第48話 丸呑みされた人を出すには?

「という訳でヒトジチはもらった! 大人しくオレの言う事をキケ!」


「口含んだまま喋れるんだ。器用だな」


「これがオレのトクギなので! こうヤッて口の先端で言葉を話セルんだ!」


「いやいや、それは別にいいでしょう!?」


 冷静に言ったアルスと素直に答えたモンスターに総突っ込み。

 あの口の中にユウナさんがいるんだよ!? 美人の丸呑みプレイ初めて見たけど、早く何とかしないと!!


「ちなみにオレの名はリジロだ。これからもヨロシク」


「自己紹介ありがとう!? それよりもあなた、早くユウナさんをペェしなさい! ユウナさんが苦しんでるでしょ!?」


「だからヒトジチだって言ってるダロ!? 返してほしければ……アルス、オレと勝負しr――アウウ!!?」


 勝負しろと言われた瞬間、アルスがリジロという子へとジャンプした。

 瞬く間に着地するなり、間髪入れず腹にキック。喰らったリジロが後ろに倒れていった。


「ナ、ナニすんだよ!?」


「いや、戦えって言ったから……」


「普通『引き受けた』とか前置きあるダロ!? おかげでこのヒト出しソウだったよ」


『……おぐ……うう……』


 さっきまで蠢いていたユウナさんだけど、今は緩やかになっている。でも微かに呻き声が聞こえていた。


 エロい。リジロの口から、ユウナさんのスタイル良い身体が浮き出ている。それが口に張り付きながら動いているのが実に蠱惑的。

 きっとあの中で、よだれと絡み合いながらもがいているはずだ。思わず私の頬が熱くなってしまう。いや不謹慎だけどさ。


「仕方がナイ! こっちからも攻撃するゾ!!」


 私が見惚れている間、リジロが尻尾を大きく振るってくる。

 アルスは後ろに下がって回避。リジロも後を追うように飛び掛かって……


「あれ、重い? ナンで?」


 可愛くピョンと跳ね上がっただけでした。

 彼が何度もジャンプしようとしたものの、結果は同じ。傍から見たら、ピョコピョコ跳んでいるみたいである意味可愛い。


「何でダ!! フツウならアルスくらいな身体能力あるのニ!! ……あっ、さてはサッキ食べたブ〇ボンってヤツのセイか!? アレ食い過ぎて動きづらくなったノカ!?」


「…………ユウナさんを呑み込んでいるからだと思うけど」


「……アッ、ソウいえばソウだった。ソリャア納得」


「…………」


 さっきから思っていたけど、この子ってアホの子なのか?

 何と言うか、アルスとは別ベクトルなユルさを持っていると思う。ちょっとお菓子あげたくなるな。


「ウオオオン!!」


 また飛び掛かるアルス。今度はリジロを捕まえた後、ユウナさんを呑んでいる口を掴んで、思いっきり開こうとした。

 リジロは開きかけている口をがっしり閉じる。


「ウググググ……!! ヒトジチは渡さ……アイタタタタ!!」


「いいから開けろ、この」


「ウウウウウウウウウ!!」


 意外と抵抗が強いみたいだ。このままでは埒が明かない。

 ……そうだ、あれなら行けるかもしれない。そうと考えれば実践あるのみ。


「……ん? エリ?」


 二人がせめぎ合っている間、私はリジロに向かう。こういう場合って本当は近付いちゃいけないけど、リジロなら何か大丈夫な気がする。


 さてここから本番。私はそっと手を伸ばして、


「ううぅ!? ……あああうおおおおおん……アフン……♡」


 脇のくすぐり攻撃!


 これをして耐えられる生物なんていないはず(多分)。さぁ、この攻撃で笑ってユウナさんを吐き出すんだ!


「ウグググ……ハアアン♡」


「んー、中々笑ってくれないなぁ。アルス、何か方法ある?」


「尻尾だったら効果的だと思う。そこが結構効く」


 ああ、犬の尻尾は敏感だと聞いた事があったな。

 それなら早速、尻尾を触ってみる。


「オオン!? オオオン♡ オオオオオオオオオオ♡♡」


 うーむ、見た目と違って中々手触りがいい。リジロも艶やかな声を上げながら感じているみたいだ。

 ともかく今はユウナさんの救出が先だ。さぁ、これでどうなる?


「……ブッ! ブフフフフ……!! ブハハハハハハアアアアア!!」


 ようやく笑ってくれた。

 その隙にアルスが口をこじ開け、中を引っ張り出した。ヌチャっと粘液を引きながらユウナさんが出てくる。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 ………………。


