第2話

私の持つ能力スキルには夢見というものがある


他人の夢を見て笑い転げたり

他人の夢を見て激怒したり

他人の夢を見て悲しくなったり

他人の夢を見て幸せを感じたり


だが、今日見た夢は違った


殺された、被害者の夢だ



私は起きてすぐ上層部に送る報告書、その要点をまとめる



・“狩人ハンター“と呼ばれる職業の夢

・女性、34歳

・加害者は首を刎ねられ即死

・近くにいた妹であろう女子の姿を見て憤怒、加害者へ攻撃を開始する

・警戒しながら先手を打つが、気づかれ死亡


・加害者は成人男性

・服装はフードコートに黒のTシャツ、ズボンに靴

・フードを浅く被り、キョロキョロと顔を動かしていた為、被害者の女性を探していた模様

・被害者を殺したあと、友達欲しいと呟く



こんな所だろうか…

一瞬で殺すあたり有情とも言えるが、普通の人間ではありえない程の速度で首を刎ねたのだ


もはや人ではない


魔物と人間の勾配による実験の産物か


そうなれば心当たりはあるが下手に出ると仇となる


別の路線を探る


狩人に強く執着していたので、過去に狩人による怒りを覚えたか


幼少期に復讐心が芽生え、身体が大きくなった時、まさに今だ。狩人を殲滅することを実行したのだろう


その線が強いか


早速、私は狩人連盟に電話を繋げる


『はい、こちら狩人連盟です』

「私は夢見ゆめみだ、偉い人間に繋げてくれ。あー、あと」


成人男性だったな、10年前あたりを調べてもらおう


「10年前に素業の悪い人間をリストアップしてくれ、手数をかけて悪かった」

『ゆ、夢見様の為なら早急にします!』

「口より行動で示せ、私は待つぞ」


保留してもらい、待つこと数分


『夢見、手間かけたな。我ら“狩人“のことで問題でもあったらしいな?』

「お前達“狩人“が過去に悪さして遺恨を残した若者が、今現在狩人の女が殺されている。多分だが自警団も同じ犯行だとは思うが…心当たりはあるか?」

『ありすぎて無いな』

「答えになってないぞ、年老いて頭がボケたか“千貫せんぬき“」

『おいおい、過去の名前出すのはNGだ。今は田中で通してんだよ、やめてくれよなぁ』

「貴様…今は若い人間姿なのか?」

『ご名答』


電話の相手は“田中“という偽名を使う魔人と呼ばれる種族だ


魔物と人間の勾配による天然の産物で、魔物が人に恋をして愛を育んだと聞いている


年齢は250歳と長生きしており、姿形を変えながら狩人連盟の頂点にたっている


「はぁ…話を戻すが、近頃都会の方で殺傷事件が相次いでいる。チンピラ共の死体はよく見かけるが、自警団や狩人の死体となれば話は別だ」

『ふぅん、それでなんだ?我らに力を貸せとか言わんだろうな』

「分かってるじゃないか、力を貸せ。報酬は用意する。まずは情報を探ってくれ、無本意に攻撃など仕掛けることは許さんからな」

『そうかい、たがよぉ──』


次の言葉を聞いた時、私は憤怒した


『別に殺してもいいよな?』



「なっ!貴様!死にたいのか!?相手の素性がわからん今、下手に手を出せば何が起こるか──」

『説教なんざ要らねえ。てか、たった一人相手に手間取りすぎなんだよほかの連中は、安心しろって何年の付き合いだと思ってんだ。任せとけ、じゃあな』

「お、おい──っ!」


田中は電話を勝手に切りおった


私の忠告を無視してまでの独断だと!?

加害者の強さ、自警団を1人で相手取る輩だと言うのにだ


──狩人連盟の壊滅


ふとそんな考えがよぎる

そんなことあってはならない、世界では未だモンスターが蔓延っているというのにだ


もう一度かけ直そうと思ったが無視されるのがオチだろう…




私はリストアップされた報告書を届くのを待ちながらも、加害者の対策を練り始めた


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


建ち並ぶ高い建物は“ビル“と呼ばれているらしい


そのビルの上から都会を眺める僕


ビルという言葉は昨日出会った女の子に教えて貰った


村にもこんな建物があれば面白そうだなぁって思ったけど、邪魔にしかならないからいいやって考えてしまう


昔から不思議とお腹は減らなかった

自給自足してるとは言ったが腹が減っから食う、じゃなくてそれを習慣づけろって村の長に言われたからだ


村にはトイレとかあるけど生まれてこの方、1度も出したことがない


眠ることは出来るが、常に起きてる方が目が冴える


だからだろうか


都会と教えてくれたこの場所で、太陽の日の出を迎えると


白く赤い鶏冠のある飛べない鳥が大声で喚き

小さい鳥や黒い鳥たちが餌を求めて山から飛び始め

人や人じゃない者達が動き始める


その全てが新鮮だった


村では得られなかった新鮮な光景


不思議と涙が出た


こんなにも人は必死なのだと


不思議と言葉を零す


「…嫌いだ」


好き嫌いという感情は村にいた時にはなかった


嫌いな食べ物はなかったし

好きな景色もなかった


ただそこにあるだけ


だけど、どうだろうか


今みる景色は


あまりにも美しくも清々しく


あまりにも甘美


これこそが、僕の嫌いなものだったのか?


