第23話 全くの真逆

 さらに次の日。


「ただいまぁ」


「お帰りなさい瑛莉。洗濯物と掃除済ませておきました」


「あっ、ありがとー」


 学校から帰ってきた所、ユウナさんが服を畳んでいる最中だった。

 昨日家事の仕方を教えたんだけど、上手く出来ているみたいだ。いやぁ本当にありがたい。


「ユウナさんがいてくれたおかげで家事が終わるし、学校行っている時にアルスの世話してくれるしで、本当色々と助かっているよ」


「いえ、私はそこまでの事を……」


「いやいや、そんなかしこまらなくても大丈夫だって。アルスもいい子にしててよかったよぉ」


 私はアルスの頭を優しく撫でた。

 ……と思ったら何も言ってこない。黙ったまま私を見ている。


「どうしたの? ユウナさん、何か病気とか?」


「いえ、特には……あれから風邪は治りましたが」


「そうなんだ。大丈夫アルス?」


「……うん……」


 一応返事はしてくれるようだ。

 何か引っかかるけど、病気じゃないなら大丈夫なのかな。


「ところでユウナさん、今から洋服買いに行く?」


「服、でしょうか?」


「うん、その服しかなさそうだから買った方がいいかなって。あっ、お金は私が払うから」


 さすがに魔導師っぽい服だけというのは不便だ。

 それにユウナさんの服を見て堪能したいという気持ちもあります、はい。


「でしたらお金はこちらで立て替えますので大丈夫ですよ。メロ様から給料として日本円をもらう予定ですので」


「へぇ、メロ君から」


 それは意外。でもメロ君が雇い主っぽいから当然と言えば当然か。

 ピンハネされてないか不安だけど。



 

 -------------



 

 今回、向かった先はデパートだ。


 行きつけのスーパーとは違って遠い距離にあった。かといってバスを使うのも金が掛かるので、徒歩で向かう事に。

 多少疲れるけど、ちょうどウォーキングしたいと思っていた所だ。……それにちょっと痩せなきゃいけないし。

 

 そうしてデパートに着いた後、まっすぐ服屋へと向かう。


 やっと見えてきた服屋を前に、ユウナさんが目を輝かした。


「こんなにも服が……まるで貴族のクローゼットみたいです!」


「あっ、うん……そうだね……」


 ユウナさん、周りの女性方々見てますよ。「あの人コスプレ?」「綺麗……」とか聞こえてるし。

 本人が気にしてなさそうだからそっとすべきだろうけど、逆にリュックのアルスを出しにくいのが痛い。


「さて、どうしようっかなぁ」


「色んな物があるのですね。目移りします」


「そうだね~、とりあえず着れそうな物をかたぱしからやってみようか。あっ、着替えは試着室でね」


 ブラウス、ワンピース、パーカー。とりあえず似合いそうなのを全部試着させる事にした。

 こういうのは試して合っているのかどうかを眺めるのに限る。


「ど、どうでしょうか?」

 

「おおおお……」


 ユウナさんが試着室に入ってからしばらく。やっとカーテンが開けられた。

 ファンタジーの魔導師らしい服装から一変。ブラウスとミニスカートを着た現代っ子が目の前に。 


「似合ってます似合ってます! 何かアイドルみたい!」


「そ、そうでしょうか? でも嬉しいです……」


 恥ずかしながらもニコっと笑顔。見るだけでもクラっとしそうだ……。


 あと、周りの女性方がキャーキャー言ってスマホ撮影しているけど、この際スルーだスルー。


「じゃあ次はこのワンピースで」


「これでしょうか? ちょっと恥ずかしいような……」


「大丈夫大丈夫。ユウナさんの可愛さなら全てが許されると思うよ」


 我ながら何言ってんだと思ってしまった。でもユウナさんは「じゃあ試しに……」と試着室の中に戻る。

 確かにワンピースは露出が多いけど、ユウナさん綺麗な肌しているからもっと堂々してもいいと思うんだ。


 ユウナさん、絶対に可愛いだろうなぁ……。


「瑛莉、頼みたい事があるのですがよろしいですか? 背中のリボンが結び辛くて……」


 何て思っていたら、カーテンからユウナさんの顔がひょっこり出てきた。

 困り顔もしてらっしゃる。


「ああ、バックリボンか。じゃあ中に入るね」


 あれは結ぶのが面倒くさいのでめちゃくちゃ分かる。

 私も試着室に入ってそのリボンを結んだ。きつくないかも確認。


「痛いとか大丈夫?」


「ええ、ちょうどいい感じですね。本当すいません」


「いえいえ。にしても背中綺麗なんだね、羨ましいなぁ」


「そうでしょうか――ひゃん!」


 リボンを結んだ時に思わず背中に触れてしまった!

 私は思わず手を離してしまう。


「ごめんなさい!! ちょっと冷たかった!?」


「い、いえ……ちょっとびっくりしただけで……。私、なんて変な声を……」


 いやいやユウナさん、変な声どころか艶やかな声をしていたよ? もちろんいい事だけど(いい事ってなんやねんと我ながら突っ込む)。

 それに鏡で見ちゃったんだけど、明らかに感じた顔してたなぁ。軽く背中に触れただけで感じるとは。


「本当にユウナさんって……」


「はい?」


「ああ、こっちの話。何でもない」


 本当にユウナさんっていい人だ、色んな意味で。なんて言おうとしたけどやめにした。

 代わりに何だがニヤニヤが止まらなくて……ああ今の私は幸せ者だ!


