第60話 アホ毛は生命線
鈴木「(雨が降っている。どんよりと黒くて重たい雲が空を覆っている。あっ、そうそう。――妹の穂香とは、あれから大変な毎日の連続だ。お兄ちゃんお兄ちゃんと上目遣いで、目をうるうるさせて近づいてくる。もうそれは怖いくらいに。)穂香、それじゃ、学校いってくるから!」
穂香「お兄ちゃん、いってらっしゃいのチュウして! お願いします。」
鈴木「(いつもこの調子だ。これからどんな風に成長していくのか、末恐ろしい。以前よりも、積極的な気がするんだが……。)」
鈴木「チュウとか、恥ずかしいから! それじゃあああーーー!!!(逃げるように、ダッシュで家を離れる。)」
……。
パチパチ。
ピチピチ。
ピチャピチャ。
鈴木「(少し家から離れると、やっと俺にも自由がやってくる。そうして、傘に雨が当たる音を聞きながら歩いている。おっ、明彩とばったりと出会った。)」
明彩「あっ鈴木、おはよう。」
鈴木「なんだ? 元気ないみたいだどけ……。ほらっ、いつもなら、ネギ男ーーー!!! とか、言ってにやにやしてるだろ?!」
明彩「私、雨は苦手なの。」
鈴木「へぇお前みたいなやつでも、苦手なものあるんだな。」
明彩「私を能天気な人間みたいに言わないでっ!」
鈴木「そう言えば、お前のそのアホ毛。ピンっと立ってるアホ毛さ、」
明彩「うるさい、アホアホ言わないでよっ。気に入ってるんだから! みんなからは、チャームポントで、可愛いねって言われてるの。」
鈴木「チャームポントねぇ。今日は、それも元気ないみたいだな。」
明彩「この毛が、私の生命線なんだけどなぁ。」
鈴木「っ? ……生命線?」
明彩「あれ、言ってなかった?」
鈴木「何が?」
明彩「まぁいっか。どうせ、鈴木には関係ないし。」
鈴木「はあああ! 今更関係あるとか、ないとか。そう言うの変だろ!」
明彩「なんで?」
鈴木「俺に変な妖魔を授けて、ついに妹の記憶まで奪った。そして、何故か妙に俺に絡んでくる……。」
明彩「言っとくけど、授けてないから。あんたが転生者なだけで……。私はその、」
鈴木「その?」
明彩「……心配だから、仕方なく近くにいてあげてやってんのっ!」
鈴木「(心配……?! なんだそれ?)」
明彩「まぁいいわ。教えてあげる。ピョンと跳ねた髪の毛はね――妖魔を察知するのに役立つの。だから、あんたよりもずっと賢いの。でも、雨だと……、それが察知できないのよぉ。」
鈴木「・・・知らなかった。あっ!!! お前さ、俺と席が隣になった時、妙にそのアホ毛が俺の方を向いてピョンピョン跳ねてたもんなっ!」
明彩「だから、アホ毛って呼ばないで! もう馬鹿にアホって言われるのが一番ムカつくんだからっ!」
鈴木「でもよ、もし妖魔を感じ取れなくても、妖怪なんてそう現れないだろ?」
明彩「……ぅぅん。そうとも言い切れない。……鈴木は馬鹿だから、傘をちゃんと見てないでしょ?」
鈴木「傘……?! ちゃんと見る? なんだそれ? (俺は、ゆっくりと視線を上に向けた。何かと目が合う――。大きな一つ目だ。)」
明彩「……馬鹿。やっぱり気づいてなかったんだ――。」
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