第九町人 ペゼ兄さん
ペゼ兄さんは修理工
毎日、町のあちこちから壊れ物が運ばれる。
破れた靴を、止まった時計を、割れたカップに、壊れたカップル。
縫って、いじって、焼き継いで。ついでに仲を取り持って。
前より素敵に直しちゃう。
今日は三人家族が来店。
黒い服のパパ、赤い服のママ、白い服の男の子。
見知った顔の、お得意様。
「今日も直して欲しいのよ」
「今日も直してくれるかい」
パパとママに挟まれて、男の子が泣き喚く。
「やだよ!やだよ!元に戻せ!」
ペゼ兄さん、困り果て。
「うーん、またですか。でもお得意様ですからね。お引き受けいたしましょう」
「やめろ!やめろ!元に戻せ!」
男の子を抱きかかえ、ペゼ兄さんは作業場へ。
パパとママもついてくる。
男の子をソファに座らせ、縄でぐるぐる、縛り付け。
「前みたいに暴れられると、まずいからね。申し訳ないけど大人しくしててくれ」
「わーん!わーん!」
「ほら、静かになさい。すぐに終わりますからね」
「そうだぞ。そんなに泣いてちゃ、立派な大人にはなれないぞ」
それからペゼ兄さんは、せっせと修理。
男の子が叫んでも、お構いなしに作業に没頭。
「後頭部が裂けてるな、また喧嘩したのかな?うわ、こっちの爪も割れている。目の方も全部取り換えだ。金払いはいいんだけど、こうも続くと大変だな。もうちょっと大人にするべきかな」
「いやだ!いやだ!勝手なことをしないでよ!」
「ハイハイ、心配しなくて大丈夫だよ。きっと元の素敵な家族に戻れるからね」
それから随分時間が経って、三人家族は入り口前。
パパもママもニコニコ笑い、男の子は泣いている。
「ありがとう、元に戻ったわ。ほら、あなたも嬉しいでしょう?」
「嬉しいはずさ、何もかもきちんとしている。こんな家族は他にないぞ」
「わーん!わーん!」
男の子は泣いている。
来た時と同じように、何一つ変わることなく、泣いている。
「元に戻して!元に戻して!パパとママを戻してよ!」
ぼろぼろだったパパとママ、新品同様、綺麗さっぱり。
喧嘩しちゃったパパとママ、直してあげれば理想の夫婦。
何度も何度も壊れたら、何度も何度も直せばいい。
だからいつでも三人は、素敵で完璧、最高の家族。
「それじゃあ、またね。君もお金が溜まったら、理想の子供に直してあげよう」
「戻してよ!戻してよ!」
泣き顔の男の子を、笑い顔の夫婦が連れていく。
静寂が戻ったお店の奥で、ペゼ兄さんは小さな額縁、手に取った。
暫く見つめて、小さく笑う。
「いつまで経っても子供だねぇ、おままごとが好きだなんて」
額縁の中には小さな絵。
黒い服の男の子と赤い服の女の子。
白い服の人形を持って、幸せそうに笑ってる。
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