十三歳のわたし第8話
あれから三日後、ギャガさんたちは亜人大陸へ向けて出発していきました。
わたしがレンゲくんに敬語を使わなくなった時はみんな「え?」という表情をしましたが……それも驚くほど“一瞬”でね……フフ。
「ティナ〜、プリン食べたい〜」
「ええい! プリンは意外と時間がかかるので夜です!」
「最近僕の扱い雑じゃない!?」
「わたしはお菓子製造機じゃないの!」
「あうう……」
……ホラ見たことか、お父さんとナコナとレネの冷淡な眼差しよ!
気づいてる? 気づいてないな?
こんな感じで一瞬で納得されたわ!
「まあ、あれじゃティナもああなるよなぁ」みたいな目で見られてるよ!
しかもほぼ四六時中人の後ろを雛鳥みたいについて来て!
ストーカーかな!?
いや、堂々とついてくるのでストーカーではない?
……なんかホント子どもみたいなんですけど〜!?
たまに邪魔だけど地味に「かわいい」と思ってしまう自分が! 自分がっ!
あれよ、なんかモネの後ろをついて回るムジュムジュみたいなのよね。
……変なところ獣か……。
いや、ペット?
い、いやいや?
「ナコナ、あとで少しいいか?」
「うん? なあに?」
お父さんがナコナに声をかけたのを見て「ああ、あの話だな」と思った。
なんとなく謎の罪悪感。
「ティナ……?」
「な、なんでもないよ」
「おい、邪魔だぞヘタレレンゲ」
「へ、ヘタレ……!?」
「こ、こら! レネ! 一応お客様だよ!」
「い、一応!?」
……最近レネのレンゲくんへの扱いも雑だな。
わたしのせい?
「んもぅ、最近レネは僕に失礼だよ〜。まあ、いいけど。それで、ティナは今からなにするの?」
「例の『プラス5』の上級治療薬を使って魔力回復薬を作れないか試すんだよ」
「ああ……」
ナコナに話をするまでに、魔力回復薬の研究を進めよう。
ノートと筆ペンを手に錬金部屋にいそいそ……。
しかし後ろからやっぱりついてくるイケメンの皮を被った大型犬。
実は先日作った上級治療薬『治癒力プラス5』は文字通り『治癒力五割増し』という意味だったらしい。
……これを見せた時のお父さんとギャガさんたちの顔ときたら……。
レンゲくんが幻獣大陸から持ってきた幻獣大陸の素材を前にした時のようだったわ。
どうやら「こ、こんなの初めて見た」らしくてね……全部五割増しで買い取ってくれたんだけど……一瓶だけ、実験用に残しておいたのだ〜。
「…………とはいえ、この『治癒力プラス5』もまた作れるかどうか微妙なのよねぇ」
治癒魔法で錬成したのはあれが初めてなのよ。
ギャガさんはまた上級治療薬の素材を集めてくれるって息巻いてたけど、今の時期は簡単じゃない。
そしてギャガさんが材料を仕入れてきてくれるまで、再度作って試すことはできないわ。
ついでにこの『治癒力プラス5』の効果のほども不明だ。
ギャガさんが上級冒険者の何人かに売りつけて「効果を確認させるんだもんな」と悪い顔してたけど……。
うーん、上級治療薬の素材が全部植物系なら栽培もできたんだけどな。
「もったいなくない?」
「もったいないけど……魔力回復薬があれば澱んだ『
……他の錬金薬師が!
そして錬金薬師が絶滅しないために!
「……っていうか、それならティナが珠霊石を作った方がいいんじゃないの?」
「え?」
「珠霊石は珠霊人にしか作れない。……確か、珠霊人が魔力を普通の石に込めて作るって……」
「…………」
も……盲点ーーーー!
そういえばわたし珠霊人だったし、珠霊石って本来は珠霊人が作るんだっけー!
ん? いやでも珠霊石って魔法を使うのに必要なんじゃ……?