「随分楽しそうだね……」


 置いたリュックから、アルスが顔を出していた。

 そう見えるかな~?


「楽しいと言えば楽しいかなぁ。あっ、ユウナさん、肩のヒモ外れているよ」


「あら、いけない……ありがとう瑛莉」


「いえいえ~」


 そんなこんなで、時間を忘れて試着を楽しんでしまった。

 



 -------------




「はぁ……疲れたぁ……」


 ようやく我が家に帰った。


 持っていた数個の紙袋を置いたら、すっかり身体が軽くなった。これ全部が私達の服で、しかも一個だけでもそれなりに重い。よく持てたなと我ながら思ってしまう。


 ユウナさんも紙袋を置いてリラックスしていた。


「本当にありがとうございます。まだ来て間もない私にここまでして下さって」


「いいよいいよ、これくらいどうって事はないって。それよりも服選び楽しかった?」


「ええ。元の世界ではああいったのがなかったので、あそこまで楽しい物とは思ってもみなかったです。私、ここに来てよかったと思いますわ……」


 それはよかった。実を言うと私も同じ事を思っている。

 自分一人だけだど味気なかった服選び。それがユウナさん一人いるだけでワクワクというか、どの服着たらどんな気分だろうなぁと気持ちが湧いてきた。


 おかげでユウナさんだけじゃなく自分用の服を買ってしまった。今月は節約しないとキツい。


「ところでユウナさんってスッピンっぽいけど、化粧とかしてるの?」


「化粧はしませんね。そもそも私の世界では祭りの時以外やらない事が多いんです」


「へぇ、こっちでは誰でもするけどなぁ。せっかく服買ったんだから後で化粧も教えるよ。こう見えて一応得意なんだ」


 私は普段ナチュラルメイクにしている。ユウナさんは元々いいからそれが一番だ。

 いやぁ、これからするのが楽しみだ。

 

「さてと、そろそろ夕飯にするかな。アルス、あともう少し待っててね」


「…………」


「……アルス?」


 リュックから出てきたアルス。その子が何故か不満そうに黙っている。

 どうみても様子がおかしい。何かまるで、拗ねている子供のような姿……


 拗ねている……?




『今日はワタクシばっかり構っていますので、その事に不満を覚えているんでしょう。彼なりに沢口さんを慕っているんです』




「…………」


 その時、脳裏にメロ君の言葉がよぎる。

 ……そうだった。今日もユウナさんに構ってばかりで、アルスにあまり話しかけてなかった。あの時と全く同じだ。


 何で今頃気付くんだが……私って馬鹿だな。


「ごめんねアルス……今日はユウナさんと夢中になってて……後で一緒に遊ぼ、ね?」


「別にいいよ。僕よりもユウナが好きなんでしょう? ユウナだけ相手すればいいじゃん」


「……うっ」


 私が悪いんだから、言い返す事も出来ない。

 その間にもアルスが背を向ける。明らかに怒っているのが目に見えて分かる。


 でも何も言えない……一体どうすれば……。


「……アルス様、申し訳ございません。私がいなければこういう事には……」


「えっ? いや、これはユウナさんのせいじゃ……」


「しかしアルス様が言うのでしたら事実です。でもどうか、瑛莉ともう一回向き合って下されば……」


 特に非がある訳じゃない。なのにそう言ってアルスに近付くユウナさん。




 だけどその時、


「グウウウウウ!!!」


 ――パンッ!!


 大きな音が部屋中に響いた。

 

 それはアルスの手がユウナさんの肩に当たった音。

 ただ単に当たったとかじゃない。アルス自身がユウナさんをひっぱたいた音。


 一瞬何が起こったのか分からなかったけど、そう認識したのは二人の様子を見た直後だった。

 気が付くと私は、眉間にしわを寄せていた。


「ちょっと、アルス何するの!? さすがに今のやりすぎだよ!?」


「グウウウウウウ……!!」

 

「吠えてばかりじゃ分かんないよ!! 確かに今回は私のせいなんだけど、だからと言ってユウナさんに八つ当たりするのはよくないよ!!」


「え、瑛莉……私は大丈夫ですので、その……」


 ユウナさんの言葉があまり届かない。自分の事なのに、頭に血が上っているんだと何となく分かっていた。

 ここまでして怒るのかとも思ってきて……。


「アルス、ユウナさんに謝りなさい!」


「…………」


「そんな睨んでも駄目なのは駄目!! アルス謝って、ほらっ!!」


「…………」


 私が言っても、アルスは何も返せなかった。

 それどころか睨んでいた顔をそっぽ向かせる。それを見た途端、何かが切れるような感じが私の中でしてくる。




「……分かった。もうあなたなんか知らないからね」




 怒りのあまり口走ってしまう。

 

 その後、私とアルスが話す事はなかった。

 今までとは、全くの真逆の状態だった……。

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