うちの四歳の娘がなにやら天才ですごい。



 俺が『ダ・マール』国を気に入ったのは協和という思想が気に入ったからだ。

 事実近隣国とも友好関係を築き、人間至上主義国家『エデサ・クーラ』の暴挙を度々制している。

 いわば人間大陸の良心。

 ……だが、恐らく俺は『エデサ・クーラ』に復讐心も持っていたのだろう。

 あの国が嫌いで仕方なかった。

 仲間を殺されたから、とか、それ以前に……俺の両親は『エデサ・クーラ』に国を解体、吸収されて土地を没収。

 そして、生涯治ることのない病を植えつけられた。

 幸いにして両親はその病を理由に土地から追い出される形でロフォーラ山の麓に仲間とともにあの宿、『ロフォーラのやどり木』を作り平和に暮らし、そして両親の間に兄と俺が生まれる。

 その後の人生はノリノリでイケイケだったのだが、俺は『エデサ・クーラ』が最後に仕掛けた『ジェラの民掃討戦』——俺たちは『ジェラ攻防戦』と呼んでいる——で腕を失った。

 そしてその帰り道、俺は生涯をかけて守るべき存在に出会う。

 幻獣という伝説の存在に導かれ、小さな入れ物に入れられた捨て子。

 その赤子を、俺はティナリスと名づけて連れて帰った。

 生きる意味を見出せずにいた俺は、希望しかない赤ん坊に触れた時に……こう、神からの啓示でも与えられたような気分だったんだ。

 簡単に言うと……赤ん坊という未来の詰まったものに触れて感動したってことだろう。


 ああ、懐かしい。

 帰った途端に親に泣き崩れられた。

 冒険者だった兄の遺体が、先程“帰ってきた”ばかりだったと。

『ダ・マール』の騎士団が連れてきてくれたと言って、母は泣いた。

 あの時期にあったダ・マールの騎士団が関わった戦闘は『ジェラ攻防戦』のみだ。

 俺の兄は冒険者として、ジェラの民に味方したのだろう。

 俺が『ダ・マール』の騎士団にどんなに誘っても、自由に世界を見たいと言って笑っていた人が……。

 いや、自分の正義に従って戦ったんだろうな。

 そういう人、だ。


「赤ん坊? ……こんな時代だ、親にも相当な事情があったんだろう」

「そうね、不憫だわ。うちは裏にロフォーラ山、表にリホデ湖がある。自然の恵みに満ちているから、一人二人増えたって大丈夫」

「ああ、そうだな。……それに、お前がこうして生きて戻ってきた。きっとロムレスが守り導いてくれたんだろう。……その幻獣はもしかしたらロムレスが化けたのかもな」

「……そうかもなぁ」


 最後まで人助けしていそうだと思った。

 お人好しで、大らかな人だったから。

 この赤子のことも見つけた手前放って置けなかったのかもな。

 そう思えば尚のこと、この子は守らなければ。

 俺が、一生をかけて。

 こんな腕の俺に抱えられて起きもしない。

 そんな大らかなところは兄貴に似ている気がした。




 それから四年ばかり経つ。

 母は遂に病を拗らせて神の下へ旅立ち、父も倒れてしまった。

 親孝行のために戻ってきたのに。

 俺は親になにも返せていない!

 宿屋の主人として修行を始めてみれば、なんと大変な仕事か。

 我が家兼受付の家屋のみならず、客室となるコテージは六つ。

 それらの掃除、客の使ったシーツの洗濯、客が泊まればコテージごとに風呂を炊き、オプションで要望を貰えば飯も作る。

 風呂の為に山へ木を切りに行き、そこから木を薪に加工。

 飯の材料を山に採りにいったり、湖で釣ったり、畑の手入れをしたり!

 あああ、目が回る!

 やることが多すぎて訳がわからない!

