第86話 図書室で水着審査

――ギャー!

――キャー!!!


鈴木「(カウンターの方で悲鳴が聞こえて、慌てて笹島さんが駆け出した。俺もその後を追う。カウンターに設置されている机の上で、椅子をブンブン振り回している柳生さんの姿に唖然とした。)」


笹島「ど、どうしたのかな?」


明彩「合宿に連れてけってハエみたいな利用者が多いから、貴依奈に頼んで追い払ってもらってんのよ! 手荒い方法だけど、効果は抜群よっ! やれやれ! 貴依奈もっとハエを追い払いなさい!」


柳生「承知した!」


鈴木「(……やっぱりバカ。同じ図書委員として恥ずかしい。……しかし、笹島さんの方法では、ひとりひとり丁寧すぎて、らちが明かなかった。ここは笹島さんの出方を見るとしよう。)」


笹島「柳生さん明彩さん、図書室のために、体をはってくれてありがとう。少し派手でしたけど頼もしくて、びっくりしましたよ。あはは。でも、入ってもらったばかりの柳生さん1人に、悪役を背負ってもらうのは、申し訳ないので……そうだなぁ。あっ! いいことをひらめきました。1名だけですけど、図書委員のメンバーを増やすことにしましょう!」


鈴木「(本当にそれでいいのか……? さっきは全員断るって言ってたけど。)」


笹島「でもね……、試験を合格できればのはなしですよ。最初に、図書委員としての基礎テストをおこないます。私が以前に考えた問題があるので、こんなところで役立つだんて嬉しいな。それじゃ図書委員に入りたい方は、こちらの問題用紙に回答してくださいね。」


鈴木「(なるほど。これなら公平かつ笹島さんが求める素敵な人材が加わるだろう。にしても、こんな数の希望者じゃ……。ん? 問題用紙を見せてもらっているが、難しすぎる。専門用語が多くてさっぱり分からん。――なるほど! 笹島さんは、全員をこのテストで落とすきなのだ。流石だな。)」


笹島「はい、テストはここまで、回収しますね。皆さん、お疲れ様でした。」


鈴木「(さっそく仕分けして、集まった回答用紙を採点する。その間にも、テストに自信が持てなかった者がぞろぞろと退出していった。そして、3名だけが高得点を叩き出し、次の審査へと進むことになった。)」


笹島「どなたも素敵な方ばかりですね。」


鈴木「(残ったのは、見た目は地味だが、学内でも成績がトップクラスの2人に加えて、………………まさかすぎる美人が1名。影が薄くてさっきまでいたことにすら気がつかなかったわけだが――。そう彼女の名前は、クール美人こと涼葉さん……。もし、涼葉さんが図書委員に入るようなことがあったら、俺の心臓はいくつあっても足りない――。ましてや合宿だぞ。ちょっと、想像するだけで有頂天な気持ちになる。青春がこんなにキラキラ輝いていていいものだろうか――。)」


明彩「じゃ次は、もちろん水着審査でいいのよねっ! 私が特別に用意したこの水着に着替えて! 男子の利用者を釣るには、水着が一番。きわどい露出が魅力的な水着よ! 着こなしてこそ、真の図書委員だわ。」


鈴木「(全く意味が分からん理屈を押し通すところが明彩らしい……。笹島さんは、やや押され気味で、にこやかに笑ってはいるが、さすがに困惑しているようだ。しかし、勝手に水着審査が始まってしまった。)」


明彩「うん。メガネに水着はありよね。ポニーテールに水着も好きだわ。」


鈴木「(お前の趣味は聞いてない! それにしても、水着審査ってちょっとドキドキする。へんな気がなくても、体のラインとか、お尻とか、胸にどうしても視線がいってしまう。)って――この水着審査になんの意味があるんだ!? やっぱり理解できん!!!」


明彩「決まってるじゃない! 合宿と言えば海!!! そしたら当然、水着が似合わないと、一緒に楽しめないでしょ!」


鈴木「うん。やっぱりバカだな。セクハラ発言だぞ。」


明彩「うっさいわね!」


鈴木「そもそも行き先だって、まだ決まってないだろ。」


笹島「まぁまぁ喧嘩しないでください。皆さんの水着姿、よくお似合いですね。時々はクールビズで、水着で接客してもいいのかもしれません。そしたら取材が来て、テレビでも取り上げられたりするかもしれませんね。」


鈴木「(いや、笹島さん……。明彩の奴に優しく同調してあげる必要なんてありませんから! でも、それが笹島さんのいいところでもあるんだよな……。)」


笹島「では、最後に図書室が閉まるまでの間、静かに好きな本を読んでください。」


明彩「――――――それって水着のままよねっ!」


鈴木「なんでお前が一番興奮してんだ!!!」


笹島「あはは。喧嘩しないでくださいね。本当におふたりは仲が良くて、羨ましいです。分かりました。では、水着のままお願いすることにしましょう。」


明彩「水着で読書なんて、可愛すぎる!!!」


鈴木「でも、どうして読書が最後の審査なんだ?」


笹島「図書委員になれば、1日中、本を読んで図書室に入れたい本を選ぶ選書と呼ばれる仕事があります。それは、大変な仕事です。ですから、静かに本を読むのが苦手な人ではむいてないんです。本を読むのが、本当に好きな人に入ってもらいたいんですよ。」


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