第58話 ツンデレ美少女の力

明彩「私はリビングを出ると、トイレには向かわず、穂香ちゃんの部屋を確認した。そうして、その場でゆっくりと呼吸を整え、深呼吸をして目を閉じた。意識を妖魔に集中させ、力を溜めていく。それから手のひらに集めた妖魔をリビングの獏に送った。やがて、ゆっくりとだが、獏に生命が宿る。歩き出すイメージを送ると、リビングから獏が出てきた。そのまま、穂香ちゃんの部屋に入っていくイメージを送る。――よしよし。うまく出来ている。私天才じゃん! 獏の吐く息が部屋中に充満すると、穂香ちゃんは眠ってしまった。そうして、獏が彼女の記憶の中へと入っていく。遠い遠い子供の頃の記憶へ――。」


――――――10年も前の記憶に辿りつく。


明彩「獏を通して、私の脳裏には、映像がどんどん流れ込んでくる。」


――――――ある日の病室。

鈴木が穂香ちゃんと約束を交わした日。

その映像を見ながら、私は泣いていた……。そして、この記憶の真相を知りたいと思った。


――その日の深夜。

穂香ちゃんが眠りにつくと、黒いマントの何者かが現れた。

あれは、人間じゃない。

人の命を奪う――死神。穂香ちゃんの寿命を吸い取る悪魔だ。


――死神と目があった鈴木は動けずに、震えていた。

死神は、一歩ずつ足音もなく鈴木に近づいた。

月明かりに照らされた、死神はやがて大きな鎌を持ち、すかさず鈴木めがけて、振りおろす。

鈴木はそれを交わしたのだが、それは彼の力ではなかった。

その尖った目つきは……彼の妖魔の力――河童だった。


――死神は鈴木から距離を取ったのだが、鈴木の動きはそれよりも先に動き、死神の腹に一撃をくらわせる。そのまま胸をえぐるように死神から魂を抜き取り、そのまま穂香ちゃんの体内へと入れる――――。


明彩「穂香ちゃんは、一部始終を見ていたのだ……。だからこそ記憶がある。命を助けてもらったお兄ちゃんは、穂香ちゃんにとって絶対的な存在だった。それは10年もの月日を経ても、色褪せない強烈な記憶となった。何より、私が見ているこの映像は、穂香ちゃんの中で――恐怖として残されていたのだ。」


明彩「――この夢をこの記憶を含めて、獏に食べさせなければならない――。穂香ちゃんにとって、お兄ちゃんはヒーローなんかじゃない。死神を殺したあの恐ろしい目つきのお兄ちゃんは何者なのか……。その謎が穂香ちゃんを縛り付け、淡い約束と重なり穂香ちゃんは苦しんでいた。私は、穂香ちゃんを救いたい。これからは妖怪と関わらずに、平穏に生きて欲しい。その願いを込めて――。私は意識を集中させる。」


――さあ、獏よ。

その夢を記憶を、全部食べてしまいなさい――――――――



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