1997年10月14日、アメリカ合衆国・音速突破50周年記念式典

 たしかに、あの日、50年前の1947年10月16日。大満州帝国時間10:28に、葛葉大尉の操る〝桜花〟は、音速を突破した。


 時速は1300キロ。

 マッハで言えば、1.05。


 その日のうちに、速報で両帝国を……全世界を駆け巡った。


 人類初の音速を突破した。


 と……。


 だが、すぐに修正されることとなった。


 アメリカが、我々の方が先である。1947年10月14日10:29に、チャック・イェーガーの操るXS-1というロケット飛行機が、マッハ1.06 を記録したと、異例の報道をしたのだ。


 そのため、彼の名前はすぐさま世間の間から消えてしまった。


「――やはり勝てませんでしたね……」


 葛葉大尉は再び呟いた。

 この式典に呼ばれたのは、としてだ。


「旦那様は、立派に勤めを果たされましたよ」


 桜子夫人は、そんな夫の固まった手をそっと叩いた。


 その後の葛葉大尉は、数々の名のある機体のテストパイロットを続けた。

 最終的には、帝国のパイロットを養成する学校に務めることになった。

 そこの校長まで就任し、少将として退役した。しかし、空への興味は、つきることは無く。退役後もテストパイロットの相談役は続けている。


「――そうだな。願えば、必ず道が開けられる」


 葛葉予備役少将は、ゆっくりと固まった手を解き、夫人の手を握り返した。


 背広である彼であったが、一つだけ胸に勲章を着けていた。

 この勲章は、人類初のジェット機による有人超音速飛行を讃え、大満州帝国から贈られたモノだ。


 その後は、未到達の世界に挑戦した者に贈られることになった勲章。


 その形は、世界初の超音速ジェット機〝おう〟から……その1号機に書かれたいっぺんの桜の花びらが、あしらわれている。


「我々が勝ったんだな……」

 と、妻に微笑んで見せた。


 彼の目の先には、先ほど式典で上空を飛んでいたF-15D制空戦闘機が着陸し、チャック・イェーガー氏が降りようとしている。


 F-15D制空戦闘機〝イーグル〟

 日本名、三菱・三六式制空戦闘機〝飛鷹ひよう

 それは紛れもなく、大日本帝国と大満州帝国の共同開発した制空戦闘機だ。



 桜花一片に願いを~鵺の翼・外伝―Sonic barrier―

 〈了〉

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桜花一片に願いを~鵺の翼・外伝―Sonic barrier― 大月クマ @smurakam1978

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