 この場合、こう思っちゃいけないんだけど……


 やっぱりエロい。


 ぐったりしながら荒い息、ベタベタな粘液が纏わりついた肌、くっきりと服が張り付いた胸……。


 漫画の中だったら、絶対に鼻血出る展開だよこれ。私でさえムラっとしちゃうわ。


「ハァハァ……クソォ、まさかクスグリをするなんて……卑怯だぞニンゲン!!」


 で、こっちもこっちで荒い息を吐いていた。

 ただ卑怯なんて、彼が言えた台詞じゃないと思う。


「関係ない人を巻き込んだのがいけないんでしょう? 何でこんな事をしたの?」


「そ、それは……言エナイ。とにかくコレは言エナイ事なんだ! だから聞クナヨ!? 絶対に聞クナヨ!?」


 どこぞのお笑い芸人か。

 とにかく、これはどう考えてもメロ君の差し金だ。彼が何考えているのか分からないけど、いずれにしても悪い意味でやり過ぎだ。


 前々から分かってたつもりだった。そしてこれで確信が持てた。メロ君は明らかに重大な事……それも良からぬ事を隠している。

 文化祭が終わった後ビランテに行ってみよう。彼からちゃんと真実を聞かなければ。


「じゃあユウナさんに謝りなさい。あなたは悪い事をしたんだから」


「う、うん……あの、スイマセンでした!!」


「いや、土下座はしなくていいから」


 ちゃんと謝った所、ユウナさんが「いえ……大丈夫です……」と答えた。

 まるで事後のような声の調子もヤバい。何か私、うっすらとよだれが出ちゃいそうだよ。


「これからもああいった事はしちゃ駄目だからね。これ、私のホットドッグだけどあなたにあげるよ」


「エッ、くれるの!? わぁーい、サンキュー、サンキュー!! ほらアルス、ホットドッグだぞ! 羨まシイだろう!?」


「いや全然」


「へへ、ヤセ我慢しやがって! 本当は欲しいダロウ? ほれほれぇ、悔しかったら取ってミロヨォ」


「……ガアアア!!」


 怒ってしまったアルスが、リジロを噛み付こうとした。

 対してリジロが軽やかに飛び、ピョンピョンとおちょくるように跳ねた。それを追い掛けながら手を振り上げるアルス。


 振り上げた手をリジロがかわすと、それがコンクリートの地面に当たる。そして逃げたリジロへと尻尾を振るう。

 尻尾が当たり、「おわっ!」と転ぶリジロ。すぐにアルスが襲い掛かるけど、また回避をされる。


 争いと言うよりは喧嘩の一環だ。介入はしなくていいだろう。


「もう、シツコイなぁお前!!」


「オオオン!! ガアアアア!!!」


 ……でもどうしてだろう、何か違和感がある。アルスって、こんなに相手を畳み掛ける方だったっけ?

 アルスなら一発ほど攻撃して終わらすはずだけど……それに相手から挑発されたと言え、やけに怒り狂っているような気がする。


「ほれホットドッグだゾォ! 美味いゾォ!?」


「オオオオオオオ!!」


 金網の上に着地したリジロに、アルスが吠えながら走った。するとリジロがその金網から飛び降りる。


 彼がいた金網に、アルスの手が当たってへこんでしまう……ってやばいこれ、叱られる奴だ……というかここにいる自体が叱られるのか。


 いや、いらん考えはよしとくか。リジロがいなくなってから、アルスがフゥフゥと息を荒立てる。

 やはり何か違和感が出てしまうけど、きっとリジロの煽りにキレたんだと思う。今までアルスをおちょくる人っていなかったし。


「……あっ、ユウナさん大丈夫?」


 事態が収拾したので、ユウナさんに声を掛けた。

 やっと落ち着いたか息が静かになっていて、自分から身体を上げてくる。


「はい何とか……ただ子供の頃、大ガエルに丸呑みにされそうになったのを思い出しました……」


「ああ……異世界にそういったモンスターいそうだもんね……」


 なんて言いつつも、顔を拭こうとハンカチを取り出した。

 ただアルスが前に出て、大きく息を吐く。まるで扇風機のようにユウナさんの髪がなびく。


「何してるの?」


「乾かしてる。こうすればすぐに終わるはず。ハアアアアアアアア……」


「ありがとうございます……。あの、申し訳ありません……校内で彼を見つけた時、声を掛けたら急に襲われまして……」


 聞く所によると、ユウナさんは舞台劇がやっている体育館に向かおうとした時、リジロを発見したらしい。

 リジロが女子トイレでお菓子食べてて、それで話をしてたら「アルスの知り合いカ! じゃあヒトジチにする!」と丸呑みされたと。


 何でそういう事になんねん。とは思ったけど、いきなり呑まれたユウナさんには同情の念を禁じ得ない。


「デートをしている時に私とした事が……服が乾いたらすぐに行きますので」


「いや、大丈夫だよ。それにデートは十分楽しんだしね」


 もうデートは大丈夫だろう。

 アルスと色んな事をしてきた。一緒に楽しんで、ご飯を食べて、二人の時間を作って……今日の所はこれで十分なはずだ。


「まだ時間があるから、今度は三人で回ろうよ。アルスも大丈夫?」


「うん、キスしたからいいよ」


「こ、こら! ユウナさんの前で!!」


 本当にこの子は……!! あとユウナさんクスリ笑いしないで! 凄い恥ずかしい!!


 こんな感じになってしまったものの、最後の時間は三人で文化祭を回る事になった。

 ユウナさんが体育館に行きたかったそうなので、先にそこに向かった。既に演劇部による舞台劇がやってて、何だが夢中になって鑑賞していたのを覚えている。


 そうして今日の文化祭は終わり。アルスとのデートが出来て、本当に素敵な日だったと思う。




 それでリジロの件で尋ねようとビランテに行った所、出入り口付近に手紙があるのを見つけた。


「『沢口さんへ。

  しばらく自分の世界に戻ります。探さないで下さい……なんつって。いつも清しくビランテを営んでいるメロより。

  PS――ユウナさんのおっぱいを考えているとハァハァしてしまう』……と書いてあります……」


 ユウナさんが手紙を呼んだ後、それを破りたくなったのは別の話。

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