第16話 瑛莉の激しいお風呂教育
「いやぁ、美味いですねぇ。ちょっと辛いですけど」
カレーが出来上がったので、まず最初にメロ君に食べさせた。
最初辛そうにしていたけど、なんやかんやと美味しいと言ってくれている。喜んでくれてよかった。
「あとこれも出来たよ。フイエスで作ったパンケーキだけど」
カレーの他にも、二人分のパンケーキも作ってみた。
砂糖の代わりにフイエスを使ってみた所、ケーキの表面に花びらが舞っているような感じになった。
これはこれで悪くはない。
「おや、早速使いましたか。どれ…………うん、イケますねこれ!」
「本当? よかったぁ。あとアルスにも食べさせて大丈夫?」
「もちろんですよ。糖分の与え過ぎには気を付けて下さいね」
「うん。はい、アルスも」
気に入ってくれるか分からないけど、とりあえずフォークで刺したケーキを向けた。
するとアルスがそのケーキを口に入れる。
「モグモグ……美味しい。もう一個ちょうだい」
「よかったぁ。でもこれで最後ね」
「うん」
もう一個あげた所、頬を膨らませながらモグモグしていた。可愛いなぁ。
ともかく私もカレーを一口。……うん、我ながら美味い。
隠し味としてさっきのリンゴ使ったのが正解だった。やっぱリンゴは最強だね。
いつしか私達はカレーとパンケーキを完食。結構メロ君がおかわりしたので、今回に限っては鍋が空になった。
そしてこの後、私達はある行動に移る。
――入浴だ。
「お、お待たせ……」
脱衣所にアルス達を待たせた後、私はそこに戻った。
何をしていたのかというと、押し入れから出したスク水を着ていたのだ。中学を最後に使っていないから探すのに手間取ったという。
「……新手の拘束具でしょうか?」
「……卑猥」
「スク水!! スク水って言うの!! そんな『何か変な服を着ているよこの人』的な目で見ないで!!」
一緒に入って風呂の事教えようと思ったらこの仕打ち。異世界にスク水なんてある訳ないから無理もないけど。
というかアルス、どこでその言葉知ったし。
「とりあえずメロ君は服脱いで。それも洗濯するから」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
とか言って、何の躊躇もなしに脱ぎ始めてたよこの子。
まだ子供だから羞恥心はないのかな。あと一応目は逸らしているけど、視界の隅にメロ君の全裸姿が……。
「どうしました沢口さん?」
「えっ? あっうん……何でもない。そろそろ入ろっか」
とにかく平常心平常心。小さい頃、お父さんと入ったんだから大丈夫なはず。
お風呂に入った後、メロ君の身体をシャワーで流した。男の子だけあって背中がやけにごつい。それと鏡のせいで前の物(隠語)が見えているような……。
「エリ……僕にも流して……」
「えっ? それは駄目だよ。同じようにやったら土が流れちゃうよ?」
「ムウ……」
不満そうなアルスだけど、こればっかりはしょうがない。
自分もシャワーで流し、一緒に浴槽に入る。二人分のせいでお湯がいつも以上に溢れてしまった。
……それよりも男の子と入るのは未だ慣れない。
メロ君が変に恥ずかしがらないから余計に狂う。しかも呑気にお風呂を堪能しているし。
「ハァ……これがお風呂ですか。こういうのも悪くないですね」
「まるでおじさんだね。まぁ、たまにはこうやって風呂に入るのもいいんだよ? 近くに銭湯があるからそこに寄ったりとか出来るし」
「なるほどですね。しかしこうやって入れるんて、アルスも隅に置けないですねぇ」
「…………」
メロ君が話しかけるんだけど、それでもそっぽを向くアルス。
どうしたんだろうこの子。さっきから様子がおかしいような気がする。
「あっ、そろそろ身体洗おうか。メロ君一旦出て」
「ああ、はいはい」
さて、いよいよここからだ。
『男の身体を洗う』という過酷な試練。生まれて初めて、さらに一回もやった事がないそれを、今ここでやらなければいけないのだ。
まずは髪洗い。これに関しては特に問題なくやり終えた。後は……そう、身体だ。
今から男の子の身体をか……何だが緊張しちゃう。
「あの、よろしければ自分でやりましょうか?」
「ああ……いや、せっかく一緒に入ったんだし最後までやるよ」
躊躇っていたらメロ君が風邪引いてしまう。ここはもうやってしまおうか。
大丈夫、彼を弟だと思えばいいんだ。そういえば弟か妹が欲しかったって昔思ったけかぁ、なんて。
ともかくまずは背中から洗う事に。痛くなければいいけど。
――ゴシゴシ……。
「……ぅん……」
「あっ、ごめん痛かった?」
「いえいえ……ちょっとびっくりしただけで」
それなら大丈夫か。
背中をひと通りやってから、腕や脇腹など色んな所を洗う。
「おぅん……おおおおん……はああ……」
「…………」
「あふん……あふん……あおん……」
いやいやちょっと待って。何で身体洗ってるだけなのにそんな声出せれるの?