 これなら騎士団で戦ったり事務仕事をしている方がマシだったかもしれない忙しさだ。

 それを二人でこなしてきたのか、と両親の偉大さに今更ながら気づかされた。

 ……騎士団なんて行かずに、親の手伝いをしていればこんな重労働を何年も任せきりにしなくて済んだかもしれない。

 俺も片腕を失わずに、親の苦労も少しは減っていたかも。

 後悔ばかりする人生だ。

 好き放題に生きてきたツケを払ってるってことなんだろう。

 馬を走らせ、倒れた親父を何度か見てくれたことのある医者が住む港国『フェイ・ルー』へ入る。

 ティナリスは大丈夫だろうか……。

 頭も良く、気を遣える子だ。

 とても賢い、いい子だ。

 客に世話を頼む羽目になったが、あの子は迷惑になるようなことはないだろう。

 しかし、やや胡散臭いおっさんが混じっているパーティーだったが大丈夫だろうか。

 女が二人もいるのだから、変なことにはならないと思うが……タチの悪い冒険者たちだったら親父を殺してティナを攫っていくってことも考えられる。

 あの魔法使い風の娘も給料がどうとかいっていたし……。

 しかし、俺の愛馬、ジュディは俺や家族以外の人間を背に乗せるのを嫌がる。

 なかなかに気難しいオンナなのだ。

 あの冒険者たちの中で馬に乗れるのは例の胡散臭いおっさんだけのようだし、なによりロブさんの診療所はなかなかわかりづらい場所にある。

 初見の人間は辿り着くのが難しいかもしれん。


「くそ! 早く帰らねーと!」


 親父のこともあるがティナのことも心配だ。

 医者のところに走る。

『フェイ・ルー』は入国が比較的簡単だが、港の国と呼ばれるだけあり貿易の拠点。

 商人の数が多く、入国には時間を要した。

 大国の一つであり国土も『ダ・マール』と遜色ない。

 要するに広い!

 現在も広がっている『フェイ・ルー』の国土は来るたびに俺の知っている市街地が中心部近くになっている。

 なので、知り合いの医者のところまで大通りを抜けて見覚えのある店や家を探さねばならない。


「……緑色の酒屋の看板……と、赤い三角屋根、黒猫の薬屋、で……あった!」


 その隣にある古びた木の看板が下がる掘っ建て小屋のような小さな診療所。

 国営ではない、ロブという個人医がこじんまりとやっている。

 人付き合いが苦手らしいが腕は確かで、兄貴に紹介され、うちの一家はここの世話になっていた。


「ロブさん! いるか!? 親父が倒れたんだ、すぐに来てくれ!」

「……。ビックリした。酷い大声だ。うちは小さいんだから、乱暴に扉を開かないでくれたまえ。……こ、壊れてしまう」

「あ、ああ、悪い。慌ててつい。それより親父が……!」

「わかった。聞こえている。そんな大声を出さなくても。聞こえたね。……わかった、準備するからそこに座っていたまえ。ふうう、これだからロムレスの弟は」

「………………」


 まるでドワーフのような小さな背丈。

 しかし頭がでかく、体は細い。

 同じ人間なのかを疑うような身体つきだが、サイズの大きなよれた白衣を引きずれながら現れたロブ医師は両親、俺、ティナのことも診てくれているいわゆるかかりつけ医というやつだ。

 シワの増えた顔に、こちらもサイズ感がおかしな小さい眼鏡を鼻に乗せてボソボソと独特な喋り方——棒読みってやつか?——をする人だが、色々察してすぐに準備を整えてくれる。

 玄関の扉に『遠方患者診察中』の札を下げて「馬はどこかね」と見上げてきた。

 少々無理をさせすぎているのだが、戻りも頑張ってくれるだろうか。


「どうせ君のことだ、馬にも無理をさせたのだろう。それでは、帰り道にへばられてしまう。これを飲ませなさい。馬の疲労にも効く」

「中級治療薬」


 珍しいもん持ってんな!

