第9話 メロ君と朝食作り
私とメロ君はそのままビランテに戻る事になった。やっぱりここがメロ君の家でもあるらしい。
「あっ、あれ……」
店の前に着くと男性の人が立っているのが分かった。
今は私服だけど、何となく子持ちとかサラリーマンとかそんな印象がある人だ。
「おっ、もしかしてこの店の人? 実は花を買いたいんだけど」
「ああ、なるほどですね。沢口さん、ちょっと待ってて下さい」
やっぱりあの人、花目当てらしい。
それでメロ君が店の中に入って接客する事になった。私とアルスは隅っこで様子見する。
「それでお客さん、どのようなのをお買い求めで?」
「おっ、坊主。接客がいいねぇ。いや、最近人生に疲れてさ……それで花を見ると癒されるって聞いたから買おうかなって」
「なるほどなるほど、ではこちらなんかどうでしょう? お客さんにはとっておきの品かと」
メロ君が差し出したのは赤色の綺麗な花。
チューリップに似ていなくもないけど多分別物だと思う。あれも異世界の花なんだろうか。
「まず甘い香りがしましてリラックス効果がございます」
「ほぉ、確かにいい香りするなぁ」
「さらに悪い空気も吸ってくれるので、部屋中を綺麗に洗浄出来ます」
「ほぉほぉ」
「さらにさらに、一週間に一回ですが花びらに水が溜まりまして、それを飲むと美容効果や胃腸改善に役立ちます。ただしその水は水やりにやった物なので、それを怠ると貯まらないのでご注意を」
「へぇ、初めて聞いたけどそれ美味しそうだな」
「という訳で、お値段は15万3000円でございます」
「おお、お買い得……じゃない、高い!? 俺の月収半分が消える位に高過ぎる!?」
何かコントっぽかったな。
男の人、凄いノリがよさそう。
「ハハハハ、冗談ですよ冗談。本当は5000円でございます」
「それでも高いなぁ。もうちっとまけてくれないの?」
「そりゃあ無理っすね。何せお客さんのリクエストにお答えするとこのようになりまして。それにこれは当店オリジナル……つまりは他のお店にないって事なのです」
「だから何だよ?」
男の人が聞くと、メロ君が耳打ちするように囁く。
「いやですねお客さん、これは非常に人気のある品でして、たった今二本しかございませんですよ。いつ売れ切れるか分からないですし、高価なので出回るのも遅いんです。なので今のうち買っておいた方がオススメかと」
「そ、そうなのか? じゃあ買っておこうかな……」
「はい、毎度!」
こうして男の人が異世界の花を購入した。
それで「あんがとさ~ん」と言って外に出ると、何故かメロ君が笑いこらえている。
「ククク……」
「どうしたのメロ君?」
「いやぁ実はあの花、奥にいっぱいあるんですよ。前に不動産屋というのがこういうやり方をするってのを聞いた事があったのですが、まさか上手く行くとは思いもよらなかったですねぇ」
汚い……!! 超絶に汚い……!!
それに年下なのに、この子凄く
「そ、それは今後やめた方がいいんじゃないかな……?」
「まぁ、やりすぎは反感を買いますので今日限りにしますよ。それよりもどうぞ奥に」
何かこの子の行く末が心配になってきた……。
とか思いつつも、メロ君と一緒に二階を上がる。木造だからか段を踏むごとに、ギシギシと音がする。
そういえば何でこの家が路地裏に建ててあるんだろう。メロ君がやったとは思えないし。
「この家、よくここに建てれたね」
「建てたんじゃないんですよ。ワタクシの世界にあったこの建物を次元魔法で移動させたんです」
「次元魔法?」
「対象を空間ごと移動させて、別の場所に置く事です。この家は元々は空き家だったので、これ幸いと次元魔法の使い手に依頼させてここに着いたという訳です。
まぁ移動場所はランダムなので、下手すれば川のど真ん中だったかもですねぇ」
「へ、へぇ……」
川のど真ん中は嫌だねそりゃ。
ともかくこの家も異世界の物という事になるのか。何かワクワクするかも。
「ささっ、ここがワタクシのマイルームです」
「……わぁ」
二階に着いた私は思わず立ち止まってしまう。
そこには色んな種類の花が栽培されていた。水のケースに浸した花、花壇、植木鉢に差し込んだ観葉植物。何と言うか植物研究所って感じだ。
「一階とは違う感じだね……」
