第40話 肩に大きいアルス乗せてんのかーい!

《瑛莉side》


 朝食を食べた私は、家の掃除をする事にした。

 自分の家とは言え、さすがに何もしないってのは気が引ける。まずは掃除機で床の掃除だ。


「本当にごめんねぇ、手伝わせてもらっちゃって」


「いえとんでもありません。それにいつも瑛莉の手伝いはしていますので」


「そうか~、瑛莉ちゃんと仲良いのねぇ」


 ユウナさんはお母さんと皿洗いをしている。出張でいないお父さんはともかくとして、すっかり家族と打ち明けている様子。

 にしてもお兄ちゃん、ソファーに座りながらニュース見っぱなしだ。少しは手伝って欲しいよ。


「ほら、足邪魔だよ。吸い込むよ」


「酷いなぁ。アルスだってそうしているのに」


「この子は別にいいもん。アルス、もうちょっと楽にしてていいよ」


「あれ、俺の扱い雑過ぎじゃない?」


 アルスもお兄ちゃんのようにくつろいでいる。

 ニュースの内容分かっているのか微妙だけど。


「さて、皿洗い終わりっと。瑛莉ちゃん、ユウナちゃん、ここからは大丈夫だから二階でゆっくりしてて」


「そう? じゃあ部屋に戻ろっか」


「うん(はい)」


 そんな訳で、アルス達と一緒に部屋に戻った。

 さて、戻ったのはいいけど、何をして暇を潰そう。何か二人でも楽しめるのは……。


「エリ、これって何?」


「ん? ああ、それはDVDだよ。このプレイヤーで再生出来るの」


 アルスがDVDを入れた箱を見つけたようだ。

 そうだ、この際DVDの鑑賞会でもやってみるかな。色んな内容の奴があるから、二人も飽きないはず。


「何か見てみる? 私としてはこれがおススメだけど」


 そのオススメというのが戦争アクション映画だ。

 世界中から異形の怪物が出現して、主人公の軍隊がそいつらと戦闘する話。結構好きな方だ。


「うん、見てみる」


「でしたら私も。どういったのか気になります」


「よし。じゃあジュースとか持ってくるから、二人はそこで待ってて」


 鑑賞会と言えばジュース。これに尽きる。

 それで降りようとしたら、アルスも「手伝う」と付いてきてくれた。もうすっかり彼氏だわこの子、本当に好き。


 用意したのは三人分のコップとオレンジジュース。それとアルスがトマトジュースに興味を示したので、それも持参(野菜で作ったからかな?)。

 ジュースのペットボトルは、アルスが口にくわえて持って行ってくれた。


「お待たせ。このトマトジュースはアルス用だから取っておいて」


「トマトジュース? トマトを飲むなんて意外ですね」


 言われてみれば確かに奇天烈だよね、トマトジュースって。


 ともかくとして、さっそく視聴開始。


 まず、怪物の発生の歴史から始まる。怪物に蹂躙される人類、そうして世界中の軍隊をひとまとめにして『人類軍』というのを発足。

 それから最初は優勢だったけど、次第に怪物の方が強くなって劣勢になっていく。


 そんな中、主人公は同じ軍の兄を失って、五年と四ヶ月失踪する事になった。

 でも軍の司令官が彼を見つけ出して説得。主人公は再び軍に戻る事に。


 アルスもユウナさんも真剣になって映画を見ていた。ジュースを飲んでいる時も全く目を離していないし、アルスに至ってはトマトジュースをこぼしそうになったくらいだ(もちろん私がフォロー)。


 それで終盤のシーン。


『いいか!! 今日から貴様らはウジ虫だ!! ウジ虫は俺の命令に従っていればいい!!』


『『サーイエッサー!!』』


 主人公が司令官になって軍隊を率いる事になった。そこから怪物の住処に突撃する所だ。

 ここが一番好きなシーンだったり。


「サーイエッサー!! 自分は覚悟しております!」


「おっ、登場人物になりきってるの?」


「うん、何となく。辺りを見回すんだ、いつ怪物が来るか分からない」


 登場人物になりきるなんてなぁ。よっほどこの映画が気に入ったんだね。

 本当は黙って視聴したい派なんだけど、アルスの邪魔は出来ないので様子見で。一方、軍隊が怪物の住処に入ろうとしている。


『……カルロス、様子を見てこい』


「死ぬなよカルロス」


『サーイエッサー。じゃあ行ってくる』


 かなり映画に馴染んでいるな今の。


 それでエリアの中に入った途端、部屋からカルロスの悲鳴。


『アッーーーーーーーーーーーーーーー!!』


『カルロス!? 今行くぞ!!』


「皆気を付けろ!! ダニエル、お前は左!!」


「ダニエル!!?」


 そんな名前、映画にいないよ!? いつの間に作ったの、そのキャラ!?

