十三歳のわたし第12話
「シレッとその話を蒸し返してくるとか、まだまだお元気そうでなによりですけど、そろそろ諦めてくださいね」
『ティナリス、貴女からもなんとか言ってやってくれないかしら?』
「え、ええぇ!?」
わたし!?
わたしからもなんとか!?
レンゲくんに幻獣王になってって!?
ええぇ、いやいや?
「ティナを巻き込まないでください。それより、本来の目的がまだですよ」
『残念だわ。まあ、そうね、まずはティナリスに『
「え、あ……」
フン!
と鼻息がかけられる。
鼻息なんだけど、なんだかいい匂い!?
風圧で目を閉じてしまう。
でも、そのいい匂いと不思議な気配に片目を開いてみた。
「え?」
花、畑?
裏山の花畑とは比較にならないほど、だだっ広い花畑だ。
ええ? いつの間に?
さっきまで目の前にいたクリアレウス様も、蓮の葉っぱが浮いた湖も、お父さんとレンゲくんも……いなくなってる。
こ、ここは? どこ!?
「貴女が次の『
「ひえ!」
人が!?
人がいたのかと振り返る。
オレンジがかったピンクの短髪の女の子が立っていた。
…………まさか。
「……ア、アーカリー、べ、ベルズ、様……?」
そんなわけないよねー、あはは。
「? わたしはアカリだよ? アーカリー・ベルズ? 誰?」
……後の貴女の呼ばれ方ですぅ……。
じゃ、なくて本当に本人が!?
どどどどどどういうこと!?
どういう状況!?
ここはどこ!?
なにが起きてるのー!?
辺りを見回しても花畑!
ですよね、さっき確認した。
「それにベルズって王様の名字だよ?」
「え? お、王様」
「そうそう。だからわたしとは関係ないと思うなぁ」
「…………そ、そ、そう、なんですか、すみません……」
人間の王様かな?
せ、聖女と呼ばれるほどの功績を残した人を自分の嫁扱いして後の世に伝えたとか、そんな残念な理由で現代の『アーカリー・ベルズ』になったとか言わないわよね……?
あ、やめよう……考えるのやめよう……。
「わたしが死んでから、どのくらい経ってるのかわからないけど……レンゲくんは元気? あ、知ってるかな?」
「え? あ、はい、お会いしました。お元気です、よ?」
レンゲくん?
聖女アーカリー・ベルズ……あ、いや、アカリ様はレンゲくんの知り合い……!?
ま、まあ、あの辺りの時代から生きてるっぽいようなことは、言ってたけど……。
「そっか、ならよかった! ……よかった」
「…………」
柔らかく微笑むアカリ様。
それは本当に安堵している表情で、そして……。
それは、愛情……?
「っ」
な、なに? もやっとした?
胸が……。
「それだけ知りたかったの。教えてくれてありがとう」
「え、い、いえ」
「それじゃあ『
「え、え?」
はい、と手渡されたのは眩い虹色に輝く光の石。
こ、これは?
これが、『
…………こっ、こんなにあっさり!?
「わたしは暁の輝石のおかげで残ってた意識の残滓なの。だからもう消えるんだけど」
「え? 暁の……」
「なにか聞きたいことある? あんまり時間がないけど一つだけなら……」
「暁の輝石! 知ってるんですか!? あの、それって一体なんなんでしょうか!?」
「え? 暁の輝石のこと? えーと、一つだけならなんでも願いが叶う不思議な石、かなぁ?」
「なんっ………」
「あ、ごめん、もう消えるっぽい。ごめんねー」
「え、あの!」
「レンゲくんによろしく言っておいてね〜」
「ア、アカリ様ー!」
スーーー……と、花畑もアカリ様も消えていく。
ま、待ってええぇ!
爆弾発言だけ残して行かないでえぇ!
一つだけならなんでも願いが叶う不思議な石ぃ!?
そんなドラ◯ンボールじゃあるまいし……!?
「!」
『無事に受け取れたようだね』
瞬きした。
すると、そこはクリアレウス様の目の前。
戻って、きたの?
あの場所は一体……。
それに、暁の輝石……なんでも願いが叶う不思議な石ですって!?
どういうことなの! 全然意味がわからない!
