第76話 初デート

鈴木「(パンツ姿で草原に立つ涼葉さんは、絵に残しておきたいほど可愛かった。が、凝視する勇気はなくて……。すぐにスカートを履かせてあげたのはいいのだが、顔を真っ赤にした涼葉さんの頭からは、湯気が上がっていた。それから涼葉さんは突然、刀のような鉛筆を取り出し――、)――待った待った!」


涼葉「恥ずかしい。死んだ方がまし。」


鈴木「切腹とかなし! これからデート! だろ?!」


涼葉「鈴木がそこまで言うなら。デートしてあげる。」


鈴木「はいはい……。分かりましたよ。ぜひデートしてください。(涼葉さんは、刀のような鉛筆をしまうと、」


涼葉「ついて来て。」


鈴木「(と、歩き出した。初デートだからアイスを食べたり、映画を見たり、そういうのを期待してしまう。少しは手を繋いだりとか、そういうカップルみたいなことも……。と、願うわけだが……言葉にはなかなか出来ない……。・・・っん? 涼葉さんは、駅前を通り過ぎて、どこかに向かっている。ってことはこれで映画もアイスもなさそうだな。川が流れる小さな橋を渡って路地へと入って行く涼葉さんに、俺は声をかけていた。)……そっちは、行き止まりじゃ?!」


涼葉「いいから、きて。」


鈴木「(と、服の袖を掴まれてた。スタスタと歩く涼葉さんに連れられて、路地に入っていく。そしてまた裏道へ。ゆっくりとカーブした細い道をどんどん奥へと入っていく。と、そこには知らない町が広がっていた――。)」


涼葉「ここは、妖怪町。」


鈴木「っ……え! 見たことも聞いたこともないんですけどおおお?!」


涼葉「悪さをしない妖怪だけが、ここにはいる。遊びに来たり、旅行したり、商売をしたり。目的は、いろいろ。」


鈴木「それにしても異世界みたいな風景だな……。(妖怪町って印象だけで言うと、もっと古びた景色を想像してしまう……。なのに、ここは違う。どちらかと言うと、ロールプレイングゲームのような世界に近い。)こんなところがあるなんて、世界は広い!」


涼葉「そうの通り。あの丘をいくつも越えていくと、本当に妖怪の世界と広がってる。」


鈴木「まじか?! 丘の向こうってすげえ薄暗い霧に囲まれてるんですけど!」


涼葉「ここはまさに、異世界。」


鈴木「(ってことは、冒険者とか……。そんな職業もあったりするのだろうか……。なんか、それを聞いてしまうとここから抜けられそうにない。それに、俺は転生者ってことは、元はあのずっとずっと向こうの世界からやって来たってことだろ……。なんか想像しただけで、頭くらくらする。けど、行ってみたい――。そんな気がする。だけど、今日はいろいろ聞くのは、やめておこう。そんなことをしたら、デートが台無しだ。)」


涼葉「鈴木、ぼけっとしてる。」


鈴木「っあ。ごめん。(涼葉さんは、一軒のお店の前で足を止めていた。俺はゆっくりと顔を上げて、看板の文字を見た。『傘屋』と、書かれている。暖簾をくぐり、涼葉さんが店内に入って行く。俺は、慌ててその後を追うように暖簾をくぐった。)」

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