後ろから襲う風が変化した


自然と、言葉の内容は不自然に零れる


「僕が欲しいのは君じゃない」


後ろにいた人間は僕の声を聞き、立ち止まる


風を感じたいから…そこに立つと邪魔なんだけどなぁ


「…何か用でもあるの?」


僕の問いに後ろの人間は答えない


仕方なく後ろを振り向き、姿を捉える


僕と同じくらいの身長か

服は“スーツ“っていうやつだった

顔に黒い眼鏡をかけていて視線が見えない


「こんな子供みたいなやつに…?」


と、声がした。男の人からだ


「あのさ、子供扱いしないでくれない?これでももう20年生きてるんだから」

「なんだと?」

「20超えてるの、そこから数えてはいないけどね」

「ふむ…」


男は考え込んだ、別に思った事いえばいいのに


「てかさ、貴方誰?そこにいると邪魔なんだけど」

「邪魔?私が邪魔だったか…それは失敬」

「分かったなら消えてよ、ここ汚したくないし」


敵意がないように見えるからか、僕は男に対して怒りを覚えない



──むしろ尊敬の眼差しさえ生まれる



え?


「尊敬…尊敬ってなんだろう?」

「っ!」


男は動揺したように見えた


普段、襲ってくる集団は“目“を見たら


あ、こいつは僕を殺す気なんだ

とか

あ、こいつは怯えてるんだ

とか


だいたい把握出来た


動揺したのが分かったのは

男の体が揺れ

口も少し開き

眉を上げ


怒気混ざりの殺気を一瞬だったが感じ取ったからだ




何がしたいんだろう?


と思ったら耳元に手を当てて誰かと話し始めた


「危険度SSS+、伝説級だ。作戦に入る」


そう聞こえた


何だか危険度SSS+とか、そういう響きかっこいいね!


「ねーねー、誰と話してたのー?」

「何、大人の会話ってやつさ。準備するから待っていてくれ」


大人かぁ、子供と大人の違いってなんだろうね


自分の家を持つことかな?


僕にはないから憧れるなぁ



──それよりも準備ってなんだろう?


「では、参ろうか。私は『狩人』の野田山だ、冥土の土産に持っていけ」

「狩人さんかぁ、僕を狩るんだね…いいよ。テンション下がってるけど狩られたくないから頑張る」


正直な話、殺る気が起きない

男の人がなにかしてるかもしれないけど、そんなこと考えても仕方ないしね



┗━━┓

私はこの成人男性を舐めていたのかもしれない


体の大きい割に言語発達は未熟

フードコートに着く汚れも誰かから奪ったものだろうか、臭く、汚い


そして、弱い。弱く見えてしまう


これ程の相手、以前に手間取った連中は何をしていたか小一時間ほど問いただしたい


しかし、男は豹変した


男の背後に現れる前はやる気を削ぐ魔獣を連れ、今は近くに待機しているが


私の精神操作による『:尊敬の念』を使ったところ見事に看破された


1発で、だ

しかも発声と同時に無意識下による強制解除



────異常


精神の強さではなく、無意識による解除など有り得ないのだ



────私は何と戦っているのだ?


戦闘での勝利が無理とわかった今、逃げの選択しかないのだが


──逃げられない


その思考が頭を埋め尽くす



ならば戦うしかないのだが


隙がない、好きに出来ない


当然といえば当然か、ただ突っ立っているだけなのに何にでも反応されてしまう


獣を使うか


50キロ先に待機していた獣を呼び寄せる


「ん?」


またもや気づかれた。45キロ地点だぞ?


獣の速度を上げてもらい、一気に攻撃能力を使わせる


遠距離攻撃だ、単純な風属性だが普通では視覚には映らない



「あぶなっ」


と、軽い言葉を付け加え首を傾ける男


──避けた


何故避けれたのだ?!


「獣臭いの飛ばしてくるなよなぁ…」


獣臭い…?そうか、獣の匂いが混ざった風の球を嗅ぎとって避けたのか!


