特別編〜五歳のわたし〜
五歳のわたし第1話
【注意】
『5歳編』は、今は亡き総合書店アプリ『まいどく』さん用に書き下ろしたお話です。
『まいどく』さんのサービス終了に伴い、小説家になろう、カクヨムへの掲載許可を頂きましたので掲載致します。
特別ダゾ!
*********
「できた!」
混ぜ合わせたのはミーソン草とベウウスの花の葉と、畑で集めたその他錬金術では用途がないとされるいわゆる雑草!
錬金術のレシピ本に『肥料』の作り方が載っていたので試してみたのよ。
ふふふ、成功だわ! これは結構簡単だったな~。
「よし、早速試してみよ~」
ロフォーラ山の麓の宿屋『ロフォーラのやどり木』に引き取られ、五年が経ちました。
ティナリスとして生きてきて、五年。
つまり五歳です。
いやぁ、川に流され盗賊に拾われ、獣に襲われた時は死を覚悟しましたがなんとか五年、今日も無事健康に生きておりますよ~!
それもこれも、あの人に拾ってもらったから……なのだが、わたしはどーも男の人というのが信用ならんのです。
とはいえ養ってもらってる身だし、そんなことは口が裂けても言えないんだけど……。
なので、せめていずれ自立して一人で生きていけるように、錬金術の訓練を続けているわけなのですよ!
これがなかなかに生活の役に立つ。
片腕のない『お父さん』と……二人での生活になって一ヶ月。
これから二人でこの宿を切り盛りしていかなきゃなんだから、もっと頑張って色々作れるようになって、もっとお父さんが無理しないように……わたしも手伝わなきゃ。
「あ、お父さん。収穫ですか?」
「ああ? ティナは、なんだ? その黒い土は? どこからも待ってきたんだ? 重くないのか?」
なかなかに矢継ぎ早の質問。
ふふふ、聞いて驚け、これが意外と重くないのだ!
じゃ、なくて。
「錬金術で作った肥料です! これを蒔くと品質、収穫量アップ! 更に収穫までの期間も短くなるのです!」
「肥料ぉ? 錬金術ってのはそんなもんが作れるのか?」
「はい! ……あ、でも、初めて作ったので……効果はないかもしれないんですけど……」
「……どれどれ、鑑定してやるから持ってこい」
「! はい!」
鑑定!
そっか、お父さんは鑑定魔法が使えるんだった!
よろしくお願いしまーす!
「ふむ……」
「……ど、ど、どうですか?」
「作物用肥料プエプエ、品質は『良』か。へえ、すごいもんができるんだな。よし、使ってみよう!」
「!」
そ、即採用!
やった!
「はい、ありがとうございます!」
「? こちらこそ……なんでティナが俺にお礼言うんだよ」
「……え、えーと」
頭撫でられた。
あれ、今の変だった?
でもなんかとても楽しそう。
「こっちこそありがとな。収穫が多く、早くなれば備蓄もできる。どれ、肥料蒔くの手伝ってくれ」
「はい!」
手袋を借りて、畑の作物に行き渡るよう収穫が終わったばかりのなにも植わっていないところに蒔いていく。
お父さんが木製の義手を添えるようにして、肥料の蒔かれた土を耕し、よく混ぜ合わせる。
畝をこしらえ、新しいポーテトの種を植えていった。
「よし、こんなもんだな」
「あ! お父さん、お客さんらしき人がいます!」
「なに? お、本当だ。見た感じ二人か。ティナ、二人部屋を確認してきてくれ」
「はい!」
体も成長して、だいぶ動けるようになったけど……走るのは相変わらず苦手なのよね。
体力はなんかこう、子どもならではの無限に湧き上がるー! みたいな感じ……だと思ってた。
いや、軽いっちゃ軽いのよ?
前世に比べるとそれはもう羽根のように体が軽いわ。
しかし、走るのは前世同様得意じゃないっぽい。
なので無理しない程度に二人部屋のコテージをチェック。
ゴミなし、シーツの汚れやヨレはなし、クローゼットに忘れ物なし、トイレとお風呂は掃除済み……うむ。
「……!」
受付カウンターとお客さん用食事処のある自宅の一階に入ると、若い男女がチェックインしているところだった。
お、おお~、なんかものすごい美男美女。
そして、女性はなかなかに露出が高いな。
男性は薄いエメラルドの髪と目。
紫のマントに、ウクレレみたいな楽器を背負ってる。
美女は長い薄桃色の髪と紫の瞳。
お化粧濃いめなのに、くどい印象はない。
あとお胸が大きい……。
しかし気になるのが旅人の割に軽装なところかしら。
旅人なら簡単に荷物を奪われないように、外套の一つでも被っているものだ。
この辺り昔から盗賊も出るし、多少の武装はしていないと襲われた時危ない。
定期的に『フェイ・ルー』の騎士団が討伐してくれるけど、いなくならないのよね。
そんな感じで、商人も護衛を雇う。
短距離の移動、なのかしら?