と、聞いてみるとさらりと「え? いや、珠霊石は珠霊が物質化したものだから『
「ええー!」
「し、知らなかったの」
「知らなかったですよ!?」
「まあ、でも『
…………それです。
「じゅ、珠霊石が高額で取引される貴重品でとても狙われる理由がわかりました……」
「えぇ……」
魔力回復技術は難しい。
特に“使いながら使う”ことが求められる錬金薬師にとってはその熟練度が錬金薬師の実力を左右する。
だから、飲めば魔力を回復するって薬って楽でよくない?
と、思って魔力回復薬を作ろうと思ってたけど……珠霊石って持ってるだけで『
「まあ、人間大陸は『
「そ、そうですね……」
珠霊石が欲しいのって、魔法使い志望の人だけのイメージだった。
でも、シィダさんに魔法の使い方を教わってわかったのは『大体錬金術と一緒』……ということ。
そして、細かく言うと『錬金薬師と一緒』。
……魔法もまた、魔力回復技術を“使いながら使う”必要があるのだ。
特に下級のものからすでにそうなのだから、まあ……ある意味錬金薬師より大変だとは思うけど……。
「そっか、錬金薬師にも珠霊石があればいいのね……」
薬は一度飲んだらそれっきりだけど珠霊石は持っていれば無限に使えるんだもん……そりゃ誰だってそっちの方がいいわよねぇ。
あ、それだわ!
「いえ! やっぱり魔力回復薬は必要です」
「ええ?」
「珠霊石はずっと使えるけど高い! 魔力回復薬は一回しか使えないけど安い! これです!」
需要と供給を考えれば、そちらの方が遥かに回転数があり、持続的な需要と収入が見込める!
大量に出回れば相場も、多くの錬金薬師がそれを作れるようになれば供給も錬金薬師の収入も安定!
儲かると分かれば錬金薬師を目指す人も増えるはずだし……ほら、いいことづくめ!
「でもまだ成功してないんでしょ」
「そ、そうだけど……」
そうなんだよなぁ。
簡単に考えれば『
でもどうやって?
珠霊石は『
うーん、うーん……。
「エアの花を使ってみたら?」
「エアの花? なにそれ、聞いたことない……」
でも名前がすでに『
どこにあるの!?
花ってことは栽培できる!?
「地殻に咲く『エア』の魔力を浴びて育つ花……幻獣大陸、レビノスの泉に咲いてるんだ」
「! こ、こちらで栽培して増やしたり……」
「それは無理だと思うけど……」
「んもぅ、それじゃ意味ないですよー! わたしは量産したいんです!」
アリシスさんには量産にこだわってたと懺悔したけれど!
以前とは心持ちが違うわ!
必要な量産だと思うから量産したいの!
錬金薬師の未来のために!
「難しいこと考えるねー」
「必要なことなの!」
「なら普通の水にティナの……珠霊石を作る魔力を注いでみるとか?」
「珠霊石を作る魔力って?」
「さあ?」
そもそも珠霊石を作ったことないんですけど……。
というかそんなんでできたら苦労しないわよ〜。
まったく〜、適当なこと言って〜。
結局レンゲくんもわからないんじゃなーい。
……でも、水に魔力を注ぐって……そういえばそれだけってやったことないなぁ?
大体なにか素材と素材の繋ぎにしか使わない、水って。
「…………。やってみようかな?」
レシピ本にも材料が水だけ、なんて見たことない。
水に魔力を注ぐだけとか、四歳の頃のわたしでもできる超簡単で失敗もしなさそう!
ちょっと面白そうだな、と思って、早速錬金部屋の鍋の中に水を注ぐ。
えー、なにができるだろう?
なにもできなくても別にいいけど、何事もチャレンジよね〜!
「ふんふんふーん」
レンゲくんが見守る中、鍋の中の水へ魔力を注ぎぐるぐる混ぜる。
もしかしたら光らないかも、と思っていたら……カッ! と光った。
大体一分くらい……ちょっと長めな方だったけど……光った、わね?
「鑑定!」
なにができたのこれ?
鑑定魔法で見てみると…………。
『魔力回復薬(最良)』
「……あれ? できたね?」
「…………できたね…………」
…………わたしの、数年前からの努力は……?
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