 下級治療薬よりやや赤みの濃い色の液体。

 外に待たせた愛馬ジュディに借りた器の中へ注いで飲ませてやる。

 疲れた顔をしていたジュディがそれを飲み干す頃、目は爛々と輝き「ヒヒン!」といななき、まるで「さあ、行くぞ。早く走らせろ!」と言っているような顔になった。

 お、おお! さすが中級治療薬! すごい効き目だな。


「そういえばティナリスは元気かね。そろそろ予防接種の時期だ」

「え? 予防接種? なんの予防接種だ?」


 赤ん坊の時に連れて行った時、ここぞとばかりに五本も六本も「予防接種だ」といって注射を打たれたティナ。

 泣くのを必死に耐える姿に「代われるものなら俺が代わってやりたい!」と何度思ったことか!

 正直赤ん坊にあんなに注射を打つなんてこの医者悪魔かと思ったが、病気の恐ろしさは親の姿で痛いほどわかっている。

 というか、子どもにあんなに予防接種しなきゃいけないなんて知らなかった。

 あと、結構金も取られた。

 しかし、ティナの健康にはかえられない。

 そんな辛い記憶しかないのに、ティナはまた何本も予防接種を受けなければならないのか?


「赤ん坊の頃に打ったものとは別だ。肝炎のA型、B型、それからドデロウイルス。赤喉病、水泡風邪は赤ん坊の時も打ったが、あれは二回程打たねば効果が出ないと言われるからもう一度。中でもドデロウイルスは怖いぞ。悪化すると骨が全部溶ける」

「た、頼む!」

「うむ、予防接種の薬と注射器も持ってきた。大丈夫だ」


 そんな恐ろしい病が!

 くっ、世の中には危ない人間も多いが危ない病も多いな!


「ところでそれらは総額いくらだ?」

「五万コルトになる。払えるかね?」

「払う」


 退職金の中から余裕で出せる。

 ティナのためならいくらでも出すわ!


「昔と違って亜人との交流が増えたからな……未知の病も増えた。健康には気を使うように。お前も、ティナリスも」

「お、おう」


 ロブ医師を乗せて来た道を戻る。

 馬を休ませながらなら往復七日はかかる道を五日で帰った。

 ああ、ティナ! 無事でいてくれよ!

 無理して料理しようとして火傷したり怪我したりしていないといい。

 あの冒険者たちに怖い思いをさせられていたり……親父にもしものことがあったり……。

 不安だ不安だ不安だ〜!


「ただいま!」

「あ、お父さん!」

「おお、帰ったかマルコス。早かったな」

「………………………………うん」


 家への階段を駆け足で登り、扉を開ける。

 今はもうすっかり左手で開けるのに慣れたが、ドアノブが右側についているのって左手だと開けづらいんだよな。

 ティナの言う通り扉を引き戸ってやつに変えた方が楽かもしれない。

 ……と、一瞬現実逃避してしまう程度には目の前の光景があまりにも俺の不安とかけ離れていてどうしたもんだろうかこれは。


「親父、寝てなくていいのか!?」

「ああ、ティナリスが薬を作れるようになったから、もうだいぶいいわい。腰と膝もティナが治してくれたしなぁ」

「は、はあ?」


 どういうことだ?

 親父の足腰は老化のせいで弱っていたはず。

 それが治った?

 ど、どういうことだ?

 それに、ティナが薬を作れるようになった、って、なんじゃそりゃ!?


「久しぶりだ、マロー」

「おお、ロブ先生! きてくれたのか! すまんのう、遠くからわざわざ」

「なんじゃ、調子はよさそうだな。どれ、診てみるから座れ。そこの席でいいか」

「む、うむ」


 それでもロブ医師はマイペース。

 親父を喫茶コーナーの椅子に座らせて診察を始めた。

 さて、状況が掴めないぞ。

 俺のいない五日間、なにがあったんだ?


「おう、ご主人! お帰り!」

「あ、ああ、あんたたち! 留守番ありがとう……で、一体なにがあったんだ? なにがどうなってる?」

「あー、そう思いますよねぇ!」


 開けっ放しの玄関に向かって階段を上ってくる姉妹。

 俺が留守の間ティナたちを頼んだ冒険者。

 二人は畑からポーテトとキャロロト、オニュオンを取って来たところのようだ。

 他の二人の所在を聞くと、山へボア狩りに行ったと言う。

 だ、大丈夫かぁ?

