十三歳のわたし第6話
とにかくわたしとお父さんは、ギャガさんたちを見送ったらナコナにこのことを話して、幻獣大陸に行くことになった。
レンゲさんは「あと二ヶ月くらい悩んでてもよかったんだよ?」とわけのわからないことを言っているが、そんなことしてる間に妊婦さんたちが『
この間『ダ・マール』に行った時は会わなかったけれど……クノンさんとミハエルさんご夫婦だって結婚から一年くらい経ってるしそろそろお子さんも……なーんて話になっているかもしれない!
知り合いが『
「よし!」
「なんか今日は無駄に気合入ってるね?」
「上級治療薬を作るわ!」
「あー、それで。頑張ってね」
「うん!」
翌朝ナコナに朝食作りを任せ、昨日入手した上級治療薬素材片手にまずは『凝縮化』!
全て魔力で加工した『粉末』にして、いざ!
「…………アリシスさんに言われたことを忘れないように……」
成功するかな?
薬を、使う人のことを想って……どうか、この薬を使う人が良くなりますように。
集中しながら、魔力回復を同時進行で行いながら……かき混ぜ、魔力を注ぐ。
カッ!
鍋が光れば……できあがり、なんだけど……。
「…………だめか〜」
いけると思ったけどいつもの濃いピンク色。
鑑定してみるが鍋の中身は『上級治療薬』。
その後も数回に分けて作ってみたがぜーんぶ『上級治療薬』だった。
……万能治療薬……強敵すぎる。
い、いや、まあ、ギャガさんたちに売る分を作らないといけなかったし?
全部万能治療薬になってたらそれはそれで一種の事件だから……いいんだけど。
さて、残りの材料も少なくなってきたしそろそろ『聖魔法』を注ぐやり方を試してみようかな。
『
そう! わたしが! 作った!
ここ大事!
錬金術を始めて九年……磨き抜いた腕で今度こそ確実に万能治療薬を作ってみせる!
偶然になんて頼らず! いざ!
「……………………」
『
これまで下級治療薬や解毒薬などで試したところ、奇妙な変化があった。
それは治療薬系ではなく、回復系に主にあった変化だ。
例えば解毒薬+聖魔法だと、解毒薬に疲労回復と傷を治癒する効果が付属した。
つまり、複合効果のある薬になったのだ。
これはわたしが『作ってみたいお薬リスト』にメモしていたもので、やったー、達成したー! と両手を挙げて喜んだもの。
しかし、魔力を回復する薬や万能治療薬には程遠い……。
なぜなら、下級の方が効果が大きく顕れ、上級は思ったほどの効果が顕れなかったからだ。
多分これは下級の方が『伸び代がある!』のだと思う。
わたしは勝手にそう思っているんだけど……まあ、これは仮説。
立証はこれからね。
いやぁ、奥深いわ錬金術。
「さてと、どうかしら」
と、まあそういうわけで上級治療薬で聖魔法を使って作った場合……可能性は割と低いと考えている。
鑑定魔法で確認すると……ああ、やっぱりだわ……。
「品質『最良』、効果『治癒力プラス5』……? プラス5ってなに……?」
最良品質! やったー!
……と、思わないでもないけれど〜……またわけのわからない付属効果が現れたものね?
まあ、いいわ……今回試したレシピに結果もメモメモ、と……。
ギャガさんやお父さんならこの『プラス5』についてなにかわかるかしら?
うむむ、悔しいわ……鑑定魔法の精度を上げるために、本は割と読んでるはずなのに……。
ギャガさんのように経験に基づく知識や、お父さんのように騎士学校で身につけた知識に比べるとやっぱりわたしはどうにも劣るのよね……。
お客さんがいなくて本を読んではいるもののレシピ本ばかりだから……そうか、レシピ本ばっかり読んでたら物の詳細に関しては身にならないか……。
今度はそういう本もギャガさんに仕入れて来てもらおう。
……いや、待てよ?
東に行くなら『サイケオーレア』に寄らせてもらえないかしら?
『サイケオーレア』は国家錬金薬師が二人もいるの。
会ってお話とか聞いてみたいな!
「ふんふふふーん」
小瓶と大瓶に分けて入れて……問題の『プラス5』をポシェットにしまう。
練金部屋を出た後は昼ご飯の準備ね。
お掃除はレネとモネに頼んでいるからチェックしに行かないと……おや?
「……レンゲさん、なにしてるんですか?」
「あ、ティナリス。君の方こそなにしてたの?」
「わたしは錬金術でお薬を作っていました」
リホデ湖の畔にぼんやり佇むレンゲさん。
通常モードだ。
最近甘党モードしか見ていなかった気がするから、ちょっと変な緊張があるわね。
……ん? それって甘党が通常? あれ?