「ここでワタクシが持ってきた種を丹念に育てた後、下で売ったりしているんですよ。まぁ、これからご飯作るのでテーブルでお待ち下さいな」
「あっ、それだったら私も手伝うよ。それでどんなのを……」
アルスをテーブルに置いてキッチンに向かった。
するとメロ君が黄色い花を植木鉢から抜いている。
「何しているの?」
「これからこの花を調理するんです。『フイエス』と言いまして、これを料理に入れたりすると美味しいんですよ」
「えっ、花を? 嘘ぉ」
「嘘じゃないですよ。試しに一つどうぞ」
まずメロ君が花びらを食べた後、私にも差し出してくる。
うーん、メロ君が食べているなら大丈夫かな。どんな味なんだろう。
「じゃあちょっとだけ…………えっ、甘い!」
「そうなんですよ。この花びらに蜜が貯め込んであるので、菓子とか調味料とかに重宝されています。ワタクシの世界では砂糖代わりになっているんですよ」
「メロ君の世界には砂糖がないんだね」
「ええ、こっちの世界ではサトウキビというのがあるらしいんですけど、ワタクシの世界にはそういうのがないのです。ちなみに甘さに釣られて外敵が寄ってくる場合がありますが、その時には茎から腐食液を出して撃退しますね」
「えっ、何それ怖い……」
「なので摘み取る場合は、遠くから長い物を使って切り取ったりします。まぁ、ワタクシの場合は店から買い取った物を使用していますが」
メロ君が花びらと茎を包丁で切り分けた後、花びらの方をフライパンに入れる。
ちなみに、その花びらをアルスにあげると喜んで食べてくれた。
「あっ、そこに鶏肉あるんで一口サイズに切ってもらえませんか?」
「うん、分かった」
一体何作るんだろう。やっぱ異世界の料理かなぁ。
ワクワクしながら鶏肉を切っている間、メロ君が花びらをフライパンで炒めている。そこにみりん、酒、醤油をいれて煮詰めた後、私が切った鶏肉を投入。
そこから程よく絡ませて照りが出たら、切った野菜と一緒に皿に盛り付け。
「はい、鳥の照り焼き完成ー」
「――日本食!!」
異世界の料理じゃなかった、まごう事なき日本の料理!
いや、メロ君は一言も異世界の料理とか言ってなかったし、私の勝手な想像だけど……。
「もしかして異世界の料理とか期待してました? それは次回にして下さいな」
炊いた白飯を茶碗に寄せている。徹底的に日本食なんだな……。
「まぁ、楽しみしてなかったと言うと嘘になるけど……いただきます」
ともかくメロ君が作ってくれた料理はちゃんと食べないと。早速一口……おお、これは美味い。
砂糖の代わりに花びらを使っているから、そんなにしつこくない。それが淡白な鳥によく合っている。
前に私も照り焼き作ってたけど、こんな味は初めてだ。
「美味しい……」
「ありがとうございます。正直日本人の方に異世界の花が合うのかと心配していたんですが……」
「いや、本当に合うと思うよ? 後、フイエスって下で売ってたりするかな?」
「ええ一応。もしかしてお買い求めで?」
「うん、私も料理に使ってみようかって」
この花なら色んな料理に使えると思う。
ケーキ、肉じゃが、その他もろもろ……それで今日みたいにメロ君に食べさせたいな。
「今、これを使った料理をワタクシに食べさせたいと思ったんじゃないですか?」
「えっ!? いや、そんな事は……」
まさか見据かれるなんて。本当に目敏いというか何というか。
というかこっちをじっと見てくるんですけど……。
「フフッ、狼狽えていますねぇ。本当に分かりやすいですな、あなたって」
「や、やだ……そんな……」
そんなに見られてたら顔が赤くなってしまう。
思えばメロ君って顔が中性的で可愛いらしいというか……いやいや相手は私よりも年下なんだよ? まるで私がショタみたいな感じになっちゃうじゃん。
でもこれって……これってもしかして……。
「沢口さん」
「……な、何?」
「ワタクシ、巨乳で包容力のある美人が好みなのでご心配は無用ですよ」
「………………………」
ああ、今分かった。多分一生メロ君の事好きにならないと思う。
友達としては好きなんだけど、恋愛としての好きは来ないはず。
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