第56話 余命1年

――回想――


穂香・3歳「私は3歳の誕生日に、原因不明の重い病気にかかり、あと一年しか生きられない。と病院の先生から言われた。つまり、4歳の誕生日を迎えることは難しいと宣言されたのだ。それから私の毎日は地獄と同じだった。病院生活が始まり、保育園でできた友達とも遊べなくなった。初めのうちは、お見舞いに来てくれていた友達もいたけれど、徐々にそれは減り、やがてゼロになった。涙は枯れ、生まれたことを憎んだ。なんで私だけこんな酷いことにって両親を恨んだ。自殺も考えた……でも、唯一の楽しみは、仲良くしてくれる人が2人いたこと。1人は、お兄ちゃん。もう1人は、黒いマントのおじさん。おじさんはいつもフードで顔を隠していて、夜になると足音もなく病室にやってくる。患者さんを守るために、寝ずに働いている人だと思う。名前は聞いても教えてはくれない。けれど、毎晩やって来て、私のじーっと見ている。私はその人が見ていると、どうしてかすぐに眠たくなる。たぶん、心地いいのだと思う。だってひとりぼっちの夜。薄暗い病室は、私にとって孤独と絶望でしかなかった。その人だけが、私を見ていてくれる。とてもとても優しい人。私の夜のお友達。」


穂香・3歳「ある日、一度だけ。お兄ちゃんに、そのことを話したことがった。」


鈴木・7歳「なんだそれ? 夜に遊びに来る友達??? 不気味じゃないのか?」


穂香・3歳「全然。毎日来てくれるんだよ! 優しい人。私の夜の友達。」


鈴木・7歳「そうか。良かったな。でも、どんな人なんだ?」


穂香・3歳「黒いマントを着たおじいさん。あれ、あじさんだっけ? いつも暗くて顔はよく見えないの。まだ、名前も知らない……。」


鈴木・7歳「名前も知らない人……、へんなの。で、どんな話しをするんだ?」


穂香・3歳「その人は、何も話さないの。多分、病気か何かで、言葉が出ないんだと思う……。」


鈴木・7歳「へぇ〜そっか。(……待て待て。それって、変だろ……。面会だって終わってる時間だ。誰かが入ってこれる時間じゃない……。仕事の人なら、名乗らないってことはない。)よし、分かった。俺その人に一度お礼を言いたいから、今日はここに泊まっていくよ。でも、みんなには秘密だぞ〜! バレたら、怒られるからな!」


穂香・3歳「うん! その人を驚かせないようにしないといけないから、お兄ちゃんどこかに隠れててね。」


鈴木・7歳「うん、そうしよう。じゃ机の下に隠れて、その人がくるのを待つことにするよ。」


穂香・4歳「さすがお兄ちゃん! 頭いい!」

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