第2話 憂鬱を治しに観葉植物を

「……はぁ……」


 またため息が出てしまった……これで何度目だろう。


 今は昼食の時間なので、クラスメイトが弁当を食べている。もちろんグループを作ったり楽しそうに喋ったりと賑やかだ。


 で、私はというと、窓際の机で一人食べている。


 弁当は朝早く作った物で、ウインナーとか卵焼きとかありふれた……というのは置いといて、一人寂しく食べているというのは色々と重苦しい。


 この高校に進学してから早一か月。自分の人見知りのせいで中々友達が出来ないでいる。

 いや、さすがに友達たくさん欲しいとかじゃないけど、やっぱり一人二人は欲しいかなと。


 で、中々出来なくてこの有様。何だが学校にいる事自体が憂鬱になってきたというか。


 それから授業を受けて放課後。私はクラスメイトの中を潜り抜けながら校門に向かう事にした。

 二十分ほど離れた自分のアパートへと帰宅。ようやく着いた私は家の扉を開けた。


「ただいまぁ」


 返事は返ってこない。

 それも当然、私は家族と離れて一人暮らしをしているからだ。


 家に着いた途端どっと疲れが出て、ベッドに身体を投げ出していた。それでまた憂鬱な気分。


 この場合憂鬱は一人にいる不安感とか、これから先もこのままなのかとか、とにかくそういった感じなのがぐるぐるしている状態だ。


 考えるだけでも胃が痛みそうだ。


 一人でいる方が好きという性格だったらどれだけよかったか。友達もいないし、家には一人しかいない……孤独で押し潰れされそうな気分だ。


「……何とかしないと」


 いつしか私はスマホを取り出していた。


『憂鬱を何とかする方法』と検索をしてみた所、たくさんのサイトが出てきた。で、ほとんどが心療内科に行くべきとかそういった感じ。そういうのじゃないの、そういうのじゃ……。


 一つずつ探っても目ぼしいのが全然見当たらない。やっぱりネットに頼りにしないべきか……。


「……ん?」


 あるサイトが目に留まった。


 どうも植物の一覧サイトらしい。『観葉植物には、ストレスなど心の病をリラックスさせる癒し効果があります。さらにその場の空気も清浄してくれるので、気分が晴れやかになるでしょう』。


 なるほど、植物か。


 植物ならペット禁止のアパートでも買えるし、値段もそんなに高くならないはず。世話も水やりで簡単。

 植物、買ってみようかな。今なら店やっていると思うから行ってみようか。




 -------------  




 あの後、私は行きつけの商店街に足を運んだ。


 よくご飯の買い物とかにここに来たりするから、どこにどの店があるのかとか大体分かる。確かスーパーの奥に花屋さんがあったはずだ。

 いつも寄っているスーパーを通り過ぎた後、その花屋さんに向かった。


「……あれ、休み?」


 と思ったら花屋さんが閉まっている。ただ扉には張り紙が張られているようだ。


『いつもご来店いただきありがとうございます。ただいま当店は長期休暇させていただいております』


 まさかの長期休暇。タイミング悪いな。


 だったら他の店にしよう……と言いたい所だけど、他に花屋さん知らないんだよな。仕方ない、ここは一旦家に帰ろう。


 これからどうしようか。ネット注文という手もあるけど、やっぱり自分の目で見てから買いたいしなぁ。あるいはその辺の花を抜き取ったり、ってのはさすがにマズイよね。


「ちょいと、そこのお姉さん」


「ん?」


 いきなり背後から声を掛けられた。

 そこにいたのは私より小さい男の子だ。外国人なのかな、綺麗な金髪をしている。髪色や細い目つきとかまるで狐のような印象だ。


 どう見ても小学生っぽいけど、もしかしてアレかな?