まあ、少なくとも武器らしいものは一切持っていないので間違いなく冒険者ではないわね……。
「あら? この子は?」
「ああ、うちの娘でティナリスといいます。ティナ、部屋はどうだった?」
「はい、問題ありませんでした。ご利用いただけます」
「そうか。ありがとな。ではこちらが部屋の鍵です」
「ありがとうございます。ちなみに、他のお客さんもここで食事を?」
「そうですが……本日はお客様たちだけですので、貸切かと」
「なんだ、残念だな。俺の歌と彼女の踊りを披露したかったのに」
「歌と、踊り?」
あ、つい声を出して聞いてしまったわ。
するとお姉さんがわたしの前まで来てしゃがみ込み、目線を合わせてくれる。
「ええ、そうよ。私とロインは旅芸人なの。ロインは吟遊詩人を気取ってるんだけどね。私は踊り子よ」
「旅芸人さん……」
へえ~、そんな人たちもいるのね~。
それで軽装だったんだ。
でもこの男の人、弱そうだけど盗賊とかに襲われたりしないのかしら?
こんな綺麗な人と二人で旅なんて、危なくない?
「旅芸人さんでしたか。……しかし、二人だけの旅は危険では?」
あ、お父さん、わたしと同じこと思ってたらしい。
ですよねー。
「え、ええ。本当は一座に参加していたんですが、そのう……」
「彼が私にプロポーズしたいから! って抜けてきたの。今一座は『デ・ルルア』にいるから、それが終わったら戻る予定よ」
「エ、エノファ!」
「「プ、プロポーズ!?」」
お父さんがカウンターから、わたしは入り口で大声を出してしまう。
プ、プロポーズ!
なんと!
なんと‼︎
…………プロポーズしたいから二人で旅?
え? それはもうプロポーズ済みということなのでは?
違うの?
「そ、そんなこと言ってないだろう!」
「あら、じゃあなんでしばらく二人で旅したい、なんて言ったのよ」
「え、えーとそれは、その、とと、とにかく、先に部屋に行っててくれよ! お、俺はその、色々下準備、じゃなくてその、そ、そう! 店主さんに確認したいことが……じゃじゃじゃなくて! 聞きたいことがある!」
「はいはい。……わかりやすいでしょ、彼」
「は、はい……」
コソッとわたしに耳打ちするお姉さん。
ウインクまでつけてくれた。
お兄さん……ロインさんは確かにわかりやすすぎる。
手も足もバタバタ動かし目なんて上下左右に動きっぱなし。
なるほど、これはもう言い逃れができないというか、無駄な抵抗というか。
お姉さんは嬉しそうだから、それはそれでいいのかな?
「ま、まったく! ……なんであんなに勘が鋭いんだ……」
「…………」
お父さん、その微妙に可哀想なものを見る目はお客様に失礼ですよ。
気持ちはとてもよくわかりますけど。
マジで言ってんのか、って思いますけれど。
「あ、いや、そ、そうじゃなくて……あ、あの店主さん、ロフォーラでは『双子月』が見られると聞いたんですが……」
「『双子月』? ああ、なるほど。確かに時期ですね」
「ふたごつき?」
カウンターに歩み寄る。
なにそれ、わたし初めて聞くわ。
「ああ、空には月が二つあるだろう?」
「はい」
この世界『ウィスティー・エア』は太陽と月が二つずつある。
しかし気温は穏やかだし、日本のように四季らしい季節の移り変わりなども特にない。
多分、太陽があまり大きくなく、近くなく、尚且つ太陽の放つ温度的なものが前世のものより低温……なのかなぁ、と勝手に思っている。
月に関してもよく役割がわからない。
まあ、研究してる人はいるのかもしれないけど……とても異世界っぽいわよね。
だから『双子月』というと、そういえば常に双子月のような?
「ああ、数年に一度空の『リルムーン』と『ラオルムーン』が重なる日があるんだ。その重なった月がリホデ湖に映ると、空と大地の『双子月』になる。その光景を見た夫婦には、双子が授かるそうだぞ」
「ほわあ……」
つまり天体ショーってやつね?
へえ! それが近いうちに見られるということ?
わあ、わたしも見てみたーい!
「まあ、双子が生まれる、は言い伝えだけどな」
「でも、素敵ですね!」
「だろう!? ……だから、俺は『双子月』を見ながら、彼女に……エノファに……プ、プロポーズを……!」
「「なるほど~」」
ああ、つい微笑ましく頷いてしまった。
顔が真っ赤っかで、体プルプル震えてる。
大丈夫かなぁ~……。
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