第80話 魂が震えた柳生さん
――――――川に現れる、牛鬼を退治せよ。――――――
鈴木「(今まさに。濁った川の淵から、胴体は蜘蛛、頭は牛、鬼の角を持つ牛鬼が、河岸に上がってこようとするその姿は、悪魔そのものだった。足が勝手に、一歩一歩……、後ずさりしてしまう。)」
柳生「気をつけろ。あいつは非常に残忍で性格も悪く荒々しい。毒を吐き、人の影を踏むだけで人を食い殺す。」
牛鬼「ググググ、グググ……。」
柳生「私は、お前に出会える日をずっと待っていたのだ。大人しく、退治されるがいい!」
涼葉「牛鬼退治開始する。」
鈴木「(そう言いながら、刀のような鉛筆を構える涼葉さんに――向かって、)」
牛鬼「ググググゥーーー!」
――
――――――――グゥーーーー!!!
鈴木「(と、牛鬼が毒を吐いた。瞬時に柳生さんが涼葉さんを抱えて毒を交わす。)よしっ、いいぞ! この2人ならなんとかいけるっ! そんな気がする!」
柳生「……そう願いたい。そうあってくれ!」
涼葉「心臓がドキドキする。好きな人を前に、危険を感じる。死と隣り合わせの緊張感、これこそデートの醍醐味。」
鈴木「あぁぁあ間違ってる人がいる……。」
涼葉「好きな人の前で、弱さは見せられない。」
鈴木「――涼葉さんっ! かまいたちで、真っ二つに切って牛鬼を丸焼きにして今夜は最高のディナーにしよう!」
涼葉「ディナーの後は、甘えさせて。お願い――。」
――
――――――
――――――――――――オオオオオオオオオォォォ!!!
鈴木「(刀のような鉛筆を構えた涼葉さんが、牛鬼に向かって行く。)」
涼葉「全力でいく。えええぇぇぇえいいい!!! 影さえ踏まれなければ!!!」
鈴木「(涼葉さんは、空へと飛び上がると、上空で刀のような鉛筆を振りかざした――)」
――シュ!!!
鈴木「す、すごい……!。(カンカンと照りつけていた太陽の光が、この上空だけ消えた。もちろん俺達の影もない。つまり、空間を切り取ったのだ。……が、牛鬼が蜘蛛のような足をカサカサ動かし、涼葉さんの着地する場所まで行くと、頭の角を突きつけた。)」
――グヂュッ!!!
鈴木「(間一髪のところで、体を反転させた涼葉さんの心臓に角が刺さることはなかったが……、右腕を負傷し、出血している。これじゃもう刀は振れない。すぐに牛鬼から距離をとった涼葉さんにかけよると、俺はしっかりと涼葉さんの体を支えた。)」
鈴木「しっかりして!」
涼葉「……強く抱いて。」
鈴木「(目をウルウルさせて、甘えてくる涼葉さんを見て、少し安心する気持ちと、その……言いにくいのだが……、この変態! と、思わず叫びたくも衝動もあった。)」
柳生「涼葉は休んでろ。涼葉のおかげで、影は消えた。あとはなんとかしてみせる!」
……
………………
…………………………カサカサ、カサカサ。
……
………………
…………………………カサカサ、カサカサ。
カサカサ、カサカサ。
カサカサ、カサカサ。
カサカサ、カサカサ。
鈴木「牛鬼の様子が変だぞ……。」
――――
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――ニュン、ニューン!!!
鈴木「おい、まじかよっ。牛鬼の胴体にでっかい昆虫の羽が生えたぞ!(それから牛鬼は、羽をバタつかせて空へと跳ね上がると、涼葉さんが切り裂いた空間の割れ目を食べてしまったのだ。太陽が再び降り注ぐ――。)」
涼葉「泣いた。」
鈴木「その気持ちは分かる。でもおーい、涼葉さんっ! 泣かない泣かない。今は泣いてる場合じゃないだろ!(どさくさ紛れて、おっぱいをすり寄せてくる涼葉さんの思考は、理解できない。いいや、理解したくない。)」
柳生「…………伝説によると、1日にして、城が滅ぼされ、一国が沈んだ。その時も空を自由に飛び回ったと言われている。」
鈴木「……どうする、どうする!?(恐怖に足が震えて、逃げるに逃げ出せない。その時、俺の思考を阻止するかのように、柳生さんが何かに取り憑かれたような声で話し始めた――。)」
柳生「――た、た、魂が震える――とはこのことだ。これほどまでの圧倒的な敵を前に、我が奥義を披露する衝動が抑えられるだろうか――。あぁぁ神よ、許し給へ。力を与え給へ。はぁ……はぁぁ……。し、し、痺れる、痺れるぞおぉぉぉおおおお!」
鈴木「っえ……?!」
柳生「鈴木、止めてくれるな。」
鈴木「(……いや、止めてませんけど。それに、あまり期待は……してません。。。そんな俺を笑うかのように柳生さんは、鎖鎌を構えると、空に掲げポーズを決めた。えぇっと、すげぇかっこいい。……やがて風が――吹き荒れ――――――)」
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柳生「――水は澄み渡り、石は流れ、」
鈴木「(鎖鎌の前にいくつもの結界が次々と現れる。これが異世界の本当の力……チートスキル。信じられない妖魔の力が渦巻いている――。)」
柳生「――木の葉は沈み、牛は嘶(いなな)く、馬は吼(ほ)え、我が名において、大和の国を、押しなべ、爆炎の咲く花に、ほふがごとく今盛りなり。高照らす、神ながら、神さびせすと、宿りせす、いにしへ思ひて――きたれ!!! これが、柳生新陰流、宝蔵院爆炎龍(ホウゾウインバクエンリュウ)ーーーーー!!!」
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