「そうなんだ。錬金術ねぇ……」
「嫌いですか? 錬金術」
幻獣の中には人間が錬金術を使うから嫌いっていうものがいる、という話を耳にしたことがある。
理由まではよくわからない。
ギャガさんの「キメラって強くてかっこいいんじゃもんの!」話のネタの中に垂れ流されていたので話半分って感じでしか聞いてなかった。
レンゲさんは、もしかしてその『錬金術嫌いな幻獣』なのかしら?
「ああ、錬金術が嫌いなのもいるね。キメラとか」
「……キメラは錬金術が嫌いなんですか」
キメラかーい……。
そうか、そりゃギャガさんの話題に出るわ!
「……キメラをモデルに昔、錬金術でたくさん動物が“混ぜられた”事件があったんだ。……魂が複数詰め込まれた狭い器に、動物たちの悲しみや憎しみ悔しさが変質して……『
「え……」
「『
それで、魔物は『動物』や『昆虫』が多いんだ?
……錬金術で、生き物を混ぜるなんて、昔の人って恐ろしいこと考えるのね……。
素材と素材を混ぜ合わせる……魔力で……。
その『素材』を、生き物にする、いえ、したということ。
ゾッとした。
腕に寒イボが!
「でも人間は忘れたんじゃないかな……。なんで魔物が生まれたのか……人間大陸ではなにも伝わってないよね」
「そ、そうですね。一言『
その罪がなんなのか。
シリウスさんも言ってなかったな。
わたしが子どもだから教えてくれなかったのかもしれないけど、わたしもそれ以上深く学ぼうとは思わなかった。
『
「レンゲさんは意外と物知りですね!」
「……こう見えて長生きしてるからね」
「そうなんですか? ……わたしより少し年上って感じですけど……。あ、でも十三年前からあんまり変わってないような?」
「うん、僕は三千年くらい前から成長が完全に止まってしまってね。そろそろ自分が何歳なのか、ざっくりとしかわからないや」
「さ?」
……え?
今三千年前って言った?
三千……三千?
「僕も人間と幻獣の混血。大まかに亜人の括りなんだろうけれど……。残念ながら亜人のように“老化”しないんだ。多分人間より幻獣の血の方が濃いんだろうね」
「……レンゲさんも、亜人……?」
「幻獣と人間の混血児が亜人の祖と言われているよ。
「ロフォーラに、いた、んですか?」
「昔少しだけ住んでいんだよ……。あの山の上に小さな家を作って、両親と暮らしていた。故郷といえば、ここは僕の故郷だね……」
「…………」
目を細めて、裏山のその奥にある本山の方を見るレンゲさん。
……レンゲさんの、故郷……。
わたしも振り返って、山の上を見上げた。
雲が薄っすらかかっていて、ちょっぴり天気が悪い。
「あそこからよくこの湖を眺めていた。不思議だよね、それはなぜか覚えてるんだ」
「そうなんですね。じゃあ、ここでお魚とか釣ったり」
「ううん、眺めるだけだった。僕の母は人間だったけど、僕も父も食事をほとんど必要としなかったから、母の食事は……確か母の弟、叔父さんが持ってきてくれていたような……うーん、うろ覚えだなー」
「じゃあ、レンゲさんのお母さんのお墓とかは……」
「ないよ。母が亡くなってから何年後かに最初の『
「そん、なに?」
地形ごと?
町も国も文化も文明も……なにもかも。
錬金術や魔法も違うのかな?
あまり想像できない。
でも、レンゲさんは目の当たりにしてきたのか……。
お母さんの、お墓もなくなって……慣れ親しんだ景色や知り合いも文化もなにもかも別物になる。
それは、自分の生きていた世界と全く別な世界に飛ばされたのと同じ……。
わたしにはそれがどういうことなのか、少しだけ分かる。
前の世界とこの世界は全然違う。
人も町も国も文化も文明も。
同じような野菜や果物はあるし、優しい人悪い人がいるところや戦争があるのも同じだけど……前の世界の知っている人がいるわけじゃないし、技術的なものだって色々違う。
多分レンゲさんが言ってるのはそういうことだと思うの。
ああ、想像するとそれは寂しいな。
「行ってみたいです」
「え? どこに?」
「レンゲさんが昔住んでたところに。なにも残ってないかもしれないですけど、見に行ってみたいです」
「ええ? あの山の頂だよ?」
「え? 空飛べるんですよね?」
「……………………」
にっこり笑って見ると、引いた表情をされた。
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