成長記録 三日目

第11話 アルスと一緒に自然公園

「うーん…………うん?」


 ある日の事だった。


 私が朝食を食べている間、ふとアルスの姿を見た。そのアルスなんだけど、何と言うか若干色が濃くなったような気がする。

 一回り大きく見えて、頭の模様も細かくなっている……もしかして成長しているのだろうか。


「アルス、何か具合が悪いとかある?」


「ギュウ?」


 一応聞いてみるけど、アルスは「別に何も?」的に首を傾げる。

 というか声も低くなっているから、やっぱそういう事なのかな。逆に言うとこれからも大きくなるという事に。


 この子が成長したらどんな風になるんだろう。


「……まぁ大丈夫か」


 色々と考えても仕方がない。こういうのはメロ君に相談すれば何とかなる。

 それよりも今日は学校休みで、天気は晴れ日和。外に行きたい気分だ。


「アルス、ちょっと離れた所に自然公園あるから行ってみる? 木がいっぱいでいい所なんだけど」


「ギュルルル!! ギュウ!!」


 少し姿が変わっても子供なんだなぁ。

 公園と聞くなり嬉しそうにしている。


「じゃあちょっと待ってて。リュック用意するから」


 そのままだとアルスが他の人にバレてしまう。以前のようにリュックの中に隠れていれば、安全に持ち運びが出来るはず。

 リュックは以前の物と同じだけど、よく見ると所々ボロボロ。これって古物だからなぁ……。


「アルス、こんなんだけど大丈夫? ……いや駄目だよね」


 こんなボロボロなのには入りたがらないよね……。

 なんて思っていたらアルスが自ら入っていった。入った後も「ギュウ!」と嬉しそうに言ってくれて。


「そこ気に入ったのかな……何だがごめんね」


 私はアルスの頭を撫でた。今度は新しいリュック買っておかないと。

 準備が出来たので自然公園へと出発する事。ドアを開けると……誰もいない。この隙に階段を降りてアパートから脱出。


 後はこのまま公園に向かうだけだ。アルスも大人しくして……


 ――モゴモゴ……。


「えっ? 今なんか動いた……?」


 いや動いてしまった!?

 そんで通りかかった男の人に見られてしまった!


「いやあの……ペットが入っているんです! 特に深い意味はありません!」


「お、おう……何か緑色のが見えているけど……」


「うえ!?」


 リュックの中から触手が見えている……!?

 これはもう言い逃れは出来ない。男の人に愛想笑いをしながらその場から離れ、なるべく人の少ない所で止まった。


「アルス、触手出しちゃ駄目! あなたの事がバレちゃう!」


「ギュウ?」


「しょ・く・しゅ! この緑色の! なるべく出さないようにして!」


「ギュウウ」


 アルスが触手をしまってくれた。何とか言う事は聞いてくれたみたい。

 ふぅ、この子と散歩ってのはちょっと神経を使うなぁ。ともかく公園には向かわないと。


 向かう途中、アルスは触手を出さないで大人しくしてくれていた。外を見る時もバレないよう、そっとファスナーから覗かせている。


 なんとか安心したつかの間、目の前に広い自然公園が見えてきた。

 目的地の宮野みやの自然公園だ。


「グウウ」


「凄いでしょう? ここならいっぱい遊べるよ」

 

 まず入り口からして、森かと言いたくなるくらいに木がいっぱい生えていた。

 中に入ると見渡す限りの芝生に遊具。さらに噴水と休憩所、喫茶店があったりと色々と充実している。


 アルスと遊びながらゆったりするにはもってこいの場所だ。


「さてと、どこにしようかなぁ」


 公園なのでもちろん人はいる。なので人目に付かない場所を探したい。

 芝生はお子さんやその親御さんがいるので駄目。喫茶店や休憩所は論外。ならば森の中がいいかもしれない。


 早速入ってみれば、木陰が心地よい涼しさになっている。


 人もいなそうだから、アルスを出しても心配なさそうだ。


「アルス、ここでなら大丈夫だよ」


 リュックから出すと、アルスが物珍しそうに周りを見渡す。

 それからある木を見つけた途端、そこに腰かけてくつろぎ始める。川の時もそうだけど、この子は遊び回るよりゆっくり休みたいタイプなんだな。


「ギュウルルルウ、ギュウル」


「えっ、来てって? すいません勘弁して下さい、どうしても木には近づけれなくて……」


 木を見ている分には何の問題はない。ただ木に腰かけるという事自体が駄目なのだ。

 何故なら小学生の頃、木の近くにいたら毛虫がよじ登っていたから。


 もうそれを思い出すだけでも駄目……! 以来、木から五メートル以内は絶対近付かないと心の中で誓ったのだ。


「ギュウ……」


 しょんぼりするアルス。本当にすいません、こんな主人で……。

 ……ん、アルスの元に虫が近付いている。追っ払いたい所だけど、木のフィールド制限に一向に近付けられない。


 ――ブーンン……。


 しばらくアルスの周りを飛んでいた後、その頭に止まった。さらに蚊のように体表を吸っている。

 アルスが特に反応してないので別に痛くはないんだろう。無理に追っ払う必要はない……


 ――ビキッ! ビキキキッ!!


 ……と思っていた私が馬鹿だった。あれ、既視感デジャブが……。

 ともかく虫が妙な音を立てて大きくなっている!


 最終的にはさっきまでのおよそ三倍、しかも形状も禍禍しくなっている。一体何でそうなったし!?


「ギチギチ……」


 虫が奇妙な音を立てている。


 もしかしてアルスが異世界の植物だから、その体液か何かを吸って変異したとか?

 その変異した虫がアルスを見下ろしたと思えば、鋭い口で頭に噛み付く。


「ギャアアアアアス!!」


 悲鳴を上げるアルス。その子は触手を使って虫を叩き潰そうとする。

 しかし虫は回避し、お尻から針が射出。アルスの葉っぱに突き刺さるけど、すぐに振り払って棘を抜く。


 まるでファンタジーに出てくる虫型モンスターと植物型モンスターの戦い……!


「ガルルルルル!!」


 アルスが両手でかき分けながら突進。またもや避ける虫。

 しかも虫が私の元に寄ってきて……えっ!? こっちに来るの!?


「うわわわ!!? ちょっと!!?」


 こんな大きい虫無理だから!?

 私が逃げようとしたんだけど、足がこんがらがって腰を付いてしまう。虫が鋭い牙を立てながらこっちに迫ってくる。


 ちょっと、これは本当にまずい!!


「ウオオオオオオオンンン!!」

 

 その時、アルスは触手を伸ばして虫を捕らえた。

 逃げようとするそいつを思い切りぶん投げ、木に叩き付ける。虫は直視難いほどに無残な残骸になってしまった。


「……ギュウ」


「……あ、ありがとう……」


 助けてくれたんだこの子……ハハ、何だかかっこいいな。


 でも何で、公園での遊びが激しいバトルになったのやら。


 そもそもアルスの体液を吸ったらあんな風になるなんて聞いた事がない。これって夏に蚊に刺されたら同じ事が起こるんじゃ……。


「ギュウウウ。ギュウギュウ!」


「……えっ? ああうん……」


 すいませんアルス……「ほら見て! 虫を倒したよ!」的に言われても直視出来ない……。

 あとなんか、私いつも突っ込んでいるような気がする。

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