第83話 転校生
鈴木「(後日談。妖怪町で牛鬼を退治した俺たちは、それから英雄のような扱いを受けた。もちろん傘は、自由に好きなものを選ぶことができた。それはもう夢のような一夜を過ごし、盛大にチヤホヤされた。唯一心残りといえば、柳生さんに黙ってこっちの世界に戻ってきてしまったこと……。あんなド変態な女の子でも、一緒に戦った仲間と、もう会えないかと思うと寂しい気持ちだった。それにだな。秘密ではあるが、もっとくすぐってみたかった。でも、青春には出会いと別れはつきものだろう。俺は今、ホームルームが始まるまえの教室で、ひとりぼんやりと青い空を見上げているわけで……。頬をなでる風すらも心地よく思え、平和なひと時を噛みしめているところだった。)」
明彩「おっはよう――ネギ男っ!」
鈴木「……懐かしい声だ。」
明彩「なにバカなこと言ってんの? 毎日会ってるでしょ! 暑さのせいで、頭おかしくなったんじゃない。」
鈴木「……隣席に、学年一の美少女がいる学園生活。それは、まさに俺が夢見た理想郷。誰もが羨む特等席。」
明彩「理想郷? 特等席? あんたの頭の中は、毎日がお花畑ね?」
鈴木「お花畑かぁ、行ってみたいなぁ。」
明彩「なんか……気持ちわるいっ!」
鈴木「一緒に行くか? お花畑でも、海でも? (妖怪町以外ならどこだっていいぞ!)」
明彩「朝から毒でも飲まされたんじゃない? それとも、幻を見る呪いとか?」
鈴木「俺はいつも通り、平常心だよ」
明彩「ふぅ〜ん、まぁいいわ。で、妹さんとはうまくやってんの?」
鈴木「……妹。それは今思い出したくないワードだ。ここは妹も妖怪もいない。平和なホームルームが始まるまえの時間。なにも考えなくていい時間。あぁぁ素晴らしい。」
明彩「あっそ。」
……
…………ガラガラ ガラガラ
…………ガラガラ ガラガラ
鈴木「(担任の先生のが入ってきた。さぁ1日が始まる。)」
担任「今日は、転校生を紹介するぞ。入って!」
鈴木「(転校生がゆっくりと、教室に入ってくる。その人物が一歩、足を教室に踏み入れただけで、クラス全体が光のような泡で包まれた。それだけで、転校生が超絶美少女だと分かる。これは、とんでもない美少女がやってくる――――――。世の中の男性が思い描く理想を、はるかに超えた、美少女に違いない!)」
――――――
――――――――――――ワクワク。
――――――
――――――――――――ドキドキ。
――――――
――――――――――――ハラハラ。
鈴木「――――――ええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!)」
柳生「――――はじめまして、柳生貴依奈(やぎゅうきいな)と、いいます。よろしくお願いします!」
鈴木「(制服姿でにっこりと笑いながらクラスメイトにあいさつする柳生さんが……そこには立っていた。)」
――――
――――――――可愛い!
――――――――すっげぇ可愛い!
――――――――付き合いてぇ!!!
鈴木「(クラスメイトが騒ぎ出している。その気持ちは分かる。分かるのだが……。
柳生さんとのあんなことや、そんなことは――いい思い出のまま閉まっておきたかった。)」
担任「柳生さんの席は、後ろの空いてる席だ。みんな宜しくな。仲良くすること。」
鈴木「(何故か、柳生さんがまっすぐに俺の方に向かって歩いてくる――。)」
――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――
鈴木「(教室が再びざわつきはじめた。まぁそうだろう。こんな可愛い転校生が、突然俺の方に向かってくるのだ。そうして、俺の前で、柳生さんは足を止めた。)」
柳生「――鈴木君、会いに来たぞ!」
クラスメイトA「――なんで、鈴木なんだよ!」
クラスメイトB「――どんな関係だ!」
クラスメイトC「――俺にも柳生さんを紹介しろ!」
鈴木「(いや、そんなこと言われましても……。次の瞬間、柳生さんは視線を俺の隣に向けて、大きな声をあげた。)」
柳生「――――――あああああああ! 姫様!」
鈴木「っ……へ?」
柳生「明彩姫!」
鈴木「(お、お前ら……知り合いだったのか。冷静に考えるとだな……、涼葉さんと知り合いってことは、明彩とも知り合いだろうな。……明彩に抱きついて、嬉しそうに、にこにこする柳生さんに、クラスメイトが唖然としている。これは、俺の学園生活に、新しい風が吹き荒れそうだ――。)」
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