第79話 柳生貴依奈
鈴木「(気絶した涼葉さんが目を覚ましたのは、)」
村人「おーい! 赤い橋の下に、牛鬼が出たぞおー!」
鈴木「(と、慌てて逃げ出す村人達と遭遇した時だった。)」
涼葉「ついに、牛鬼との遭遇。妖怪町でも上位の化け物。」
鈴木「いや、待て待て待て! そんな化け物に勝てる自信があるのか?」
涼葉「正直ない。可能せはゼロ。」
鈴木「これはダメだ。涼葉さんはやっぱりダメな人だ。じゃ俺達も逃げようっ! え……。って……おい! (人の話を聞かずにどこかに歩き出す涼葉さん。その行く先へと視線を向ける。……村人達が逃げ惑う中、一人だけぴょんぴょん飛び跳ねている、高校生くらいの女の子がひとり……。その子に、涼葉さんはゆっくりと近くと、突然刀のような鉛筆を取り出し――。)」
――シュ!
鈴木「(刀を振りかざした。)」
ッ――スゥ。
鈴木「(見事にそれを交わした女の子は、一瞬の間もあけずに、涼葉さんの背後に回り込むと、そのまま短剣を涼葉さんの首元に突きつける――。)」
……風が止まる。
鈴木「ちょっ――待ったあぁぁぁあああ!」
涼葉「……腕はおちてない。」
鈴木「(……は? どういう意味でしょう?)」
女の子「突然斬りかかってくる無礼者が誰かと思えば、涼葉か。久しぶりのあいさつにしては、度が過ぎているな。まぁ私は、涼葉に斬られるようなやぼではない。」
鈴木「(そう言いながら、羽織っていたマントをぬぐ女の子は、忍装束に身を包んでいた。しゅっとした鼻筋に、大きな目、細い体のラインが特徴的だ。この細さが俊敏な動きを可能にしているのかもしれないな。それに、お腹を出しているあたりが、異世界らしくて、目のやり場に困るわけで……。)」
女の子「で、そっちの弱そうな男は誰だ?」
涼葉「鈴木は、人間界の同級生。」
鈴木「(……恋人って言ってくれるのかと、少しだけ期待してしまった……。)」
柳生「私は、柳生貴依奈(やぎゅう・きいな)、見ての通りくノ一だ。」
鈴木「涼葉さんっ! 柳生さんって、すごく頼りになりそうな子じゃないですか! これなら鬼牛退治も楽勝なのでは?」
涼葉「貴依奈は、弱い。」
鈴木「……え? 弱い?」
涼葉「正確には、貴依奈は、――くすぐりに弱い。」
鈴木「今はそんなこと関係ないでしょ! ……でも、それを聞いてしまうと、くすぐりたくなるじゃないですか……。」
柳生「き、きさ。ま、まてっ! 初対面だぞ! 無礼者!!! ……や、やめろおおお!」
鈴木「(両手で、くすぐるポーズをとり、一歩近づくと――)」
――キャァァア
鈴木「(……柳生さんは恥ずかしそな声をあげて、頬を朱色に褒めていた。)」
柳生「わ、私をいじめて何がしたいのだ。私はくすぐられるポーズを取られるだけで、性感帯が、感じてしまう体質なのだ!!! 愛汁が滲み出て、ぐちゃぐちゃになってしまうぅ。頼む、それ以上近づな!!! そのポーズのまま近づくなぁ……あぁ……あっぁ……。っ……ぁ……っぁぁあ。か、感じてしまうのだぁ。お、お願いだ、やめてくれええええええ!!!」
鈴木「恐ろしい。ここまでの……超変態が存在していたとは。やはり牛鬼退治の戦力しては期待しないでおこう。」
涼葉「鈴木、いじめるなら……私にして。いや、違う。」
鈴木「(と、言いながら、すでに感じてしまい、涙目になっている柳生さんのもとに優しく寄り添う涼葉さん。)」
涼葉「先ほど、村人達が急いで逃げていく中、貴依奈はジャンプをしてた。あれは、単なるジャンプではない。誰にも影を踏まれないようにするための訓練。」
鈴木「訓練?」
涼葉「そう。牛鬼の特徴、それは人の影を踏むだけで、その人を喰い殺す――。」
鈴木「(がっぶは……。突如胃酸が込み上げてきて、気持ち悪くなってしまった。そして、体中の震えがとまらない。)」
柳生「もし、涼葉が牛鬼退治に行くつもりなら、私は力をかす。あれはもう昔のこと……。私が室町時代に生きていたころの話だ。私のお殿様は、あの牛鬼に殺されてしまった。だから牛鬼を退治する、それは私の悲願でもあるのだ――。」
涼葉「私は、共に戦う。」
柳生「うん! 涼葉がいれば、牛鬼退治だってなんだって出来る気がする。」
鈴木「(いや、しません。しませんから! なのに……涼葉さんと柳生さんは、見つめ合い、手を取り合っている。その姿は微笑ましく見えるのだが……、やはり期待はできません……。)」
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