第17話 見かけによらず酷い
私達がしばらくゲームをやった後、そろそろ寝る事になった。
布団は私以外のしかなかったんだけど、メロ君が「固い床の方が野宿感がやって好きなんですよねぇ」と聞かなかったので言う通りにするしかなかった。
「本当にごめんね、次泊まる時は布団用意するから……」
「いやいや、お気遣いいただきありがとうございます。そもそも泊まるのはそう頻繁じゃないですので」
ベッドに寝ている私を、メロ君が見上げるように微笑む。
綺麗な顔立ちだから笑顔が可愛い。もっとも性格とか知っているからときめかないけど。
「さて、そろそろお休……」
「あっ、待ってメロ君。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
いつしか私がそんな事を口にしていた。視線もアルスの方に向ける。
電気を消しているせいか、その子がもう眠ってしまっている。何か「エリを丸呑みしたい……」って寝言が聞こえるけどそこはご愛敬。
「……アルスってやっぱりあそこから成長するんだね」
「まぁそうですね。あの姿はあくまで幼体。長い時間を掛けて成体へと成長していきます」
「……やっぱりか……」
つまりはあの姿から変わっていくという事になる。
あの子が喋った辺りから分かっていたんだけど、それでもやっぱり寂しい。あの可愛い姿がいつしか見られなくなる時が来るのが。
「……しかしですが、成長した所でアルスの想いは変わりません」
「想い?」
「はい、『沢口さんを慕う気持ち』です。成長すればある程度性格が変わりますが、それだけは必ず残るはずです。ワタクシが保証しますよ」
「…………」
アルスが私を忘れないでくれる……か。
成長する事には不安があるけど、それが本当だったら嬉しい。私も、アルスを想う気持ちを忘れないでいたい。
「……ありがとうメロ君。あと気になったんだけど、成長した姿ってどんな風なの?」
「…………」
「……メロ君?」
返事がない。ただの屍……じゃなくて。
振り向いてみると、メロ君が掛け布団の中で眠ってしまっている。寝顔も何だが愛らしくて、思わず頬が熱くなってしまう。
「……お休み」
まぁ、ともかく私も寝よう。
明日は学校なんだから夜更かしは駄目だ。
「……ギイイイイイ……ギギギギギギ……ギギ……」
何だこの音……!? メロ君の歯ぎしり……!?
見た目によらずやばいなおい!?
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メロ君の歯ぎしりが妙に気になるけど寝れない訳ではなかった。気がつくと窓の外が明るくなっている。
いよいよ早朝。メロ君も起きるとそろそろ帰るというので、彼を玄関前まで見送る事にした。
「いやぁ、美味しい物が食べれて風呂にも入る事が出来て本当に楽しかったです。あなたの家に泊まってよかったですわ」
「うん、よかった」
メロ君が靴紐を結びながら言ってきた。
色々と変な事があったけど、嬉しそうで何よりだ。
「それとアルスを一日観察していた訳ですが、生育面、健康面的にも良好でした。この調子で行けば病気にならないかと」
「病気かぁ。そういえば病気になったらどうすれば……」
普通病気になったら、薬を買うなり病院に連れて行くなりするはず。
だけどアルスは植物。植物用の薬だなんて聞いた事がないし、病院に連れて行くのも論外だ。大騒ぎになって治療どころじゃない。
「そう、この世界ではアルスを治療出来ません。ですが我々の世界には、アルスなどのモンスターを治療出来る医者がおります。近々その方をこちらに呼ぼうと思っていまして」
「へぇ、本当?」
それは助かるなぁ。
アルスの事はちゃんと気遣うけど、もしもの場合があるしね。
「依頼やら何やら時間掛かると思いますので少々お待ちを。では沢口さん、アルス、今日は泊まって下さりありがとうございました」
「うん、帰り気を付けてね」
それからメロ君がアパートから離れていった。
姿が見えなくなった後、私は玄関にいるアルスに振り向く。
「……メロ……もう来なくていい……」
「そんな事言わないの。後で一緒に遊ぶから、ね?」
「……うん……」
素直でよろしい。学校が終わったら川の土手でも行こう。
そう考えながら扉を閉めようとした所、声が聞こえてくる。
「沢口さん。前に貸したゲーム返しに来たんだけど」
「あっ、誠君」
どうやら誠君だったみたいだ。
この間あるゲームをやりたいと言っていたので、それを持ってた私が貸したという訳。
「ところでさ、さっき小さい男の子が家から出たの見たけど」
「ああ、あの子? 実はね……」
「やっぱり沢口さんってああいった子が好きだったり?」
「…………………」
うん、森さんと姉弟なだけある。
もうこの際ショタに目覚めようか。
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