第8話 遠足2
「最近あんま俺らつるんでなかったよなぁ、下山も関林も俺と同じ5組なんだから会いにきてくれよ〜。なんか去年お前らのクラスに行ってた俺が寂しがりみたいじゃんw。」
こいつ思ってもないこと言いやがって、、。
面倒臭いことになってしまった。
空気が淀んでいく。できればこいつらとはこのまま自然に疎遠となればいいと思っていたんだがな、、、。
「ごめんな!なんか部活行かなくなってから会いづらくてさ、ハハハ、、、。」
俺は曖昧な返事を見繕った。自分でも笑顔が引きつっていることを把握できた。
しかしそれをわかってかわからずか、奥本は嘲笑にも似た笑顔を浮かべてさらに追い討ちをかける。
「いやいやそんなこと俺ら全然気にしてないって!てかお前らそんなに仲よかったっけ?めっちゃ青春じゃん!いいなぁ妬けるなぁ〜w。」
「はみ出し者同士、傷舐めあってんじゃねw?」「お前クズすぎ!それは流石にダメでしょw。」
後ろの二人も物見遊山で冷やかしに乗じた。下山、こいつ童貞のくせに、、、。
「あぁ!?」「ひっ、、、なななんだよ!」
久礼田の怒号が飛んだ。下山はビビリまくりである。こいつ本当どうしようもないな、、、。
状況はまさに一触即発。しかし、ここで挑発に乗っては相手の思うツボである。
今にも殴りかかりそうな久礼田を制して、俺は必死に笑顔を作った。
「いやいやそういうのじゃねぇって。んじゃ俺らいくよ。またお前らのクラスに顔出すわ!」
無論顔を出すつもりなど毛頭ない。
しかしそんな俺の態度は、あいつらの目には俺が自分たちのグループに縋らんとしているかのように映ったようだ。
「ごめんなこいつらクズすぎてw。俺はまたお前と仲良くしてやるって!」
「いや奥本も十分クズじゃねw!?俺たちのこと言えんのかよ〜w。」
本当にお花畑な奴らだ。ここまで来たらもう才能なんじゃないか?
こいつらの結婚式で今の映像を流してやりたいくらいだ。それに呼ばれるかは別として。
しかし事態は無事収束しそうだ。俺は安堵で膝を撫で下ろそうとした。その瞬間。
「ハァ〜〜〜、キッモ。」
いや黒田さんあんた何してんの。
それ気の悪いババアがするやつだから。悪意ダダ漏れだから。
唾棄にも似た彼女の大音量のため息によって、その時間は再び静止した。
「え?どうしたん由美。なんか言いたいことでもあるわけ?」
奥本の笑顔が引きつっている。これは合図だ。ここから先は進んではいけない。
しかしそんな合図はどこ吹く風で、彼女はアクセルをベタ踏みした。
「いやなんか、幸せそうで羨ましいなぁ〜と思って。」
彼女のこの顔を俺は見たことがある。
笑顔の奥底に確かな悪意が内在している、以前の彼女と同じ自信に満ちた顔であった。
しかしその自身の根拠は以前と違うようで、どこか諦念のようなものも感じられた。
「そうか。まぁお前らよりは幸せかもなぁ。お前らよりは、な?」
言葉の水面下で行われる熾烈なマウントの取り合い。後の先に似たものすら感じる。
こいつら本当に人間なの?おいら見てるだけで足すくんで来ちゃったよ。
「あ、そういえば俺最近新しく彼女できたんだよなぁ。その彼女ほんといい子でさぁ、これまで付き合った中で一番いい子かもなぁ〜。」
奥本が息つく暇もなく畳み掛ける。しかし、彼女の余裕は毅然として揺るがなかった。
「ふーん、よかったじゃん。お似合いなんじゃない?あんたと付き合うような人間が、ほんとにいい子だとは思えないけど。」
いやお前奥本と付き合ってたんだよね?こいつは明らかに悪い子なのでノー問題である。
しかし、この言葉で奥本の笑顔が消えた。もう俺いなくていいね?帰っていいかな?