 裏山のボアは大型のものが多くて素人じゃあなかなかに危ないと思うんだが……。

 まあ、野郎なんざどうでもいい。

 それよりもティナだ。

 ティナが薬を作れるようになったとは、一体どういうことなのか。


「オタクの娘さん天才ですよ! うちの考古学者が太鼓判押すんだ、間違いない!」

「は、はあ?」

「そうなんです! なんとティナリスちゃんはお爺さんを助ける為に錬金術が使えるようになったんですよ!」

「れ、錬金術!?」


 ますます状況判断が困難になった。

 ティナが錬金術を使えるようになっただと?

 何故? どうやって!?

 錬金術なんて素人が国立学校に行って基礎から学んだって、簡単に使えるようなものではない。

 俺だって騎士学校で基礎は学んだが、魔力の使い方があまりにも繊細すぎてさっぱり使えなかった。

 魔法は錬金術よりは大雑把なのだが、剣に付与して使うタイプ以外はやはり繊細で本格的には覚える気も起きない。

 加えて本格的に学ぶなら魔力回復技術も訓練しなければならんのだ。

 剣に属性を付与して戦う魔法は使えた俺だが、魔力回復は安全な場所じゃないと集中して行えなかった。

 魔法を使いながら、錬金術を使いながら回復を行うなんて神業だ。

 だから、繊細な魔力操作を必要とされる魔法と錬金術を……俺は向いてないと諦めたのだが……。


「あの、お父さんのしょこにあった錬金術の本を見ながら作りました」

「? これは下級治療薬? ……。…………。ん? は、はあ!? 本で!? 本を見ただけで作ったのか!?」

「はい」


 手渡された小瓶は薄い桃色の液体。

 はあ、本で?

 本を読んで錬金術を?


「て、天才じゃねぇか……!」

「だろう!?」

「ですよね!」


 姉妹が俺の呟きに目を輝かせながら同意してきた。

 そりゃそうだ、学校で専門家から学んでも覚えられない奴がごまんといる中、本を読んだだけで使えるようになる?

 天才以外のなんだっていうんだ!

 そんなこと普通ありえない!


「い、いえ、そんな……ぐうぜんがかさなっただけかもしれませんし」

「そんなわけないだろう? 偶然が重なってお爺さんの粉薬を二回も三回も作れるもんかよ」

「そーよそーよ! それに今の所、一番最初の乾燥加工以外は全部成功してるじゃない! 量産化が軌道に乗ったらあたしに卸してよ! 全部売ってくるから!」

「……い、いえ、その商売のお話は父に……」

「なんだ? 金儲けの話になってるのか?」


 これは詳しく問いただす必要があるな?

 もちろんティナではなくこの魔法使い風の小娘を。


「たっだいまー! あ、店主さんが帰ってきてる!」

「お、おう、留守番ありがとうな。ボアは獲れたのか?」

「いんやー、逃げられた〜」

「ウリボアなら狩れたのですが」


 と、入ってきたのは冒険者の少年と胡散臭いおっさんだ。

 残りのメンバーはこれで揃った。

 この二人もティナの錬金術を見ていたらしく、口を揃えてティナを「天才だ」と褒め称えてくれる。

 まあ! うちの娘が天才なのは俺も最初から気づいていたけどな!

 だって四歳で宿の手伝いをしてくれる娘なんて天才以外のなんでもないだろう!?


「おたくの娘さんは素晴らしい才能をお持ちです。ぜひ『サイケオーレア』への留学をお勧めしますよ! 私は知り合いが『サイケオーレア』にいますので紹介状を書きましょう。彼女の才能は伸ばすべきです!」

「う、うむむ……それは確かに……だ、だがティナはまだ四歳だ。最東端の『サイケオーレア』に行かせるのは……」

「ではエルフの国『フォレストリア皇国』はいかがです? 『サイケオーレア』に比べて魔法寄りにはなりますが、学問を学ぶのならば数千年の知識が蓄積された『フォレストリア』でも十分すぎる。なにより『フォレストリア』は私の故郷。息子がご息女の面倒をみますので、是非!」

「いやいや、そんな……見込んでもらえるのは光栄ですがそこまでしていただくわけには……」


 ……まさかな。

 幻獣が俺に託した娘だ……なにか特別な存在なのかもしれないと思っていたが……考古学者がここまで言うほどとは。

 …………ティナリスはやはり普通の子どもではないのか?

