第35話 どう見ても公開処刑です本当に(ry
何ページか開いてみたけど、案の定解読不能だった。ただその代わりちょくちょく手書きのイラスト(というか写生か)があって、状況などが何となく分かる。
ここで栽培している植物の絵、お客さんに対応しているメロ君の姿。
やっぱりこれ、彼の日記なんだ。
『ん、いらっしゃいま……あれユウナさん、一体どうしました?』
『森様、失礼します。瑛莉はどちらに?』
『今は奥で休憩しているよ。ちょっと淫乱な事をやっててさ』
『淫乱って……一体何が……』
ん、この声……。
私が店内に向かうと、そこには誠君の他にユウナさんがいた。
「ユウナさん、来たんだ」
「お疲れ様です、瑛莉。実は買い物に出かける時、アルス様から瑛莉の様子を見てくれと頼まれまして」
「アルスが? そうか……あの子が……」
今朝もそうだったけど、アルスって心配性なんだな。あるいは私だからこそ心配しているのか。
私だから心配……やだ、それじゃあ彼氏みたくなっちゃうじゃん……。
というかアルスが私を気に掛けるだなんて……何だか困っちゃうなぁ……。
「ヘヘ……ヘヘヘ……」
「沢口さん、さっきの効能まだ残ってるの?」
「ヘッ!? いやいやもう大丈夫だよ!? それよりもユウナさん、この本の文字って読めるかな!?」
「こちらでしょうか? それは読めますが……」
日記のページを見せた所、そう答えるユウナさん。
まぁ、同じ世界から来たんだから当たり前だ。
「見る限り日記のようですけど、それがどうか?」
「ああ……これメロ君の物らしいんだけど…………あうん、何でもない。こっちの話」
「もしかして日記読みたかったとか?」
やめようと思ったら誠君に言われてしまった。
いや、確かにそれが目的だけど……だけど。
「いや、その、これを見ればアルスの事分かるかもと思っただけだよ? 最近メロ君隠し事しているっぽいから、それを知りたくて。でも日記を見るのはやっぱ駄目だよね……」
「アルスの事かぁ。だったら見るべきなんじゃないかな。彼がそういう隠し事しているんだったら、飼い主として知る権利があるし」
「えっ、でも……」
「という訳でユウナさん、翻訳お願いします。沢口さんの為にどうかしてやって下さい」
「うーん、そこまで言うのでしたら……。ただメロ様にはどうか内緒で」
えっ、そのまま進んでしまう? 別にいいのに?
私が面食らっている間、ユウナさんが日記のページを読み始めた。
『この日、ワタクシはある客を見つけた。
自分より年上の少女で、見た目地味な印象。またそことなく負のオーラが漂っていて、まさにこの世界の縮図そのものだ。
こういう人間を見るのはやはり面白い。とりあえず彼女に声を掛け、アルスを買わせる事にした』
「……地味とか負のオーラとか酷い言われようだ……」
まさか初めて会った時から総スカンされるとは。
確かにあの時は本当に暗い気分だったけどさぁ。
「あの、こう言ってはなんですが……私は暗い人間だなんて思っておりませんわ……」
「ユウナさん……やっぱり傍からニヤニヤしているメロ君とは大違いだね。本当に優しい」
「そういう印象を持っているんですね……それよりも続き読みますか?」
そう言われると少し悩んでしまう。
おもむろに誠君に振り向くと、彼が「読んじゃえば?」的な目をしている。こうなるともう引き下がれないな。
「じゃあちょっとだけ……ちょっとだけ……ね?」
大丈夫、まだメロ君が帰ってくる気配はない。何とかなるはずだ。
ユウナさんは困り気味だったけど、「では次を……」と続きを読んでくれた。
『今日、沢口さんの家に泊まる予定になっている。
この頃には、アルスが言葉を話すレベルになっているだろう。彼の声がどんなのかと思うと期待が膨らむ。
初めて行く彼女の家、実に楽しみだ』
『あれから一日、沢口さんの家でアルスの研究を行った。
あらかじめ記すが、植物の育成を怠る人間は元の世界でもこちらの世界でも存在する。元の世界で植物を枯らしてしまうという情けない人間を、ワタクシは何度も見た事がある。
しかし沢口さんが育てたアルスはすくすく成長し、元気な状態を示している。以前に散歩を怠った事以外はちゃんと世話している証だ。
