第32話 私に悪魔が強制してきた

 次の家は、アパートから数分ほど離れた距離にあった。


 赤色の屋根をして、やや大きい一軒家。そこのインターホンを押すと家の人が出てきた。


「ちわっすビランテです。今日は買って下さった植物の観察しに参りました」


「あっ、あの時の。どうも……」


 意外や意外。私と同年代の女の子みたいだ。

 艶やかな黒い長髪、線の細く可愛らしい顔立ち、きめ細かい色白の肌。何というかお嬢様と言われたら信じてしまうくらい綺麗な人だ。


「あの、お二人もビランテの方で?」


「……あっ、はい。一応バイトでして……」


「そうですか……どうぞ中へ」


 容姿に見惚れてたら返事が遅れてしまった。本当に同年代とは思えないなぁ。


 それで案内された家の中は、割と洋風なイメージ。

 高級そうなピアノ、白いクロスが被せられた大きいテーブル。お嬢様な女の子によく似合っていると思う。


「植物を持ってきます……ちょっとお待ち下さい」


「ええ、ありがとうございます」


 メロ君に言ってから居間を出る女の子。


 にしてもあの子、どんな理由で植物を買ったのだろうか?


 さっきの狂気作者さんもそうだけど、大抵は癒し目的で植物を買っている。

 ビランテの植物は癒し効果が抜群らしいから、あの子もそれなりに悩みがあるという事になる。


 ……いや、別に悩みがあるから買うって訳でもないかも。ただ単に、植物が欲しかったからとかあったりするだろうし。


「あの、お持ちしました……」


 女の子が植木鉢を持ってきた。

 そこに差してある植物の葉っぱが赤色をしている。こんな色の奴があるんだ。


「あれも異世界の植物?」


「ええ、癒し効果たっぷりの奴です。部屋に置くだけでも悩み事が吹っ飛ぶくらいです」


 となるとこの子、悩み持ちなんだ。

 歳近いと思うから、この際相談でも乗ってみるの手か? いやでも、それで私が解決出来るとは限らないしな……。


「……ふむ、品質は良好ですね。効果はいかがでしょう?」


「はい……かなり良くなったかと……本当にありがとうございます」


「それはよかった。それでですが、培養土をお持ちしまして――」


「ただいまぁ」


 ふと、玄関から女性の声が聞こえてきた。


 その人が居間に入っていくと、思わず私はびっくりしてしまった。ふんわりとした栗色のセミロング、潤った唇にきめ細かい顔立ち、コートの下から見えるすらっとした体系。

 モデルかと言いたいくらいな美人だ。


 正直、綺麗は綺麗だけど中身がアレな森さんよりレベル高い気がする。


「あっ、お姉ちゃんお帰り……」


「うん。あら、もしかしてお友達?」


 なるほど、この子のお姉さんだったのね。

 美人姉妹とかやばくないですか?


「お邪魔しています。実はワタクシ達はある花屋の者でして、こういった植物の評価をしております。終わったらすぐに帰りますので」


「へぇ、花屋さん? お仕事お疲れ様。もしよかったらお茶でも飲んでいかない?」


「いえいえ、お構いなく。本当にすぐですので」


「大丈夫よ。それに遠くから来たんだもん、ゆっくりしていくといいわ」


 あらま、何て優しい。

 紅茶の用意をするお姉さん……見ていると憧れのような物を感じる。この人、凄くハイスペックではありませんか。


「……ん、ちょっとあなたいいかしら?」


 お湯を沸かしている時、お姉さんが私に振り向いてきた。


「はい? 私?」


「そう、ちょっと動かないで」


 言われた通りピタッと動かないようにする。そうするとお姉さんが私をじっと見つめてきた。

 何だが恥ずかしいなぁ……。こういう見られるのは、変にドキドキしてしまう。

 一体何をしているんだろう。


「……うむ、花音かのんちゃんとほぼ同じ体系かぁ……」


「花音……ああ妹さんですね?」


「ええ。それでちょっとあなた、服脱いでくれない?」


「………………はい?」


「脱いで♪」


 ニッコリと言ってくるけど、申し訳ありません意味が分かりません。

 どう考えても、そういう性癖の発言にしか聞こえない。


「心配しないで、ただある服を着てほしいだけだから。もし応じてくれないと、家から出さないし縄で縛り付けるから」


「強制っすか!?」


 何か偉い事になってしまったぞ!?

