成長記録 四日目
第14話 同じ屋根の下……(ゴクリ
それは六月が始まった頃の話だ。
「……んんん……」
朝になった頃、私は目を覚ました。
背を伸ばすとパキパキと折れたような音がしてくる。家事のし過ぎで色々とこったみたいなので、あまり無理はしないようにしたい。
ともあれアルスが来てから一ヶ月。起きた後、いつも通りその子に挨拶する。
「ふわぁ……おはようアルs――」
「エリ……おはよう……」
「…………………んんん?」
アルスに振り向いた途端、何か言われたような……?
よく見ると、葉っぱの形が指のようになっている。顔つきもちょっと変わってて、それで言葉を話してて………言葉を!?
「ええええええええええええ!? アルスが喋ったぁああああ!!?」
――ゴン!!
「ひっ……すいませんすいません……!」
大声出しちゃったから隣の人に壁ドンされてしまった。反省……。
にしてもまだ夢を見ているのか? いや、前にそれっぽい言葉が話していたのは覚えているけど、あれは単なる気のせいだって片付けたし。
「ほ、本当に喋れるの……?」
「うん……僕、言葉が喋れるみたい……」
本当だ……少したどたどしいけど、ちゃんとハッキリ言っている。
というかアルスって……男だったんだ(多分だけど)。
「へぇすごい! 何も教えてないのにそこまで話せるんだね!」
「うん……エリの言葉聞いて覚えた……」
「すごいすごい! アルス偉いよ!」
まだ驚いているけど、それでも喋ってくれたのは嬉しい!
私はアルスを持ち上げてくるくる回っていた。我ながらテンション上がり過ぎと思うくらいだ。
「ああ目が……にしても、やっぱり喋れたのは異世界のモンスターだからかな?」
「まぁ、そういう事になりますね」
突如として窓から聞こえてくる声。
見てみると、誰かがベランダをよじ登って部屋に入ろうとしている!?
「オワアアアアアアアアア!!?」
「お、落ち着いて下さい! ワタクシです! メロです!」
「いや分かるけど! 分かるけどその登場の仕方おかしい!!」
――ゴン!!
またもや壁ドン。私はしきりに「すいませんすいません……」と頭を下げるしかなかった。次からは気を付けないと……。
なおメロ君の方はベランダをよじ登った後、靴を脱いで部屋に入ってきている。普通玄関からでしょうが!
「な、何でそっちから入ろうとしたの……!?」
「ああ、鍵が掛かっていたのでこっちから侵入する事にしました。昔から高い所登るのが好きでして」
不法侵入。まごう事なき不法侵入。
私だから大丈夫だけど、他の方にやったら捕縛逮捕間違いなしだよ。
「……ん? どうして私の家がここだって? 確か教えた事なかったような……」
「感知魔法ですよ。アルスからある程度の気配が感じられまして、それで場所を特定したという訳です。ワタクシの世界にとってはポピュラーなものでして」
「へぇ、そうなんだ。ところで何しにここに?」
「もちろんアルスの様子を見る為ですよ。この時期くらいから言葉を話せるだろうと思いましたが、どうやらジャストタイミングのようで」
やっぱりメロ君はこの事を知っていたのか。
事前に言ってもよかったのに……と思ったけど、この子の事だからあえて黙っていたんだろう。
「アルス、言葉話せてよかったです。今の気分はどうですか?」
「……メロ、嫌い。すぐに消えろ……」
「ハハハ、最近の子供は正直で偉いですなぁ」
アルスに話しかけるとにべもなく返される。メロ君、思いっきり敵意向けられたんですがそれは。
でもそんな事を気にしていないのか、彼が私の方に紙袋を渡してきた。
「手ブラはあれなのでお土産を持ってまいりました。喜んでくださったら幸いですが」
「えっ、お土産? うわぁありがとう」
お土産ってなんだろう。もしかして異世界の物か何か?
中には大きめの箱が入っているみたいだ。出してみると、その表面にでかでかと『
……おみ……やげ?
