第3話 その植物、凶暴につき?

 そうだ。私が植物買おうとして、こんな事態になったんだ。


 植物の化け物は、周りのビニール袋を自分で破いているようだ。しかも口とかじゃなく両手にも見える葉っぱでやっている。


 何て器用な……いや驚くのは後にしよう。すぐにこれをあの店に持って行かないと。

 触るのも嫌だけど、私は手袋をして大きめのカバンを用意。それから植物に触れないように覆い被さる。


 中で植物が動いているけど、さすがに破くという事はないみたいだ。

 そのままカバンを持って、昨日立ち寄った花屋さん……確か『ビランテ』だったかな? とにかくそこに向かう事にした。

 

「何で私、こんな事をしているんだろう……」

 

 もう本当にそれしか言えない……。私が何をしたというのか……。


 ともかく例の路地裏に入ると、ちゃんと店はあった。開店もしているので中に入ったら、カウンターにあの子が座っている。


「すいません、これどういう事なの!?」


「ん? ああ、やっぱり一日で成長しましたかぁー」


 その子はカバンから出した植物を見るなり喜んでいた。

 何でそんな楽天的なんだ!?


「いやいや、これおかしいでしょう!? 何かファンタジーのモンスターみたいだよこれ!?」


「それはそうですよ。何せ異世界からの輸入品なんですから」


 ……ん? 今この子なんて言った?

 異世界からの輸入品? 異世界って……。


「ああ、説明が遅れました。ワタクシはメロ。いわゆる異世界からの来訪者でして、こうして我が世界の植物の販売を行っております」


「……その異世界っていわゆる別世界の?」


「ええ、その通りです。よくWEB小説にファンタジー云々ってのがありますでしょう? あんな感じだと思って下されば」


「いや、WEB小説は読まないけど……」


 どうしよう、理解が全く追いつかない。

 という事は、周りの植物もその別世界から持ってきたのかな。言われてみると見た事がない花とかあるように思える。


「あなたが持っているその植物は『アルス』。ご覧の通り植物なのに動物の性質を持っておりまして、ある程度の知性もあります。ああ、人を喰い殺すという事はないですからご心配は無用ですよ。ワタクシが保証します」


「食い殺す事があったら怖いよ!? あの、返品は出来ないの!?」


「返品ですか? そりゃすいません、実は当店では返品はいたしておりませんでして」


 ええ……。


 という事は私、これの世話をしなければいけないって事? いやいや、こんなおぞましいのと一緒だなんて……。


「大丈夫ですよ。昨日言っていた癒し効果は本当ですし、一緒に住む内に愛着も湧いてくるはずです。あっ、水やりはちゃんと定期的にやって下さいね。ミネラルウォーターでも大丈夫ですので」


「し、信用出来ない……」


 ハッキリと言った私だけど、「そこは度胸。何でも試してみるもんですよ」と爽やかな笑顔でグッジョブされた。

 結局私はこの植物(確かアルスと言ったはず)を返品する事が出来なかった。それから途方に暮れたままアパートに向かう羽目に。


 そのアルスはキッチンに置いた後ももごもごと動いている。遠目から見てもキツい。断じてキツい。


「こんなのってないよ……本当に癒されるのかな……」


 メロ君が癒し効果云々だなんて言ってたけど、逆にストレスが溜まりそうだ。早い事、別の植物を買うべきだ。

 そう思っていたら、アルスっていう植物が首を伸ばしているのが見えた。水道の蛇口を狙っている……ああ、水が欲しいのか。


 いや、むしろ水を与えないまま枯れさせるのも手かも。さすがのモンスターでも水がなければ……


 ――ガリ……ガリ……。


 また見てみるとアルスが蛇口を噛み付いていた。

 捻ようとしているのかな。まぁ、口で開けられる訳ないけど。


「…………」


 ――ガリガリ……。


 でも音が気になる。少しだけなら別にいいかな。

 いや、もちろん気が変わった訳ではない。あくまでも音が気になっただけ。


 そう自分に言い聞かせつつアルスに水をやった。


 ――ブルブル……!


 じょうろからが流れ出る水にアルスが震えていた。まるで水を浴びた犬のようだ。

 ひとまず水やりは終わったので、私は自分の部屋へと戻ろうとした。ただそうしたら袖に感触が伝わってくる。


「ん? ひっ!?」


 アルスが私の袖を掴んできている!? 食べる気!? 私を食べる気なのか!?


「……キュウウウ……」


 と思ったけど全然違った。初めて鳴き声を出して頬ずりをしてきた。

 この子、植物なのに鳴き声出せるんだね。さっきといい本当に犬みたい。




 ……ちょっと可愛いかも……。




「……ハッ!? いやいやいや!」


 違う違う! あくまでアルスは未知のモンスター、こんな所でほだされちゃ駄目だ!


 いけないいけない。このままだったら変な植物が好きな変な人になってしまう。今の所は置いておくけど、明日になったらまた返品をしよう。

 

「グジュ……グジュ……」


 後どうでもいいけど、私の手をしゃぶるのはやめてください。

 凄いヌメヌメします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る