第22話 お体に触りますよ……

「えっと、パジャマどう? キツいとか」


 風呂から出た後、ユウナさんにパジャマを着させた。

 ユウナさん自身持ってなかったので、私の奴で代用している。背が高いから見た目キツそうだ。


「いえ、何とか着れているので大丈夫ですよ。ありがとうございます」


「そう? ならいいけど……」


 小さいパジャマだから身体がくっきりしている。当然胸もだ。

 パジャマから覗く胸の谷間……すごく、大きいです。


「じゃ、じゃあそろそろ電気消すね……」


「はい、お休みなさい」


「お休み……」


 ユウナさんとアルスの返事を聞いてから消灯。

 ちなみに布団は私のだけしかない。ユウナさんを床に寝かせる訳にいかないし、かといって私が布団なしだと寒くて無理。


 つまり今、ユウナさんと添い寝しているという事なのだ。


 目と鼻の先に、ユウナさんの可愛らしい寝顔といい香りの吐息。これで心臓バクバクするなってのが無理だ。


「……アルス?」


「…………」


「……ユウナさん?」


「…………」


 どっちも完全に寝ている。皆、早いな。

 私は緊張して寝れるとか寝れないとかそういう問題じゃなかった。明日学校なんだけど、それもあまり考えていない。


 ……やっぱりユウナさんの胸、触ってみたい……。

 

 いや、一度断れたのは覚えているんだ。それでも「一回だけでもいいから」という考えから離れられない。

 でもいいのだろうか? 相手は寝ている無防備な人だよ? そんな事をして許されるはずが……


「……んん……」


 ユウナさんが身体を動かしてきた。深くなる胸の谷間。


 よし、しよう(暴走)。


 気が付くと、私の両手が胸に向かっていた。起きないようそっと触れて、感触を確かめる。


 ……やばい、すごい、やわらかい。


 なにこれ。こんな胸初めて触ったよ? 柔らかさもほどよく十分だし、それに気持ちいい。


「……ぁん……」


 頬を赤らめながら悶えるユウナさん。


 エロい(確信)。


 このまま素肌行くべきか? きっと私のなんか比べ物にならないくらいスベスベに違いない。

 いやいや、それ以上はさすがにいけないよね……でもこの欲求が全然収まらなくて爆発してしまって……ああ自分でも何言っているのか分かんなくて……!!


「…………」


「…………!!?」


 急に感じた視線の気配。

 振り向くと、アルスがじっと睨んでおられた。

 

「……み、見てた?」


「……変態……」


「…………」


 よく漫画とかで「女の子が男の子に『変態!』と叫ぶ」というシーンがある。

 まさかその逆で、しかもここまで冷たく言われるとは思ってもみなかった。




 -------------




 翌朝。

 ユウナさん達より早く起きた私は、二人分の目玉焼きとパン、レタスのサラダを用意した。その後にユウナさんが起きたので一緒に食べる事に。


「美味しい、ユウナさん?」


「ええ、私の世界でも似たような物があるのですが、これも中々」


 ユウナさんの口に合うかと心配だったけど、どうも考え過ぎだったみたい。昨日の事も覚えていないようなので、二つの意味で安心した。

 ちなみにアルスの方は、レタスの残りを美味しそうに食べている。


「私、ご飯を食べたら住む場所を探していこうと思っています」


「えっ、もう行くの?」


「はい、さすがに長居しては瑛莉に失礼と思いますので。見つかるといいですが」


 行ってしまうのか、ユウナさん。昨日泊まりながら探せとは言ったけど。

 でも、よくよく考えたらユウナさんは異世界人だ。例えばアパートに住む時に手続きがあるんだけど、それが上手く通るという保証はない。


 一応メロ君のビランテに泊まるとは言っていたけど、男の子と女の人が同じ屋根の下……。


 何と言うか、不安だ。色んな意味で。


「……ユウナさん、私と一緒に暮らさない?」


「えっ?」


 私が言った途端、ユウナさんが目を丸くした。


「別に失礼だなんて思っていないし、一人増えた方が賑やかになるなぁって。それにユウナさんがいれば、アルスの治療も早く出来ると思うよ」


「それはそうなんですが……でも……」


「別にお金取ろうとかじゃないから大丈夫だよ。その代わり家事の手伝いはさせるかな」


「うーん……」


 すいませんユウナさん、これは建前です。

 本音はというと、超美人なあなたにメロメロになってしまって、一緒に住めたらそれだけでも人生バラ色! 的に思っているからです。昨日の胸を思うだけでも顔がとろけてしまいまして。


 それにこんな美人さん、メロ君にはもったいない。


 小学生近いあの子がユウナさんと一緒……何て笑止ッ! 片腹痛いッ!!


