第40話 かまいたち

鈴木「朦朧とする意識の中で、飛田さんがクジラに飛び蹴りをくらわしたのを見ていた。しかし、飛田さんが弾き飛ばされ、あろうことか俺の顔の上に尻餅をつくようなかたちで着地。――ぷにゅ。この弾力にはさすがに興奮した。いや、そんな場合ではないのだけれども。女の子のお尻というのは、たまらないのだ。」


飛田「ちょっと何ですか、あれは! どんどん成長してますわ。私には手に負えません……!」


鈴木「あのぉ、まずは顔の上から、おりてくれませんか。息が……。」


飛田「あらごめんなさい。まだ生きてらしたのですわね。その体力から察するに、あなた様も妖魔使いですわね?」


鈴木「っ……はい?!」


飛田「操れるんでしょ。何か、化け物を?」


鈴木「言っているが意味が分からないのだけれど……。」


飛田「あらそうですか。そしたら、ただの役立たずさんですわね。それは失礼致しました。ですが、このままだと、どうしようもないですわ。私があなた様を抱えて、あのクジラの攻撃を交わせる力は、せいぜいあと二回程度。それまでに何か秘策を立てないと、このままだとおそらく全員が……。」


鈴木「(飛田さんは俯くと静かに首を横に振った。まじで勘弁してくれよ。童貞のまま死ぬなんて嫌だ。)」


――ゴホッ! ブシュー!


飛田「キャーー!!!」


鈴木「(突然クジラの攻撃をもろにくらった飛田さんの制服は破れて、パンツとブラジャー姿に。それを、なるべく見ないように、俺はとっさに続けた。)かわせなかったのか? それとも俺をかばったのか? もし後者なら、あんただけでも、助かる道を選んで欲しい。」


飛田「悔しいのですが、どちらでもありませんわ。クジラの妖魔が大きくなり、かわせなかったのです。」


鈴木「(確かに、あのデカさはないわ。そろそろ教室の天井がぶっ壊れるぞ。その――刹那――――。空間が切れて、その中から、涼葉さんが現れた。涼葉さんはいつもの刀のような鉛筆を構えて、じっとクジラを睨んでいる。)」


涼葉「間に合った。この場所を特定するのに時間がかかった。」


鈴木「(もう何が何だが分からないが――、)涼葉さん! 逃げた方がいいです。そんな小さな鉛筆じゃ、あのクジラは倒せません。」


涼葉「私、強いの。」


鈴木「……っえ?」


飛田「よく見なさい! あれは、ただの鉛筆じゃありませんわ。きっと彼女は、鉛筆にかまいたちを宿しているのです。――その切れ味は、空間をも切り取り、何者の骨をも切り裂く――。本当に彼女が、かまちたちを、操れるのだとしたら、最強の妖魔使い。あのクジラも一撃でおしまいだわ……。」


鈴木「飛田さんの言葉は、全くその通りだった。涼葉さんは、刀のような鉛筆でクジラを真っ二つに切り裂いたのだ。その冷徹な表情は、あまりに恐ろしく、そして、美しいものだった――。」

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