第1話-1

新聞紙から得た情報は、この街での出来事だった


“自警団全滅か!?防犯カメラに映る謎の人物と一人の男!!“


全面にデカデカと記事を載せた内容は大袈裟に人殺しした事だった


自警団の一人でもある俺、“千貫《せんぬき》“は同じ仲間の死に憤慨しかけた


一人暮らしとはいえ、マンションに住む身だ。朝から狂乱しても隣に迷惑かけるだけだし、何かが始まる訳でもない


一息つく為に、目の前にある淹れたばかりの珈琲を飲み干す


喉に流れる熱を持った流動体は、沸騰した頭をカフェインで覚ましてくれる


仲間のうち、2人は同期だった


あさがおむらさき…俺が非番じゃなけりゃ…」


2人を呼ぶ時に使っていたコードネームを呼ぶと、復讐心が湧き始めるが…同期とはいえ、復讐心は消さなければならない…自警団に属している以上、それは絶対だ


改めて新聞紙を見る

内容を簡潔にまとめると

・集団を襲ったのは成人男性

・驚異的な速度で相手に近ずき首を飛ばす

・「狩り」という言葉を強調する


この3点が特徴的か、わかりやすいと言えばわかりやすいが…容姿が成人男性だけとなると範囲は広がったままだ


ビルが立ち並ぶ“現代“とはいえ、若返りや年齢詐称した見た目なんてのはワラワラといる


しかも人の形に扮して魔物などが蔓延るのだ、そうなっては溜まったものでは無い…怪しいヤツら片っ端から潰して行ったところで、仲間を殺した奴がまた他の奴を殺しかねん


考えても無駄か…殺した犯人は女性だけを生き残らせたと記事にはある…不謹慎だが生き残りに情報を得なければ始まらないか


仕事の時間まで5分前、寮生活とはいえ徒歩では間に合わない距離に仕事場…まぁ自警団の集合場所がある


ば間に合う程度だ


スーツに着替え、靴を履き玄関のドアを開けると、東から昇る太陽が俺の眼を灼きつける

今日も快晴か、などと考えてるうちに残りは3分


カラスのような黒い羽根を広げ、飛び立った俺は1分前に、自警団の朝の朝礼に間に合ったとさ



「おはようございます」

「遅いぞ、千貫」

俺の姿を見るやいなや、この地区の自警団でもあるリーダー的存在の袴田はかまだ


中年の男性だが筋骨隆々で、着ているワイシャツにスラックスがはち切れんばかりになっていた


というか

「リーダー、また鍛えました?」

「いや、最近は腕立て腹筋を100回程度やっているだけだ」

「てことは能力スキル関係ですかね」

「それが一番にありえるな…まぁ俺の事はどうでもいい。遅刻前ギリギリ出勤とはどう言う了見かお前は」


袴田の愚痴にヘイヘイと流していると横からくろとりが割り込んでくる


「まぁまぁいいじゃないですカ。それよりもほら、昨晩の話で朝礼するんでショウ?」


烏は喋り方の語尾は独特だが、人間ではある


…人間だよな?


「む、う…それもそうか。朝礼を始めるぞ」


その言葉を聞き付けた自警団達はデスクワークから立ち上がり、リーダーの言葉を待つ

朝礼と言っても、最近の出来事や各隊員の進捗ばかりだが



今日は違った


「仲間が死んだのは聞いたな」


その言葉をリーダーが発した瞬間、全員が凍りついた

能力でもなんでもない、リーダーの静かな怒りだ


「新聞にも載るレベルの事件だ、各隊員は警戒レベルをあげるように」


「「「ア“ァ“イッ!」」」


怒声混じりの返事が響き、気を引き締める


「だが、復讐心に駆られて単独行動は禁ずる。特に千貫、お前だ」


名指しされ、俺は2度目の返事を大声で出す


「返事はいいが行動で示せ、いいな?では次に──」


次の話からは記憶に留めるだけにして、自分のことを考えた


──復讐心


この言葉の意味は過去に覚え、実行したことがある


千貫の一族…まぁ、俺の親戚だが俺だけを残し全滅している

だから、復讐で全滅させた男を殺した


何ら難しいことではなかった


しかし、達成感はなく

虚無感に満たされ

生きる意味が無くなっていた


よくある読み物ではここで師匠の位置に立つ人間が救ってくれるかもしれない


俺もそれを期待した


だがそんなものはなかった

現実は非情である

この1行がピッタリだ


死にたがってたのに何故生きてるかって?