クリアレウス様ならなにかご存知——。
『…………なら、少し休むわ……ごめんなさいね』
「あ、えっと……は、はい。ありがとうございました。ゆっくりお休みください」
『ふふ、ありがとう……。……世界を、頼むわ、ね……』
「…………」
大きな目がゆっくり閉じていく。
お年寄り、なんだもんね。
『暁の輝石』のこと、聞きたかったけど……またの機会にしよう。
一礼してから、レンゲくんとお父さんのところへと戻る。
なんか、ロフォーラから出てきて一時間もしないうちに用事が終わってしまったような……。
「大丈夫か? ティナ! 体に異常は!?」
「え? えーと、ない、かな」
でもなんかお父さんが血相を変えて近づいてきたよ。
あわあわと慌てて、わたしの手や顔をチェックしていく。
そ、そんな大げさな……。
「本当に不調はない? だるいとか重いとか、頭が痛いとか気分が落ち込むとか……」
「ないよ?」
レンゲくんまで、そんな心配そうに……。
「…………」
レンゲくん。
……アカリ様と、知り合いだったのか。
しかもなんか、名指しで心配されるような……。
うん? なんだろう、もやっとするな?
もしかして、これが不調?
だとしたら報告したほうがいいわよね?
「あ、でもなんか胸が少し……」
「つらいのか!?」
「苦しいの!?」
「う、ううん、もやもや?」
「レンゲ! ティナを休ませられる場所は!?」
「あっちに宿があるから!」
という感じであれよあれよと森の中へ連れて行かれる。
でも、すぐに不思議な鳥居のようなものが見えてきた。
アーチ状の、これは門?
センターに鈴が吊り下がっている。
「ここを抜けるとすぐ町だから」
「町があるのか?」
「うん、宿はすぐそこだよ」
どちらかというと自分の部屋で休みたいんだけど……。
でも幻獣の町というのもとても気になる。
少し下り坂になり、てくてくと降りていくと賑わいのようなものと、美味しそうな匂いが感じられるようになっていく。
これは、もしかして……。
「わ、わあ」
整備された道を、きちんと区画ごとに整備された町並み。
ほんのりと光る石出てきた丸い屋根のお家や、木をくり抜いて作られたお家、それに向こうにはシャボン玉が密集して作られているような家まで……。
町並みは整ってるけど、一つとして同じタイプの家が見えない。
どれもこれもお花だったり草だったり、果ては雪や氷、雲や砂……もう、な、な、なんなのここはぁ〜!?
「ど、どうなってんだ、ここは……」
「ここはこの大陸唯一の町『クレアリア』。大陸中から幻獣たちが集まり、集会をしたり欲しいものがあればその地域に住む者に収集を頼んだりする。町の住民はクリアレウス様にお仕えすることを目的として集まった種の代表二名。大きさも生態も様々だから同じ形の家はないね」
「クリアレウス様にお仕えすることを目的に……ってことは、ここに住んでる人たち……人たち? ううん、幻獣たちは、えーと……王様に仕える使用人的な……?」
「日替わりでお世話をするから、人の言葉だとお世話係のほうが合ってるかも」
ええ……つまりここお世話係の町ってこと?
整備されてはいるけど家の一つ一つがいろんな形だから、カオスだなぁ?
「宿はこっち。大丈夫? 背負おうか?」
「だ、大丈夫。歩けるよ」
レンゲくんに覗き込まれて胸のもやもやがまた増えた気がする。
あ、ああ、なるほどこれが不調なのね……!
どんどんもやもやした感じが強くなるもの。
困ったなぁ、前世で鬱になった時みたい。
あんなのもう嫌なのに……。
「……甘いものが食べたい」
「え?」
「甘いもの? お、おい、レンゲ、幻獣大陸に甘いものはあるのか?」
「え、ええと、ムースの実なら……。待ってて、すぐ買ってくる!」
不意に漏れた言葉にお父さんとレンゲくんが慌て始める。
あ、あれ? そんなつもりじゃなかったのに。
た、ただ、鬱だった時にほんの少しだけ甘いもので元気になった気がしたから、甘いものを食べたらこの気分も晴れるんじゃないかと思っただけで!
駆けていくレンゲくんは、割とすぐに戻ってきた。
すもものような、あんずのような小さな実を三つ、手のひらに乗せて差し出してくる。
ああぁ、本当にそんなつもりじゃなかったんだけどなぁ!