何もかもが規格外…人外


人の理から外れた化け物──


危険度が一気に増す


私は獣との接近に合わせて挟撃をしかけた


「え?」


相手は疑問を浮かべたが、それほど焦ってはおらず──


「フッ!」


私は右足でハイキックを繰り出す

獣は一気に距離をつめ、能力向上された爪による一撃を繰り出した


──ハイキックによる上段攻撃

──爪による下段攻撃


男はフワリと


宙に浮きながら獣寄りに


獣の首を抑え、へし折った


私が従えている獣の中で2番目に強い奴なのだが、首をへし折るほどの腕の力を持つ程なのだから──


私は間髪入れずに左手で能力を発動させる


『風弾』!


能力レベルは低いものの、熟練度による威力増加

それに伴う能力の向上が重なり、一般市民では粉砕するほどの威力を発揮するが


男はまともにそれを喰らった


「やはり、変質的な攻撃には対応出来ないか」


私は独り言のように言葉を零した


獣一体を失った代わりに、男に風弾を与えられた結果、男は地面で丸まり悶え、嗚咽を吐いていた


「うえぇ…ゲッ!カハッ!」


私が予想するに

・最初の自警団の集団

──あいつらは情報もなく対処出来ずに襲われ死亡したのだろうと予想できる

狩人の間では、未知なる敵を相手する時は様子見が基本だ

自警団はそれが劣っていたのだろう


・2件目の自警団員による敗北、死亡

これは怒りまかせに突っ込み、死亡したと聞いた

直線的な攻撃は、男にとっては扱いやすいのだろう


・3件目の狩人の女による死亡

これも2件目同様、身内が殺された怒りで直線的な攻撃しかできなかったと予想できる


つまり、変則的な攻撃であればこの男を殺すことが出来る




──勝てる


その想いが過った

誰もがなし得なかった事を、私が最初に達成する


私の性格は、その達成に悦びを感じることだ


口角が上がる

笑いが起こった


「「フハハハハハ!!」」


男と同時に、だ



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


なんで僕は忘れていたのだろうか

今から僕は殺されるじゃないか

なんでそれを忘れていたのだろうか


ふざけるな


ふざけるな人間風情が


僕なんかを殺せると思うな


何が自警団だ

何が狩人だ


僕が──



──俺が狩人だっ!!!



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


男の豹変は姿形すら変え始める


頭から体全体を覆う西洋の黒い鎧へと


──聞いたことがある

前に一度だが友人との飲み比べで倒れる直前に零した友人の言葉


“そういや知ってるか?“

“何がだ“

“西洋の鎧に変身する能力持ちで、鎧に色がついている奴ってのは──“


────『英雄の血を引く者』


「まさかっ!」


私が男を再度確認する頃には、男はいなかった


(どこにいる?)


動けないほどの緊張感

首すら回す余裕もない


音での確認、存在せず

空間把握能力はないが、ビルの屋上ということもあり風での変化を読むがそれすらも見えない


(ビルから落ちた?)


それは男が逃げたことを意味する

しかし、黒鎧の英雄となれば逃げることは無いはずだ


「…俺を探してる、のか?」


背後から声がした、というより、耳元でだ


────ありえない

背後とはいえ、風による影響すら受けないほどの存在を消し、そこに居たというのか!?


だとすれば私はもう──


「考えるな、諦めて死ね」


男は私の後頭部に、緩やかに鎧を纏った手のひらを添えて


衝撃を出────


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


汚い


殺し方を思いつかなかった俺が悪いのが問題ではあったが、俺に敵対してきた男の肉の塊が、ビルの屋上で撒き散らされるのも問題であった




──これからどうするか


風の攻撃を受け、この世界の知識を得た

悶え苦しんだ時に、生きる理由を知った


だが、それをどう活かすかが問題だ


狩りや殺しにはもう興味ない

その言葉を聞いて怒りを覚えることもない


…そういえば狩人という職は魔物を狩って生計を立てているのを知った


俺もそれに見習って魔物狩りでも始めるか…



俺は以前喰った男の能力を解放する


“闇炎の熾天使“


背中側の無機物の鎧から6枚の翼が出ようとするが、2枚に抑えて飛び始める


都会からすぐに森が生い茂っており、一般市民は入ることを禁じられていると知った


──田舎の村育ちの俺からしてみれば、一般市民からは外されるのだろうな


それは格差が上か下か、または狩人の村なのか


知っているが別段興味はなかった


ただ一つ気になることがあるとすれば、俺の育った村は実験場だということだった


村にいる長や、その住民、俺の家族なんかも対象だ


そして俺は、として丁重に扱えとの指示があると知ったが


──扱いが丁重なら…ハッ、笑えるな


そう言いながらも生まれ育った村を経由して狩人連盟本部に向かう俺だった

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