同じ境遇の人間を待っているとか?

自分が師匠になって孤独になった子供を救い出すとか?


そんなおとぎ話に憧れてた時じゃなかったからなぁ


だが、死ぬのは簡単だから生き残る地獄を楽しんでるに過ぎない


そんな理由だ




自警団での俺のやることは、外回りでの手助けから人命救助に至るまでだ

なので、今は外に出てタバコの煙をまき散らしながらほっつき歩いてる


単独行動での禁止、そのため同行者は仲良しグループに別れることが多い


俺は独りがよかったが、そんなことは許されず代わりとして、烏が隣で缶珈琲を飲み干していた


「千貫さん、クールに行きまショウ。クールクール」

「そういや今日は暑いな」

「そういうことではないんですガネ……」


ふと、烏の雰囲気が変わり始める


「……今朝の件ではないですが、右前にある質屋デス」

「急にトーン変えんなよ…それに今朝のことはそこまで執着してねぇから俺は」

「そうデスカ、とりあえず行きまショウ?」


烏に促され、質屋で今から起きる出来事に顔を突っ込む準備をする


と言っても、伸びや屈伸などして準備運動し、常時携帯しているM1911を確認するだけだが


「数」

「5デス」

「俺3いく」

「では2は私が受け持ちまショウ」


烏に確認して、質屋に入ると強盗5人

そのうち、3人が店員を拘束なう

2人は金目のものをあさり始めようとしていた


「すいませーん、金には困ってないんですけど手伝いに来ましたー」


第一声は俺、千貫が


「私も手伝いマス」


2つ目は烏が


「あ“ぁ“!?んだテメェら!!」


3つ目は強盗の主犯格か

声を荒らげたのは1人だけのようで、ほか4人は困惑している


取り敢えずM1911を質屋の店員に向け外に連れ出す


「テメェ!何勝手なことしてんだ!」


主犯格が俺に視線を取られたその隙に、烏は手刀で他4人の鳩尾に突き刺す


悶絶し、倒れる4人

主犯格がそれに気づき、視線を俺から店内に向けた瞬間に、俺は走り出し、主犯格を拘束する


「グゥ!クソッタレ!」

「うるせえ黙れ、こちとら仕事なんだよ」

「んだとぉ!…って、その腕章は…」


主犯格の男は俺の腕章を見るなり、笑い出す


「ハッハ、昨晩に一人の男に対して集団で襲った挙句、返り討ちにあった連中じゃねぇか!ざまぁみやがれってんだよ」


それを聞いた瞬間、烏が男の顎を蹴り砕き、気を失わせた


「烏……悪い」

「雑魚たちに心境が揺らいでチャ、仕事になりませんカラネ」

「全くその通りだ…警察呼んでくれ」

「承りまシタヨ」


烏は店内を見渡し、電話を取る


「なんだ、携帯持ってねぇのか」

「お互い様でショウ?」


各隊員の腕章にGPSが取り付けられており、緊急事に居場所を突き止めることが出来る


また、連絡に関してはテレパシー系の能力スキルを使えばあっという間だ


このテレパシーの能力は国内各県にある『能力向上委員会』事務局の施設で登録すると直ぐに使うことが出来る


だだし、“相手の認可“と互いの“意識登録“がなければ繋がることは無いし、警察施設なんかは能力スキル妨害装置がある為、緊急時には電話での対応を余儀なくされる


くろとりは店の電話から警察を呼び、対応を求めていた


携帯があれば不自由ではないが、電波系能力者がいれば動作しなくなる可能性があるため、自警団では携帯を持つ者達は少ない




ふと、顔を上げた


俺達は質屋を出て警察の応援を待っていた

待っていれば何事も起こらず、また平和な時を過ごせていたのかもしれない


だが俺は顔を上げてしまった、してはいけないルールがある訳でもない




遠くに見えるはフードを深くかぶった黒のロングコートの男が1人、歩いている


不自然な動きだった

そして、遠視能力を持っていた訳でもないのい、その男の口元が見えた


(『a』『i』『u』『o』)