「ティナ、これ食べて。ティナの作るお菓子ほどじゃないけど、ムースの実も甘くて美味しいから。だから元気出して」
「……ありがとう」
一瞬だけ喉が詰まるような感覚。
胸もちょっぴりだけ痛む。
一つ、実を貰って口に運んだ。
シャリっとリンゴのような食感に、桃みたいな味わい。
前世では食べたことのない果物だわ……。
でもお手軽なサイズで嫌いじゃない。
「美味しい」
「ほんと? よかった! もっと買ってくる!」
「も、もういいよ!」
「宿で休ませた方がいいんじゃあないか?」
「あ、そ、そっか!」
お父さんも心配しすぎ。
でも、気分は少しよくなった気がする。
レンゲくんの後をついていくと、青い捻れた木がくり抜かれたようになっている建物に案内された。
この木だけものすごく太いし長い。
先端がここからじゃ見えないくらいだわ……。
「おお、これはレンゲ様! よくぞおいでくださいました」
「そういうのいいから。一部屋借りられる? 例の少女を休ませたいんだ」
「なんと! あなた様が! ええ、ええ、もちろんでございます! どうぞごゆるりとお寛ぎください!」
「は、は、はい……」
ぷかぷか浮かぶ店主らしき人は小さいおっさんだった。
いや、うん本当に……ミニチュアの……ハゲたおじさん……しかも半裸。
下半身には白い布しか巻いておらず、カウンターに着地してわたしたちへお辞儀をしていた。
「あ、あ、あの、あ、あれは、あ、あれも幻獣、なの?」
「え? うん、小人だよ」
「小人……っ!」
小人って幻獣の一種だったかなぁ!?
そ、そりゃわたしの前世とこの世界とは違うってわかってるけれど〜!
とんがり帽子を被って、シンプルな服を着た子供の姿の小人のイメージが!
ハゲてて、少しお腹の出たおっさん……。
「ティナ? どうしたの? 元気じゃなくなったの?」
「う、ううん、小人さんは悪くないの……」
わたしが勝手にイメージを作って持ってただけだもの。
小さいおじさんにはなんの罪もないわ、多分。
「聖女様、こちらのお部屋をご利用ください」
「ひえ!?」
なにか肌色のものが浮いてる!
まさかさっきのおっさん!?
と、驚いてしまうが、そこにいたのは少女の……羽のついた小人?
「これは妖精」
「よ、妖精さん!?」
「ここは小人と妖精がやってる宿なんだ」
「ようこそレンゲ様、聖女様。あと小汚い人間」
「俺だけ扱い雑じゃねぇ?」
「喋るな口が臭い」
「す、すみません」
よ、妖精さんお父さんへの対応が塩ー!?
可愛いのに! 可愛いのにお父さんにだけ無表情で唾まで吐き捨てた!?
な、なぜー!?
「今、お飲物をお持ちしますわ。お部屋の中でお待ちください」
「あ、ありがとうございます……? あ、あの、お父さんの分もお願いします」
「え? …………。わかりましたー」
い、今の“間”は……!?
「お、俺が人間だからか?」
「『エデサ・クーラ』のせいで人間にいい印象がない幻獣が増えたから、多分そのせいだと思う。……人間みんなが悪ではないと、わかっているのにね」
また『エデサ・クーラ』のせい……!
も〜、本当にあの国は〜っ!
「……なんにしても少し休んで」
「あ、う、うん、そうね……」
レンゲくんが妖精さんに案内してもらった部屋の扉を開ける。
部屋の扉はシンプルなのだが、素材もこの青い木を使っているらしくほんのりと光っているように見えた。
あ、部屋の中も全部あの青い木が木材として使用されているのね。
全体的に青で綺麗。
水の中にいるみたいだ。
家具も全部見たことのない独創的な形だなぁ。
ど、どうやって使うんだろう、あの捻れた……棚?
「あ、よかった……ベッドは普通……ひっ!?」
「ティナ!? どうし……ひっ!?」
「二人ともどうしたの?」
最初にわたしが部屋に入り、お父さんが後ろから入ってきた。
なので、ベッドの横にある窓辺にびっしり隙間なく無数の妖精さんが張りついていたのに気づいて立ち止まる。
それもみんな女の子の妖精さん。
わたしたちが立ち止まってしまったのでレンゲくんは入ってこれない。
だから、見えないのだろうけれど……。
「なにあれオンナ? ニンゲンのオンナ?」
「なにあのオンナ……」
「レンゲ様に手を引かれてたわよ」
「なにそれ許せない」
「処す? 処す?」
「出てけニンゲン、オンナ……」
「レンゲ様に近づくとか万死……」
と、いう呪いの声は聴こえてくる。
レ、レンゲくん、モテますなぁ!?
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