「えっと、ぼく迷子? 一緒に交番行こうか?」


「いや違いますから、迷子じゃないですから。これのどこが迷子に見えるんですか?」


 いやどう見てもそうでしょう。


「じゃあ、私に何か用なの?」


「はいそうです。今さっき花屋に寄ったでしょう? ワタクシ、格安な花屋を知っておりまして」


「……はぁ」


 何この子……色々と胡散臭いんですがそれは。

 というか日本語が上手いは上手いんだけど、何かゴマすり商人みたいな口調だ。全く見た目と合ってない。

 でも格安な花屋かぁ。それなら行ってみようかな。


「じゃあ案内してくれるかな?」


「はい喜んで。その前にお名前は?」


「ん、私? 沢口瑛莉さわぐちえり


「沢口さんですね。ではご案内します、付いて来て下さい」


 本当に何だろうこの子。


 私はその男の子の後を付いて行った。しばらくは商店街の中を歩いていたけど、次第にそこから離れるようになってくる。


 この子が言ってた花屋さん、商店街の離れにあるかもしれない。と思っていたらその子がいきなり左に曲がった。その先は薄暗い路地裏。


 あれ、これはまずくない? 花屋さんを紹介するといってやっちゃいけない事をやったり……。


「別にヤクとかそんなんじゃないですよ。ちょっとした穴場でして」


「いや、こんな路地裏に穴場なんて……」


「さて入りますよ。付いてきて下さい」


 無視ですか……というか入っちゃったよあの子。


 入るのは嫌だけど、男の子一人行かせる訳にもいかないしな……ここはあの子を信じて入ってみよう。


 路地裏の中は薄暗くてゴミが散乱している。何か帰りたくなったと考えた矢先、目の前に何かが見えてきた。


 店だ。それも周りに花が添えられた木造の花屋さん。


 男の子と一緒に中に入ると、すぐに甘い香りが漂ってくる。店の中にも色とりどりの花が添えられていて、思わず周りを見渡すようになってしまう。


「さてと、ここは花屋『ビランテ』。それでワタクシはここの店の人をやっております」


「店の人……お手伝いさん的な?」


「まぁ、そんな所です」


 どうもこの子が店番をしているみたいだ。

 となると口調とかはお客に対してか。それなら納得。


「さて早速ですが、どういった物がよろしいようで?」


「ああ……実は癒し効果がある花とか植物が買いたいなって。最近憂鬱だからそれを何とかしたくて……」


「なるほどですね。でしたらそんなあなたにとびっきりの品がございます」


 男の子は奥にあった棚を漁り出した。中の物を取り出しては放り投げたりを繰り返した後(せめて品物だから大切にしようよ……)、黒い粒のような物をこっちに持ってくる。


「これって種?」


「はい。沢口さんの癒しに役立てるお得な植物の種です。もちろん水を与えれば成長しますよ」


「…………」


「ん? どうかしました?」


「……いや、普通に花とか観葉植物を売ってくれるんじゃないの?」


「これはその観葉植物の一つですけど?」


「植物って成長するのに時間かかるけど?」


「ええ、知ってます」


 ……この子、私の何を試しているのだろうか。

 そういう心理作戦? ただのからかい? えっと、普通植物は一日や二日で成長する物じゃないんだけど、もしかして間違いだったりとか?


 いやいやそれはないはず。じゃあ何でこの子は種を差し出したんだろう……うん、やっぱり分からない。


「他にないの?」


「生憎ですが、観葉植物はこれしかございませんでして。でもお値段は113円にさせていただきますので、とってもお得ですよ」


 それなら植物としては安いかな。ってそうじゃなくて!


 これってもしかして詐欺なんじゃ……でもさっきの花屋さんは閉まっているし、ネット通販は面倒だし……値段が安いから別に痛くないか。


「じゃあそれを……」


「はい毎度あり!」


 なんやかんやでその種を購入する事になってしまった。


 あと植木鉢と観葉植物用の培養土、じょうろも売っていたので購入。さすがに高くなるかなと思ってたら割引セットで1000円で買う事が出来た。

 それから家に持ち帰った後、植木鉢に培養土と植物の種を投入。




 それでじょうろで水をやったら、何か緑色の物体が土から出てきた。

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