「いいでしょ、アルス?」


「……さぁ……」


「さぁって……まあいいや。それよりもどう、ユウナさん?」


「……瑛莉がそこまでおっしゃるのなら。あの、これからもよろしくお願いします」


 やった! ユウナさんが私の家に住んでくれる!!


 ありがとうユウナさん! 本当にあなたは最高です!!


「……あっ、もう時間。じゃあこれから学校に行ってきます。もしお昼になったら、そこに置いたご飯をチンして食べてくれれば」


「えっ、住むのか聞く前に用意したのですか? あとチンというのは?」


 あっ、そうか。異世界に電子レンジはないんだった。すぐに教えないと。

 それとユウナさんの質問なんですが、お察し下さい。




 -------------




 それからいつも通り授業を受けて、放課後になった。

 私は気持ちを弾ませたままカバンに教科書を突っ込む。多分今年に入って初めて楽しそうな顔をしているかもしれない。……今年は言い過ぎか。


「沢口さん、何か良い事でもあった?」


 やっぱり聞いてきたようだ。

 相手は誠君。私から見て右斜め上の席に座っている。


「うん。昨日綺麗な人が来てさ、これから帰るのワクワクしているんだ」


「へぇ、そうなんだ。一体誰だろう?」


 誠君にはアルスの事教えているから、ユウナさんも大丈夫だろう。いずれは紹介はしたい。

 森さんは……まぁ、適当に何か言って信じ込ませるしかない。


「森君ってさぁ、最近沢口さんとよく喋るねぇ」


「本当本当。もしかして仲良いの?」


 そこに仲良しな二人組の女子が現れてきた。

 やっぱりそうなるよね……どうやって説明するか。


「いや、仲良いというかアパートが一緒で……別にそんなんじゃないよ」


「とか言っているけど、本当は沢口さん、森君の事が好きとかだったり?」


「あるいは逆とか!」


 女の子達がグイグイ近づいてくる。

 そんな急に迫られても……!


「ええ……あのそんな……」


「特にそういった関係じゃないよ。どちらかというと、沢口さんが持ってる植物が好きかなぁ」


「えっ? 何で植物?」


「あっ、今の何でもない! 聞かなかった事にして!」


 誠君、こういった会話に植物出されたらドン引きしますよ。

 お二人さん、微妙な表情しているし。


「と、とりあえず私急ぐから。それじゃあ」


 強引に話を切り出してから教室を出た。

 多分こんな感じだから友達作れないんだろうなぁ。恋愛の話題とかも全く付いて行けないし。


 それはさておき、そのまま真っすぐアパートに帰宅。中に入った所、ユウナさんがアルスの頬を触れていた。


「ただいまぁ。ユウナさん、何をしているの?」


「お帰りなさい。今はアルス様の容態を確認しています。まだ病み上がりという事もありますので」


「そうなんだ。ところで昼のご飯食べれた?」


「はい、ちゃんと……デンシレンジでしたっけ? それを動かす事が出来ましたわ」


「嘘だよ。全然使い方分からないから、冷たいまま食べてた……」


「ア、アルス様! それはご内密にと!」


 そうだったんだ……次はメモとか用意しないとなぁ。

 にしても、私にはともかくアルスにも敬語使っているのが気になる。特に深い意味はないと思うけど。

 

「ところで私が学校に行っている間暇だった? 何も用意できなくて……」


「いえ、お構いなく。この小説を持っていたので暇潰しは出来ました」


「へぇ、ちょっと見せて。……何かの文字がびっしりで分かんない……」


 その小説のページを覗いてはみたけど、何か未知の文字がずらりと並んでいる。

 はい、全く読めません、はい。


「私達の世界の文字ですからね。ちなみに日本語を勉強したので、こちらの文字もある程度は読めます」


「そうなんだ。あっ、だったら私の小説読んでみる? ライトノベルっていう物なんだけど、ほらこんな感じの」


「ん……なるほど、これは面白そうですわ」


 私の小説を見て関心そうにしてくる。こういうのを共有出来るのは本当嬉しい。

 それで私が「このページのシーンが好きなんだよねぇ」と言いつつ、ユウナさんのそばに立った。するとこの人から髪のいい香りがしてくる。


 ふんわりで優しい。嗅いでいるだけでムズムズしちゃう……。


「なるほどですね、これは最後まで……ってどうしました瑛莉?」


「いや、髪がいい香りするなぁって……ああこっちの話です! というか勝手に嗅いですいません!!」


「……フフ、大丈夫ですよ。何だが瑛莉って面白い方なんですね」


「……ハハハ、どうも……」


 クスり笑いも可愛い。いやマジでユウナさんは凄くいい。

 昨日、人生バラ色だなんて冗談気味に言ってたけど、それが現実になるとは思いもしなかった。ユウナさんを紹介したメロ君にはお礼を言わなきゃ。


 


 だけどこの時、私は夢中になり過ぎていた。後になってそう感じてくる。

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