──口の動きは母音に繋がる

──だから気の所為ではない

──勘違いでもない


(『狩人』)


朝見た新聞、自警団での朝礼


『“狩りという言葉を強調する“』


それが何を意味するのかなんざ知ったことではない


ただ一つ、俺のやることといえば


「待てぇぇえええええ!!!」


ただ男に向かって叫び

ただ男に向かって飛び立ち

ただ男の胸ぐらを掴む


いつもの犯人を捕まえる動作

何ら不具合はないのに


男に近ずき胸ぐらを掴むまでの違和感が増大する


ザワザワとした違和感


──いや違う……“能力スキル“?



考えに浸っていると、男から声が掛かる


「お前も……俺を狩るのか?」


──殺気


その直後に襲いかかる衝撃


全てに対応が遅れた




質屋の防弾ガラスの窓にクレーターを作った俺は、へたり込む身体が動くことを確認する


四肢上々、内臓への負荷はなし

骨の以上は感じないがヒビが入った感覚はある


頭の回転はアドレナリンで増幅し、速める


覚醒──ってとこか


「奴だ!烏!!ここで殺るぞ!!」

「その前に一般人の避難デス!」

「勝手にやってろ!あとで合流しろよ!!」

「必ず生きてくだサイ!」



今思えば、烏や警察と共闘すりゃよかったなんてぬるい考え方してたかもしれねぇ


だが、復讐心だけが頭の中を占めた


『単独行動は禁ずる』


リーダーの言葉がぎる


──ぎっただけ


今ここで殺らねぇと──




「ねぇ……“やる“って、殺すってこと?」



目の前の男はそう疑問をぶつけた


奴は4車線の道路を挟む向こう側からここまで来たのか!?

一瞬で!?


「あぁ、でも答えなくていいよ…最近、柄の悪そうな人達がそういうこと言ってたから…あなたもそうなんだよね?」


瞬間──


顔面に男の手が入った


否、指か


薬指、中指、人差し指

綺麗に揃えて頬をはたくように



質屋の防弾ガラスをぶち破り、店内にまた戻る俺


「……ブェッ!カハッ!!」


店内を転がり、姿勢を戻すとまた目の前に奴がいた


こいつ早すぎねぇか!?


「なんか、さ…家いるの暇だから外に出たんだよね、村の外」


最初、そう口にしてつらつらと話し始めた男


要点はこんな感じか

・村では農作物を作り自給自足生活

・暇を持て余し、夜にとび出た

・この街に来たがビルや見慣れない車に驚くだけでさほど楽しくなかった

・人を狩った


「だからさ…なんだろ?」

「俺が知るかボケカス」

「うん、いいねあなた…“友達“なってよ」


それを聞き、思考停止した


人を散々殺めた殺人鬼が、友達作りに俺を選んだ


いや、意味がわからん


「友達ってどうすればなれるかな?お金…うん、昨日殺した人から拾ったからあるか」


──殺した、昨日の


そこで思考がまた戻る


殺した記録はまだ揃っていない

だが、あさがおむらさきから奪った金品だとすれば


「ふざけんなァァァァァァあああああ!!」


叫び、能力スキルを解放する


背中に黒い翼を六枚出し、手足は黒い鉤爪に変化する

嘴が生え、歯は肉を容易く引きちぎるほどの鋭さになり

眼球は鷹のイーグルアイと化した


俺の原始能力ファーストスキル闇葬炎あんそうえんの熾天使“だ

だが、通常の解放でも翼は2枚が限度なのだが今日は身体の全てが変わった


「“懺悔は聞かん、地獄で一生詫びろ“」

「へぇ、凄いねその格好。村では見たことないや」


くぐもった声で発する俺の声に、男は自分には関係ないとばかりに聞く耳を持たなかった


「“舐めるな小僧!!“」

「その嘴で舐められても汚いよ、それよりさぁ──」


人間には到底捉えきれない速度で鉤爪を突き出すが、身体を反らされ虚空を切り裂いた


質屋の窓ガラスはその衝撃で全て粉砕されるが、男は気にもせず言葉を続ける


「友達なってくれるの?遊び相手欲しいんだよね…あ、もしかして──」


言葉を遮るように手足から連撃を繰り出すが、全て回避される


──なんだコイツは!初見で全て交わすのか!?