 ……まぁ、別にいいか。


 この後、ラスボスの巨大怪物との戦闘が始まっていた。兵士の犠牲を出しながら奮闘する主人公と数人の部下。

 うーん、いいなぁ。迫力あるし興奮も出てくる。こっちまで本当に兵士になった気分だ。


「グワッ! 僕の胸に……!! クソっ……!!」


 その時、アルスがぐったりと倒れた!

 胸から鮮血トマトジュースを出している……重症だ!


「だ、大丈夫か! ジョンソン!!」


「ジョンソンって誰です!?」


 いつしかジョンソンの体力が尽きようとしている。このままでは危ない!


「ジョンソン! 一旦下がって!」


「いや、僕の事は構うな!! お前らだけでも目的地までたどり着け!」


「しかし!」


「大丈夫だ、どうせ長くない命だ。死に場所が見つけれてよかったよ……」


 巨大怪物が太い剛腕を振り下ろしてくる。

 それがジョンソン……もとい他の兵士に向かって……


「後は頼ん……だ……」


「ジョ、ジョンソオオオンン!!」


 腕に潰されてしまうジョンソン。私は彼の名を叫ぶしかなかった。

 悲しさで涙が溢れてしまう。くそ……私にもっと力があれば! 力があればジョンソンを!


「あの、瑛莉……」


「ん?」


「……言いにくいですが、かなり暴走しているというか……」


「……うん……そうだね……」


 何で私、アルスにジョンソンって付けたんだろう……。

 あれかな。映画とエルスに影響され過ぎて、兵士の幽霊でも憑依されたのか…?


「ところで胸のそれって……」


「飲んだトマトジュースだよ。気合い入れたら出てきた」


 アルスには血がないから、すぐにトマトジュースだって分かった。

 植物は吸い上げた水を、茎に通しているとか図鑑で見た事がある。アルスにとっての茎が身体なら、こういう芸当が出来たっておかしくないだろう。多分。


「身体が汚れちゃうからそんなにしないでね。カーペットに落ちるかもしれないし」


「うん、分かった。あと次も映画見たい」


 アルスの身体を拭いた後、その子がDVDの箱を覗いていた。

 それで何か見つけた様子。


「これがいい」


「えっ? それって映画じゃなくてトレーニングビデオだけど……」


「いいんだよ」


「そんなに? ならいいけど……」


 トレーニングビデオかぁ。確かこれ、私がダイエット目的で買ったんだっけか……あまり意味がなかったんだけど。


 再生すると、大袈裟なBGMと共にタイトルが表示。

 次にでかでかとガチムチ筋肉男が映った。


『ハロォ、マッソゥ!? 私は最高にエキサイティングで元気よ!! このビデオを買ったという事は、この筋肉迸る神の身体になりたいって事よね!?』


 最初、オネェ口調とか神の身体とかに突っ込み入れてたなぁ。

 あと一緒に見てたお兄ちゃんが笑ってたっけ。


『今日は、男性も女性も理想の身体つきになれるトレーニングを教えるわよ!! 極めて行けば……ウウウン!! こんな筋肉になれるわ!!』


「ウウウン!!」でマッスルポーズ。ついでに白い歯をピカリ。

 アルス、これで本当によかった……


「ウウウン!!」


「!!?」


 アルスを見たらマッスルポーズしていた。しかもそれだけじゃない。


 本当に腕から筋肉が迸ってる!!


「ア、アルス様にこんな力が……!? いや、体内の繊維を膨張させているんですね……何と言う神業!!」


「ユウナさん説明乙!! というかそんな事出来んの!?」


「何か力入れたらこんな風になった」


「だとしてもすごいよこれ!? うわっやべぇ!?」


 画面の筋肉男に見習って、次々とポーズをとるアルス。

 ……あれ、これはこれで……


「……素敵かも」


「えっ……?」


 惚れてしまった私の横で、ユウナさんがドン引きしていました。

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