「あ、うん……どうも……後で食べるよ……」
「美味しいのでぜひ。それでお土産を送ってなんなんですが、これからアルスの記録を残したいと思いまして。もし差し支えなければ一泊してもよろしいでしょうか?」
「……えっ!? ここに泊まるの!?」
「ビランテを経営している身として、どうしても植物の様子を観察したいのです。迷惑は掛けませんので、その辺をどうか」
「……うーん……」
急に泊まらせてほしいと言われてもな……。というか誰かを泊まらせるなんて一度もやった事がない。
でもよくよく考えれば、メロ君はあくまで小学生くらいの子供。別に変な事にはならないかもしれない。
それに前に朝食を頂いたお礼だってしていないんだから、ここで追い返すのも失礼だ。
「……狭いけどもしよかったら」
「ありがとうございます。では私は観察記録書いてますので、どうかお気遣いなく」
「あっ、うん……」
そんなこんなで、メロ君の一泊が始まった。
私が朝食を作っている間、彼がアルスを見ながらバインダーの紙にメモしている。その姿はまさに熱心な職員。
私が朝食いるかと言っても「もう食べましたので大丈夫です」と、アルスから目を離さないまま答えた。
「ふむ、体表の鮮度、葉っぱの形状……今のアルスの状態は良好ですね。素晴らしい」
「随分と熱心だね」
「それはもちろん。ワタクシの目的は販売もそうですが、『自分の世界の植物がこちらにおいてどのように育つのか』というのを詳しく調べる事にあります。沢口さんとアルスは、言わばワタクシの研究サンプルなんですよ」
「研究サンプルって……まぁどうも」
言い方はアレだけど、この子なりに頑張っているからぐうの音も出ない。
「それにアルスによってリラックスしたり癒されたりと、あなたにとってプラスの効果があるはずです。まさウィンウィンウィンな関係にあると言っても過言じゃないでしょう」
「Win-Winね。それじゃあ機械の動作音になっちゃうから」
前から思ってたけど、この子は日本語に慣れてない外国人みたいだ。
そんなメロ君が「ふぅ、ちょっと休憩」と仕事を一旦中断。アルスをいじろうとするけど、「触るなボケ」とアルスから警戒心マックスされている。
「メロ君、もし暇ならゲームやらない?」
「ほう、ゲーム。ワタクシの世界にはなかったので、ぜひともやりたいとは思ったのですが」
「じゃあ決まり……」
「エリ……僕もやる……」
そこにアルスも言ってきた。
今まで私がゲームやっても反応しなかったけど、気が変わったのだろうか。
「うん、分かった。じゃあ三人でやれるゲームは……これでいいかな」
棚から取り出したのは、某大手会社の大乱闘ゲーム。私というかお兄ちゃんが買った物なんだけど、もう飽きたからと私にくれたのだ。
二人とも操作は知らないので軽く指導。それから試しに私抜きで対戦させてもらう事にした。
「アルス大丈夫? 押しにくいとか……」
「……大丈夫」
一応、両手の葉っぱに指(に相当する物)があるので、操作は出来ていなくもない。もちろん人間と勝手が違うから心配だけど。
そう考えている内に二人の対戦が始まった。
二人ともぎこちないながらも相手を倒そうと頑張った。それでその結果……。
「フフフ……ハハハハハッ!!」
メロ君が勝った。というより圧勝。
あと笑い方が果てしなく悪役感がある。
「見ましたか沢口さん! 見事にアルスのキャラを――アウチッ!!?」
「!?」
アルスがメロ君をビンタした!?
そういえば私もやられた事があったけど、何で急に!?
「何してるのアルス!?」
「……負けて悔しい……」
「いや、気持ちは分かるよ!? 分かるけど、だからと言ってリアルファイトするのはよくないよ!?」
「ハハハハ、心配ないですよ沢口さん。これくらいは平気ですって」
メロ君、心配ないとか言っているけど口から血が垂れてますよ?
それで怒らないってどこまで聖人君主なんだ……。
「さてもう一戦やりましょう。もしかしたらアルスが勝つかもしれませんしね」
「……今度は負けない……」
何か不安だけど、なんやかんやと第二試合が始まった。
お互い別のキャラ、別のステージで対戦したものの、アルスが中々勝てない。それでまたもやメロ君の勝利になってしまう。
――パァアン!!
「アベシッ!!」
「アルス、さすがにもう駄目! メロ君の顔が酷い事になっちゃう!!」
「い、いえ……本当に大丈夫ですので……」
とは言うけど、メロ君の顔が腫れてますがな。
仏の顔も三度という言葉もあるし、このままではリアルファイトに発展しかねない。
「つ、次は私とやろうか……。メロ君、コントローラー貸して」
「あっはい、どうぞ」
「……エリが相手……でも勝つ」
私はお兄ちゃんほど上手くはないけど、下手というほどでもない。
ここは全力を出した振りをして、わざと負ける事にしよう。
「……あっ、やばい……おっと……うわあ負けちゃったぁ(棒)」
あえてキャラの動きを鈍らせて、アルス側の攻撃を当てらせる。
これで私の負け。それでアルス初の勝利となった。
「……エリ……手加減した?」
「……え゛っ?」
しまったバレた……? やり方があまりにも見え見えだったのかもしれない。
思わず私はビンタされないよう顔をのけぞってしまう……けど、
「……次、手加減なしで……」
「えっ? あっ……うん……」
やけに素直だった。
そんなアルスに、私は思わず返事をしてしまう。
「……あの、ワタクシなんで叩かれたのでしょう……?」
メロ君と同じ事を思いながら。
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