そんな考えがぎる

男は言葉を続ける


「もしかしてさ、今遊んでくれてんのかな?だったら──」

「『闇炎ダークフレイム!』」


前方広範囲爆破型の能力スキル技を繰り出すも、懐に入られ傷一つ作ることが出来なかった


「僕も遊ぶよ、えーっと、こうかな?」


懐に入られた俺は急所を避けるために防御姿勢と回避運動を始めるが


そんなことお構い無しと胸ぐらを掴まれた


「──で、こう!」


胸ぐらを掴んだ左手を拳にし、“寸勁“のような真似事をした


というか、寸勁だった


「グブルェッ!…バッ!カハッ!」


心臓に響く衝撃は一瞬止まり、動き出す

身体を突き抜けた衝撃は6枚の翼全てを散らし、店内にバラ撒く


身体が後ろへと流れようとするが、胸ぐらを掴まれたままなので逃げられない


「楽しいね、友達同士ってこういうことするのかな」


──誰が貴様なんぞと友達なんか!


想いは出ず、口からは血を出した


「オゲェエ!」

「うわっ、ぺぺっ!口に入っちゃった…顔にかけるなよぉ…も〜」


こちとらそれどころではない

翼が全て散り、内蔵もボロボロ

解放による自動再生能力も機能しない


「初めての友達なのに…脆かったなぁ。今度は頑丈なの探さないと」


そう宣言し、伏せている俺を見た男は


去ろうとしていた


──は?


疑問が頭を埋め尽くす

快楽殺人鬼ではないことは分かっていたが、俺を生かすことが何らメリットにでも──


いや、生かし俺の仲間に伝えることでその“頑丈“な奴を探そうとしている?


──ふざけるな

──俺達自警団はてめえのおもちゃじゃねぇ

──ここで生かしておくわけに行くか!


「“ガァァァアアアア!!“」

「え、なになに?起きたの!?元気じゃん!」


内臓がズタズタでも

翼が無くとも

足が

手が

頭が動けば


やつを殺すには十分だ!!


男は警戒しなかったのか、無様な俺に捕まる

まるで駄々をこねる子供がすがり付くように


「え……ちょっとやめてよ」

「“囀るなゴミが!“」


嘴で男の喉仏を食いちぎる程に、首に噛み付く


だが、ありえない事になった


嘴には微小ながらもノコギリの刃のようなものが付いている


全て折れた


「ンがっ!?」

「くすぐったいね、僕もやろうかな」


俺の懇親の、捨て身の攻撃を折られた

心まで折れた

何しても適わない

何をしても叶わない



────死ぬ



━━━━╋


「うわぁぁ!?」


と、情けない声を出した


俺の首を食われる夢


(クチャ)


朝の新聞で、朝礼で知った男との対峙

その時のことが未だ鮮明に思い出される


あたりを見渡す

場所は質屋、状況は烏が警察に電話している場面だ


情けない…

こんな所でうたた寝とは、寝不足だったか?

8時間きっちり寝たはずだが…


(クチャ)


耳から入ってくる咀嚼音

耳障りだが心地よかったのも事実


と、烏は警察に電話し終えたのかこちらに向かってくる


「携帯持ってねぇのか?」

「お互い様でショウ?」


と、同じ返答をしてきた

デジャヴと表現していいだろうか

正夢と表現した方がいいだろうか


(クチャクチャ)


心地よい咀嚼音が続く


ともあれ、この後何が起きるかは分かっている


この後、俺は男を見つけ胸ぐらをつかみ…


まぁ、首を食われるのだろうな


それが分かっていれば対処はできる


次は単独行動を辞めて、警察と烏で仕留める。それでいい


(クチャクチャクチャクチャ)


違和感のない心地よい咀嚼音

体が冷えてきたのか、少し身震いする


外を見た、正確には4車線道路の向こう側

男はいた


烏に声をかける

「──────っ!」


声が出ない、おかしいな

もう一度


「──っ!」


首に手を当てた

四肢が動けば問題ないかと思っていたので、首は確認していない


触れる



首がない



理解した


──俺は食われてたんだ





(ご馳走様)

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