第47話 実際の屋上って全然入れない
あれからお化け屋敷が騒ぎになったけど、それは置いといて。
この後、やりたがった迷路をする事になった。最初は迷ってしまって、かなり焦りながら通路を走っていた。
しかし単なるまぐれか、目の前に出口が見えてくる。出てくると受付から拍手が送られた。
「1分42秒、おめでとうございます!! こちらは商品の割引券5枚分です!!」
「あ、ありがとうございます」
早く脱出出来たみたいだ。こういうのを結果オーライと言うべきか。
受付から5枚の割引券をもらう私。これで屋台全部が半額になるし、一人暮らしの自分には嬉しい限りだ。
それはウキウキ気分で満面な笑みで教室から出た。するとそこにアルスが言ってくる。
「エリ、あの小さいの何?」
「ん? ああ、あれ?」
係員の方が、お客さんに折り鶴を渡しているみたいだ。
アルスはあれが気になったんだ。
「あれは折り鶴って言うの。迷路を早く出なかった人には折り鶴かティッシュをあげるんだって」
「そっか。というかお腹減った」
「話の前後が繋がってないような……。まぁ、行こうか」
近い日に折り紙買ってあげようか。そう思いながら、真っすぐ外の屋台に向かった。
牧君が言ってたんだけど、屋台のご飯が中々美味しいんだとか。夏祭りみたいに種類も豊富だからおススメだって。
そう言われたら行かずにはいられない。という訳で、階段を降りてから昇降口に直行する。
「ねぇ、あれ見て!」
「やだぁ、可愛い!」
でも足が止まってしまった。近くの廊下に人だかりがいるのが見えた。
男子はいるはいるけど大半は女子で、それもしきりに可愛いとか言っている。そこに誰かがいるのだろうか。
「すいません……ちょっとすいません」
様子を確かめるべく、人ごみの中を潜り抜けた。
先輩方をかき分けていったら、やっと中心が見えてくる。
「ウマっ!! ウマっ!! これウメ!! もっとクレ!!」
「だったらこれいる!? 私達の所で作ったドーナツ!」
「あとあとブル〇ンのチョコもあるよ! たくさん食べていいからね!」
「マジで! うわっ、ウメ! ナニこれ初めて食べタ! ウメ、ウメ!!」
……想像を絶する光景がそこにあった。
まず二年の女子先輩方がキャーキャー言いながらお菓子を上げていた。そのお菓子をもらっているのが、どう見てもモンスターとしか言いようがない怪生物。
まず体格が今のアルスにそっくりだ。体色は枯れ木のような褐色。
顔はどこかワニにそっくりで、口元から四本の牙が生えている。それでアルスのような葉っぱじゃなく、ちゃんとした指や爪のある両腕を持っていた。
うん、明らかに異世界のモンスターだ。
多分メロ君辺りが持ってきたんだろう。ユウナさんはまずありえないし、彼ならそうしてもおかしくはない。何があってここに来たのか知らないけど。
「アルス、あの子が誰なのか知っている?」
「全然知らん」
「……行こっか」
「うん」
何か関わっちゃいけない気がする。
そもそも私達はデートの最中なんだ。そんな時に面倒ごとなんてまっぴらごめん。
私達は人ごみからこっそり抜けようとする。そのまま出ようとしたら、突然声を掛けられた。
「待ったニンゲン!!」
「おわああ!?」
私達の目の前に、モンスターが「ペタッ」と音を立てながら着地してきた。
ビックリするなおい!!
「えっと、何……?」
「ムウウ……ソノ持っている奴、オレに似てる……。ソイツがアルスか?」
ああ、やっぱりこの子は異世界のモンスターだ。アルスを知っているという事は、メロ君から聞いたんだろう。
でもだからといって、あまり関わるつもりはない。
「ああ……これは人形なの。アルスって子は知らないなぁ……」
「ウソだ、絶対ソレが人形なモンカ。アルスに決まッテいる」
まぁ、分かるか。モンスターなら匂いかなんかで察する事が出来るだろうし。
もし別の時間だったら事情を聞いていたと思うんだけど、今が今だ。なるべくメロ君の元に帰ってほしいというのが本音だ。
「アルス?」「何それ?」「そういや一年が持ってるぬいぐるみ、アイツに似てない?」
ほらぁ! 後ろの先輩方がざわめている!
出来れば早く外に出たいのに……でもそうしたら、この子がどんな事をするのか。
どうしよう私!!