 振り返ると、少し不安げな娘が見上げていた。

 ンン! 確かに普通の娘ではないな! めっちゃ可愛い!


「…………。ティナ、この方はここまで言ってくださっている。お前はどう思う? お前はどうしたい? 外国に行って勉強してみたいか?」


 しゃがみ込んで、目線を合わせる。

 俺はティナよりも大きくなってから自分で決めて『ダ・マール』へ飛び込んだ。

 結果このザマだが、あの国での出会いも経験も決して無駄ではないと思っている。

 愛する妻と娘、戦友とも、部下……みんなあの国で出会った。

 悲しい別れも多かったが、それでも得たものの方が大きいと思う。

 ティナリス、お前にも広い世界を見て欲しい。

 さすがに、まだ小さいお前を外国に送り出す勇気はないけどな!

 それにこれは俺の願望だが、お前が望まないなら無理強いはしないさ。


「……べんきょうはしてみたいです。でも、わたしはまだ子どもなので外国はこわい……。それに、体調の悪いお爺さんや、お父さんに宿をまかせてでていくなんてわたしにはできません!」

「っ!」



 天使!



「……大丈夫かい? 店主?」

「はっ!」


 ティナがあまりにも天使すぎて一瞬意識が……。


「ふむ、興味深いね。ティナリス、錬金術を覚えたとは素晴らしい。それが本当ならば是非頑張って中級治療薬を作ってうちの診療所に卸して欲しいね。安値で頼むよ」

「ロブ先生……」


 あんたも大概マイペースだな。


「それはそれとしてティナリスは今から予防接種だよ。さあおいで。ここに座って腕を差し出したまえ」

「え? ええ!? わ、わたしもですか!?」

「そうとも。子どものうちに予防接種するのは大切だよ。今回は六種類ほど打つよ。頑張りたまえ。大丈夫、下級治療薬なら持って来ている。跡にはならないよ」

「………………そ……、……、わ、わかりました」


 多分そういう問題ではない、ロブ医師。

 しかしいい子のティナは親父が退けた椅子に座り、素直に腕を差し出す。

 ああ、あんな細腕にあんな針を六回も刺すなんて……!

 代われるものなら代わってやりたい!

 でも俺が予防接種受けたところで意味がない!


「……しかし、ティナが親父の薬を作ったって本当か? 親父の薬は上級錬金術師じゃないと作れないと聞いたぞ?」

「ああ、しかし作ってしまったんだ、本当に。ほれ、こうして元気になっただろう? 下級治療薬も飲んだら足腰に効いてな、このようにスクワットもできるぞい」

「うわ! む、無理するなよ親父!? 下級治療薬で一時的に痛みが取れただけだろう!?」

「まあそうなんだが……。シリウスさんによると、ティナが作る薬は魔力純度が高く効果が他のものより数倍高いらしい。錬金術が使えるのもすごいが、魔力純度が高い方がすごいだろうな」

「……!」


 魔力純度が高い。

 ……なんと言うことだ……まさか?


「ま、まさかティナは本当に天使……?」

「……疲れとるのか? そうだろうなぁ、温泉に入って休んでこい」

「え! 温泉があるんですか!?」

「ありますよ。……ただ場所がなぁ……ロフォーラの中腹にありまして、道が舗装されとらんのです。山道どころか獣道を登らにゃならん。浸かって帰ってくる途中で転けて汚れる客もおったんで勧めておらんのですわ」

「……そ、それならいいですー」


 魔法使い風の娘が肩を落とす。

 俺はそれよりも、必死に注射地獄に耐える娘の表情に胸が痛んだ。

 ああ! 代われるものなら代わってやりたい!



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