「は?おいお前あんま調子乗ってんじゃねぇぞ。クソビッチがよぉ。」
ほら怖いもう怖いあぁ怖い。もう俺が脱ぐから許してほしいんだけど。
しかし彼女はそれにたじろぐことなく、寧ろさらに見下したような態度を表した。
「はぁ?ビッチじゃねーし。うちあんたにヤラせたことないじゃん。」
「なっ!?」
奥本が明らかに面食らった。しかしこの子どんな教育受けてんの?スラムで育ったの?
しかし容赦無く彼女は続ける。
「てか付き合ってる間もまじでキモかったなぁ〜。事あるごとにヤラせろヤラせろってさ、それしか頭にないわけ?あんたの性奴隷なんか死んでも御免だっつうの。」
性奴隷とか言ったよ?ねぇ性奴隷って言ったよこの子?
「そもそもあんたのことほんとに好きだったことなんかねぇし。あんただってそうでしょ?互いを消費し合ってただけ。そんなこと、ほんとは何も意味なんかないのに、、、。」
「お前まじでいい加減に、、、。」「はーい終わり!もう終わり!もう終わりだから!な!」
思わず飛び出てしまった。なんか前にもこんなことあった気がするんだけど。
一同の注目が俺に集中している。でもこれはチャンスだ。
これ以上は収拾がつかなくなる。俺は両者を必死でなだめた。
「もういいじゃん、過ぎたことだろ!黒田お前も言い過ぎ。バカなの?死ぬの?」
「はぁ、、、ごめん、言い過ぎたわ。」
俺の判断は正解だったようだ。黒田も不貞腐れた顔で謝罪を投げる。
しかしこいつは少し処世術を覚えたほうがいい。いつかまじでヤバイことになりそうだ。
「チッ、行くぞお前ら。」「「お、おう、、、。」」
去り際がヤンキーのボスかよ。でもこれでひとまずは一件落着である。
しかし、彼女は言いたいことを全て、逃げることなく言ったのだ。
彼女は自身の正義を貫いた。ならば俺も逃げるわけにはいかないのではないか、そう思った。
俺はこいつらと決別しなければならない。これからの俺にこれはもう不要だ。
勝手に依存したくせに勝手にそれを押し返すとは、我ながら本当に自己中心的だが、俺はどうしても、それを清算なければならないのだ。そうしなければ、前へ進めない。
「なぁ!奥本!」「あ?なんだよ。」
「あのさ、本当に申し訳ないんだけど、、、もう俺たちに関わんないでくれるか?」
「チッ、こっちから願い下げだっつうの。」
奥本が踵を返し、それに続くように残りの二人もその場から去っていった。
怖っわ、、、ぶん殴られるかと思った、マジで。しかし、なんだか清々しい気分である。
全員が肩を撫で下ろしたところで、俺は忘れずに黒田を追求した。
「お前さぁ、まじでああいうのなんとかしろよ。こっちはヒヤヒヤして仕方ねぇよ。」
「はいはい悪かったわよ、でもさ、いい気味だったっしょ!?見た?あいつらの顔!」
「っ!ま、まぁな、、、。」
黒田がこちらを振り向き、いかにも意地悪な笑顔を浮かべた。
こ、こいつ、それは反則だろうが、、、。
しかし、こいつも本当に変わったものだ。これが成長したと言えるのかはわからんが。
あの日の不安はどうやら杞憂に終わりそうで何よりである。
俺たちは荒野を進んでいる。しかし今、隣を振り向くと彼女がいた気がした。
俺たちはまだ迷っている。確固たる解を出せないでいる。
捨てて、選んで、また捨てて、おそらくそれを一生繰り返してゆくのだろう。
しかし、俺は捨てたものも、その決断も、ずっと忘れないでいたい。
黒田がそうしたように。たとえそれが、悔いるべきものであったとしても。
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