第57話 妹の過去

鈴木・7歳「(看護師さんの見回りが終わり、病室の電気が消えると、俺は机の下から顔を出した。)」


穂香・3歳「お兄ちゃん、真っ暗だけど怖くない?」


鈴木・7歳「大丈夫! 満月のおかげで、ぼんやりとだけど、なんとか見えてる。」


穂香・3歳「良かった。お兄ちゃんこっちきて欲しい。手繋いで。」


鈴木・7歳「(穂香のところに行くと、穂香は涙を浮かべて震えていた。きっと穂香はいつも夜になると、1人でこうして泣いているのだろう。……病室は、あまりに孤独で生きている実感がしないのだ。ゆっくりと穂香の手を握りしめる。どうしてやることも出来ないけれど、穂香は大切な妹だ――。)」


穂香・3歳「4歳までしか生きるのが難しいって言われてるけど……、もしね――14歳の誕生日まで生きることが出来たら、お兄ちゃん……私と付き合って欲しい。それで、18歳になったら、お兄ちゃんと結婚したい!」


鈴木・7歳「(妹が次の誕生日を迎えられないことは、嫌という程、両親から聞かされている。多分、体の衰弱具合から、それを一番リアルに感じているのは、穂香自身だ。それでも、決して穂香は生きることを諦めていない。そうして、何もしてやれない俺と付き合いたい、そう言ってくれた。胸の中が熱くなる。ぐちゃぐちゃしていて、苦しい。)・・・14歳まで生きろ! 絶対に生きろ! その時は、俺が付き合ってやる。」


穂香・3歳「うん。お兄ちゃんは優しいね。ありがとう・・・。」


鈴木・7歳「(穂香はそう言うと、ぐっすりと眠ってしまった。俺は本来の目的である、黒いマントのおじさんを待つために、再び机の下に隠れた。)」


……

………………


……

………………


……

………………


鈴木・7歳「(12時を過ぎても、誰も現れない。眠たい。俺もそろそろ限界だった。)」


……

………………


……

………………


鈴木・7歳「(意識が夢の中に入りかけたその時、ベッドの横に黒い影が――見えた。黒いマントを着ている。――誰だ? 穂香に何をしている? 手を胸のあたりにかざして、淡い光のようなものを吸い取っているように見えた。)」

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