 助けを求めようとメロ君達に振り向いた。ただ二人とも首を振って「素直に言う事を聞け」と無言の言葉を投げかけてくる。


 くっ……まぁ服くらいなら別にいいか。


「い、いいですよ……」


「ありがとう! じゃあ花音ちゃん、いつも通りやるわよ!」


「う、うん……」


 花音さんも一緒に? 

 そう疑問に思ってから数分後、私は用意された服を着る事になった(ついでに殿方二人には避難させてもらった)。







「キャー素敵! やっぱりサイズが合っていたわ! 最高じゃない!」


「「………………」」


 メイド服である。

 断じてエプロン姿ではない、アニメによくある可愛いメイド服。それを着た私と花音さんの周りを、お姉さんがスマホで撮影している。


 私は今、辱しめを受けている。

 撮影は別にいい。問題はこのメイド服のデザインだ。胸元開いているし、スカートの丈が短いし……かなり恥ずかしい!


 でもお姉さんはそんな事を知らんとばかり……いや違う、それを鼻息荒く興奮しながら堪能していた。


「いい感じいい感じ! それにあなたの生足なかなかいいじゃない!」


「あ、あの……あまり見ないで下さい……その……」


「やだぁ、そんなに顔を赤くしちゃって!! 花音ちゃんが一番だけど、あなたも中々の逸材じゃない!」


 駄目だ、完全に自分の世界に入っていらっしゃる。

 これはあれだ、この人が納得するまで終わらないような気がする。


「あの……すいません、姉の趣味に付き合わせてしまって……」


「あ、いえ……大丈夫ですよ……」


「本当にすいません……。お姉ちゃん、いつも買った服を私に着せていまして……ほぼ毎日ですよこれ……」


 やっぱりそういう趣味だったのね……。

 さっき思っていた花音さんの悩みって、多分これだと思う。なるほど、確かに私がその立場だったら憂鬱になりそうだ。色んな意味で。


「いいよいいよ! じゃあ次はこれを着なさい!」


「えええ!?」

 

 この場で!? 正気ですかあなた!?

 でも「早く着て」とお姉さんが目を輝かせている。花音さんに振り向いても首を振られてしまい、メロ君達に対しても同じ。それどころかもらった紅茶を呑気に飲んでいる始末だ。


 全くこの人達は……ああもう、背に腹は代えられないという事か。







「ふぁああ……綺麗! 花音ちゃんもあなたも本当に綺麗!」


 次に着せられた物。それはあろう事かビキニ水着だ。


 花音さんは黒色のシックな物。それが白い肌を引き立たせているような扇情さがある。

 対して私は、白色のフリルが付いたエロい物。しかも紐パンという際どさがポイント。


 もうね、恥ずかしいなんてもんじゃない!


「素晴らしいわぁ……次は一緒に抱き合って! それでキスするかしないかくらいに顔を近付けて!」


「はいっ!?」


「ちょ、ちょっとお姉ちゃん……」


「別に恥ずかしがらなくてもいいわ! だって女の子同士だもん!」


「どうあがいても恥ずかしくなるわ!?」


 あかん、お姉さんが完全にイカれちまっている!

 もうこれはメロ君でも看破出来ないはずだ。メロ君、何か言ってやって……


「アンコール、アンコール、アンコール……」


「アンコール、アンコール、アンコール……」


 駄目だこいつら……というかアンコールの意味分かってないでしょう、メロ君。

 しかもそれを真似してる誠君って……。


「……花音さん、ちょっとだけしましょう」


「えっ、大丈夫ですか……?」


「いやだって、そうしないと納得してくれなさそうですし……失礼します」


 これはもう言う通りするしかない。


 私が先に花音さんを抱く。するとその子もびくつきながらも同じようにする。

 いい香りと柔らかさが、私の腕の中から感じてくる。そんな花音さんが潤った瞳で見つめてきて……。


 これはうっかり動いてキスとかやっちゃいそうだ。

 いや、さすがに花音さんは嫌がるだろうし、それににキスした唇を他の人にするのも……。


「何これ……もう可愛い過ぎる! ねぇあなた、この際私達と一緒に住まない!? 優しくするから!!」


 ……お姉さん、本当に楽しそうですね。

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