第28話 鯖

鈴木「人であって、鳥でもあって、犬でもある。でも、人でも、鳥でも、犬でもないもの……。なぞなぞですか? ……えっと………………。持てる知識を振り絞り15分以上考えたが、それらしい回答は何も出てこなかった。あのぉ蘆屋さん、そろそろ正解を教えてもらえないでしょうか?」


蘆屋「そうだね。スズキ君が消えた謎は単純さ。まず『スズキ』って名前が、本当に残念だよ。」


鈴木「生まれた時からその名前なんです。だから、残念がられても困ります。」


蘆屋「鯖(サバ)だったら良かったんだけどね。」


鈴木「全く理解出来ませんけど……」


蘆屋「ちょっと、新鮮な鯖を買ってきてくれないか? 本当はそう頼みたいんだけれど、スズキ君は多分、家の中から出ることはできないだろうから。台所に行って、鯖を探して欲しんだよ。まぁもし鯖が冷蔵庫に入ってなかったら、その時は、いろいろと諦めてもらうことになるんだけど……。」


鈴木「いろいろって、どういうことですか?」


蘆屋「言葉の通りだよ。スズキ君が期待している、いろいろさ。言い換えるとスズキ君の命は、鯖にかかっているとも言える。まぁ命をかけるものとしは、格好のいいものではないけれどね。」


鈴木「恐怖がないと言えば嘘になるが、今更慌てたところ見苦しいだけだろう。俺は、部屋から出られることを確かめると、台所へと向かった。家の中は物音ひとつなく、静まり返っていた。台所に立つと、俺は神に祈るような気持ちで、冷蔵庫を開けた。」


――――――鯖!


鈴木「開けた瞬間に、それが目に飛び込んできた。蘆屋さん! 鯖ありましたよ。」


蘆屋「おめでタイ。おや、こんなところで、鯛が出てきたね。ブッフフフ。」


鈴木「ひとりで笑うのやめてもらえますか?! 気持ち悪いんで。それにこの鯖と、俺が消えてしまったこととどういう関係があるんですか? まだ、消えている理由が分からないんですけど……。」


蘆屋「――天狗さらい――――――! つまり、スズキ君は、天狗によって違う次元にさらわれているんだよ。そして、天狗は鯖が嫌いってわけ。『鯖食った、鈴木敬太だぞ』って、鯖を持ったまま叫んでみるといいよ。僕が教えてあげられることは、このくらい。それじゃ次会う時までに、僕もいろいろと準備しておくからさ。」


鈴木「(次? 準備って?)」


蘆屋「じゃ、電話切るからね。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る