

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…………


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…………


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涼葉「……私は、一人ぼっち。でも、どんな辛い時も苦しい時も、本は、私を楽しい世界に連れて行ってくれる。本は、私を否定しない。本は、私を拒まない。私を一人にしない。だから、私は――――――本が好き。」


……

………………


………………

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………………………………………………………………………………………………


鈴木「(涼葉さんが肩で息を吐きながら、懸命に話すその姿は、胸が締め付けられるものがあった。でもどうしてだろう。図書室は、静まり返っている……。)」


……

………………


………………パチ

………………………………パチ パチ パチ


パチパチ パチパチ

パチパチ パチパチ

パチパチ パチパチ


鈴木「(いつしか図書室は、拍手で包まれていた。これまで、ずっと1人だった涼葉さんが、初めて人に受けいれられて瞬間だ。)」


パチパチ パチパチ

パチパチ パチパチ

パチパチ パチパチ


柳生「涼葉!!!」


鈴木「(柳生さんが涼葉さんに駆け寄り、抱きしめた。明彩は、やはりまだじっとして動けないでいる。だから、俺はこう言ってやった。)――お前と涼葉さんは、裏と表。だけど、一心同体。だから分かち合うのは難しいのかもしれないけど、学校でも仲良くすればいいんじゃないの。別に双子って設定でいいだろ。ほら、近くで、おめでとうって、言ってやれよ。」


明彩「言われなくても、分かってるわよっ。」


鈴木「(明彩が足を進ませていく。そうして、涼葉さんの前で、にっこりと笑った。)」


明彩「――――涼葉、良かったねっ。おめでとう――。」


涼葉「うん。」


鈴木「(涼葉さんは、嬉しそうに笑いながら、泣いていた――。きっときっと、これで、涼葉さんは、ぼっちを卒業するだろう。そして、友達もできるだろう。俺もそれを心から願っている。涼葉さんにとって、これが人生の初めの一歩になることを――。)」

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