あの方はとにかく地味だが、優しい所があるのは確か。アルスを託して正解だったという訳だ。
それと沢口さんの家の中なんだが、中々いい香りがしていた。女の子の香りというのは本当に興奮する』
「至って真面目なんだね、メロって」
「そうだね。地味とかいい香りとか解せない所あるけど」
そこの所は誠君と同意見だ。伊達に異世界植物の販売屋はやっていないという事か。
一方で、アルスの情報があまり書かれていない。生態を知っているから省いているという事もあるだろうけど、それでも痒い所に手が届かない感触がしてしまう。
それともやっぱり、アルスは異世界のモンスターという事以上の情報はないんだろうか。
「他には植物の育成記録が書かれていますね。さすが植物の研究者……」
「研究者?」
「ええ、メロ様とその家系は植物学の権威なんです。私は依頼されただけなのであまり踏み込めませんが、どうも学会では有名な方だと」
「へぇ、そうなんだ」
それなら人の家に行って、植物を記録するというやり方も納得できる。
あの歳で研究者なんて本当に偉いというか凄い。
「あとは自分の周りの事を記してますね。元の世界に戻って研究報告……はぁなるほど……」
ぺらぺらとページをめくるユウナさん。最初は乗り気じゃなかったけど、読んでいる内に興味持ったらしい。
それからうんうんと頷きながらめくっていると、その手が止まった。
「…………」
「どうしたの? ってあれ、これユウナさんの絵じゃん」
ページには人物の全身絵が乗っていた。
髪型と服装、間違いなくユウナさんだ。ただそのページを見ながら、ユウナさんが顔を赤くしている。
……これってもしかして。
「どうしたのユウナさん? このページが何か?」
「……えっと……その……すいません森様……これは私自身から読む事は……」
「そうなの? うーん、何て描いてあるのか気になるなぁ」
「『ワタクシは幻獣専門の医者に依頼する事に決めた。その医者はユウナと言い、卵ながらも優秀な女性だ』って描いているんですよ」
その声で全身が跳ね上がってしまう。
振り返ると、いつの間にかメロ君がそこに立っていた。
「お、お帰りなさい……あの、これは……」
「全く、日記を見るなんて度し難い変態達ですね。でもまぁ、ユウナさんに私の想いが伝えられたので、ある意味よかったのですが」
「このページ、何て描いてあるの……?」
誠君、こんな時に聞く!?
それとも元々変態だからあまり気にしてなかったのか!?
「ああ、ちょっと恥ずかしいのですが……『彼女に会った時、ワタクシは衝撃に近い感情を抱いた。同時にこう理解したのだ、ユウナさんはワタクシにとって理想の女性だと。
ユウナさんは包容力もあり、身体の成長具合も素晴らしい。特に主張のある胸がとっても柔らかそうでけしからん。一回だけでもいいからあそこに飛び込みたい』」
「「…………………………」」
「『そして何とも言っても、引き締まったウエストに反して大きそうなお尻。服の上から目立つそれを見るだけでも、ワタクシは大興奮してしまう。ああ素晴らしい……素晴らしくていつもユウナさんを』――」
「ストップストップ!! 本当にすいません、日記を持ち出した私がいけなかったです!! これ以上はユウナさん死んじゃう!!」
ユウナさんが手で顔を隠してしまっている。耳まで真っ赤になっているのが丸見えだ。
どう考えてもユウナさんへの公開処刑なのに、それを楽しそうに話しているメロ君は鬼か!?
「それにユウナさん、ちょうどよかった。実はあなたに話がありまして」
「な、何でしょう……?」
メロ君が顔真っ赤なユウナさんに向かう。
それで後ろに回していた手を差し出してきた。どうも花束を持っていた様子。
「日記に書いてある通りです。ワタクシはあなたに惚れています。どうかお近づきに――」
「……えっと、申し訳ありません……」
「えっ?」
えっ、じゃないでしょうあんた。
あれを見せられてOKする人いないがな。
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