「……ん?」
その時、地面が揺れたような気がした。
さらに猛牛の群れが疾走するような足音が、辺りに響き渡ってくる。
「うわっ、風紀委員だ!! 早く散らばろうぜ!!」
先輩方が一斉に、蜘蛛の子を散らすように逃げた。
この足音、この騒ぎよう……文化祭を警備している風紀委員がやって来たんだ。
「どけどけ!! 風紀委員が通るぞ!!」
「あそこに未知の生物がいるぞ!! 捕縛だ!! 戦略的捕縛実行だ!!」
制服からでも分かるほどの筋肉、もはや青春漫画のような濃ゆい顔付き、そして体格から来る威圧感。
問題事があった時の為に、風紀委員は力のある男子が適任とされている。そんなガチムチ達が一斉に来るもんだから、本当に何度見ても怖い。
「うわっ! ナニあれ!! マジコワ!!」
「うん、だから逃げた方がいいと思うよ? 捕まったら食べられるかもね」
「マジデ!? クワレるのはヤダアアアア!!」
悲鳴を上げながら、窓から飛び降りてしまうモンスター。
風紀委員がそれを確認した後、後を追うようにこの場を離れる。やがて、さっきまでのざわめきが何だったと言わんばかりに静かになった。
「……何なんだろうなぁ」
「ほんとだね。まぁとりあえず屋台に行こっか」
あの子の身体能力なら、風紀委員から逃げられるだろう。心配する必要はない。
気を取り直して、私は外へとアルスを連れて行った。
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まず初めに、屋台は私達生徒が経営しているのではない。
主に教育委員会、大学のOB方、生徒の親御さんなどがそれを仕切っている。味は祭りの奴とは勝るとも劣らないらしく、中々の繁盛を見せている。
「すいませーん、ホットドッグを下さい」
「はい、かしこまり!!」
早速、割引券を使ってご飯を注文した。
仕事をしてから何も食べてない。つまりお腹ペコペコの状態だ。アルスも色んなのが食べたいだろうから、これだと思う物を買ってみた。
ざっと揃ったのが、ホットドッグ二つ分、焼きそば二つ分、ジュース二つ分、たこ焼き、じゃがバター。
その後は食べれるような場所を探したけど、どこも開いている様子がない。絶対にいないだろうと高を括っていた体育館裏も、何人か居座っている様子だ。
「どうしよっかぁ……」
出来ればアルスと食べれる場所が欲しい所。そこら中回ってみたものの、中々いいのがなかった。
そろそろ困りかけたその時、アルスが学校を見上げてきた。
「学校の上は? 駄目なの?」
「屋上かぁ。随分前に問題を起こした生徒がいたとかで、今は鍵を閉めているんだって。入れないと思うよ?」
「そっか。でも僕は行けるけど」
「………………あっ」
そういやそうだった。完全な失念。
という訳で、アルスの背に捕まって屋上に移動した。
忍者のように学校の壁をよじ登って、やっとその場所に到着。
「へぇ、こうなっているんだ」
初めて見る屋上は、予想よりもただっ広い印象だ。
コンクリートの地面に、周りに立てられた緑色の金網。アニメで見た光景と全くそっくりだ。
でもここでなら、アルスと落ち着いて食事が出来る。先生方にもバレないだろう。
「ご飯にしようか。アルス、熱いから気を付けて」
階段の出入り口近くに腰かけた後、ご飯を広げる。まずアルスにじゃがバターをあげてみた。
熱々の出来立てなので、湯気が立っている。
「ありがとう。……ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」
「だから熱いって」
熱がっても美味しそうに食べちゃって。
何だが顔がニヤケてしまうのを覚えながら、私も焼きそばを食べる。こっちも熱々だから少しハフハフしてしまう。
「うん、美味しい」
「ほんと。そっちもちょうだい」
「ホットドッグだね。はいどうぞ」
「モグ……うま、美味い。あっ、ちょっと辛い」
マスタードも掛かっているからね。でもアルスは気にしていない様子。
すぐに食べ尽くして、次のご飯に手を伸ばそうとしていた。でもその口にケチャップが付いているのを私は見逃さない。
「ちょっと待って。口綺麗にするね」
用意したウェットティッシュで、アルスの口を拭く。
その子はちゃんとじっとして待っている。早めにやらないと。
「…………」
ああ……でも、ティッシュでやる必要なかったな。
拭くのをやめて、そっと近付いて、口元のケチャップに口を付ける。離れてみると、アルスがびっくりした顔をしている。
「エリ……?」
「……こうした方が手っ取り早いかなって。嫌じゃなかった?」
「……ううん、全然」
アルスの声音が優しいのが、ハッキリと分かった。
そんな事を言われたら、もう止めようがない。
夢中になってアルスを抱いて、深く口付けをする。興奮で脳内がピリピリしているのも感じた。
「エリ……むう……」
アルスはちゃんと受け入れてくれた。
それどころか自分から口を突き出して、私の口をしゃぶってくれる。吸い付かれるようなこの感触が、この子に全部を上げているんだと感じてくる。
「ん……むぐ……うう……ハァ……ハァ……」
「大丈夫か?」
「う、うん……。ねぇ……頭を呑んで……そしてグジュグジュして……」
いつかアルスに呑まれたいって日頃思っていた。
アルスは躊躇気味だったけど、ちゃんと頷いてくれた。その大きな口を開けて、私の顔を呑もうとしてくる。
私は緊張して目をつぶった。次の瞬間、顔中が大きくて柔らかい口内に包まれる。
「んん……!! んんん……うご……」
気持ちいい……アルスが私の顔を味わっている……嬉しい。
そんな気持ちが込み上げてきて、身体が熱くなってくる。涙も出てきた。それにこの涙も舐めてくれて……胸がいっぱい。
アルスの手を掴んで、自分の胸に触れさせた。揉ませるように動かしもした。
普通こういうのは男の子にされる物だけど、アルスの方がいい。
「……プハァ。……ありがとう……アルス」
吐き出された後、顔がベタベタになった。でもそれも気持ちいい。
私は強く抱き締めた。対してアルスが粘液にまみれた顔を舐めてくれる。
好きだよアルス……本当に好き。
「……ん?」
「えっ?」
ただアルスが何故か、明後日の方向に向いた。
私も振り向いてみると、階段への出入口からペタペタと音がしてくる。この音……さっきも聞いた気がする。
「ヤッパリソイツ、アルスだな。全くウソ吐きヤガッテ」
「……またあなたか……一体どうしたの?」
やはり足音だったようだ。姿が見えないけど、あのモンスターの声がしてくる。
全く、アルスと夢中にしていたのに面倒臭いなぁ。
「オレ、アルス探しテタ。アルスに用がアル」
「そう……。でも悪いけど、それは別の日に……」
私が言う前に、モンスターが姿を現した。
……あれ、何か顔が膨れてない? モゴモゴと動いているし……。
『……もご……瑛……莉……』
「……えええええええええ!!?」
口の中にユウナさんが丸呑みプレイされてるううう!!?
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