まるでいかがわしいDVDとかそういうお店のような感じだわ……おかげで顔真っ赤だよ。
「一応前もやっとくね……」
ともあれ腕とかが終わったので、次は前だ。
ぎこちなく拭いていくけど、やっぱり男の子だけあって筋肉質で固い。
「おお……おおふ……おおおん! 沢口さん激し過ぎます……!」
「……いや、普通にやってるだけだけど……」
メロ君……もうちょっと声を。外に響いたらアカン……。
ここから先はこの子に任せるべきかな……。
「……もういい、僕がやる」
「えっ? あっ……」
アルスがタオルを奪った後、メロ君の身体を洗ってくれた。
私も前にしてくれたっけ。
「あふん……アルス、ちょっと痛いんですが……」
「気のせい」
「いや、気のせいとかそういう……あいだだ! もうちょっとゆっくりと……ああおうん!?」
「よし終わった、水で流すよ。……ゴクゴク」
「えっ、口で? さすがに口からは……アブブブブ!!?」
風呂のお湯を飲んでから、メロ君に思いっきりぶちまけた。何だがポ〇モ〇のみずでっぽうだ。
それにしてもアルス、何だが不機嫌っぽいな。
植物だから表情が分かりにくいけど、動作とか見れば何となく分かる。
「アルス……何か私、変な事を?」
「……何も」
「じゃあ何で……」
「お、恐らくですがジェラシーではないでしょうか?」
不安に思っていた私にメロ君が言ってきた。
濡れた髪の毛が目に掛かって怖いけど、とりあえず気にしないでおこう。
「今日はワタクシばっかり構っていますので、その事に不満を覚えているんでしょう。彼なりに沢口さんを慕っているんです」
「……あっ……」
そういえばそうだったかもしれない。今日はメロ君と一緒にいて、アルスを疎かにして、そうしてあまり相手にしていなかった。
それは不機嫌になって当然だ。だと言うのに、それに気付くのに遅れてしまった。
「アルス、ごめんね……。私、その事に気付かなくて……」
「……本当だよ」
「うぐ……」
やっぱり怒っているなぁこれは。ここまで正直に言われるとは。
「だから後で……エリの身体洗わせて……」
「!」
でも、そんなアルスが私に振り向いてくる。
何ともこの子らしい要求。本当はしちゃいけないんだけど、思わず口元が綻んでしまう。
「……じゃあ、お願いしようかな」
「うん、今やる……」
「あれ? まだ泡が残っているんですけど……」
洗うのは嬉しいけど、メロ君をほっぽり出すのはアカンよ。
あの後アルスが言う通りにやってくれたけど、それが何だが嬉しく思えてきた。やり過ぎてヒリヒリした事もあったけど。
ああ、もちろん洗う時はメロ君に背を向けさせましたとも。
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