第7話 お風呂と一緒
「……沢口ちゃん、これ」
「はい……」
ピクンと動いたアルスを見て、森さんがそう言ってきた。
対して私の心臓がドクドク跳ねている。汗がびっしょりになりながらも、どう言ってくるのかと心配になってきた。
「あの……これは……」
「きっとアレよ。これはアマゾンから送られてきた未知の食虫植物よ」
「はぁ……はっ?」
何言ってんのこの人?
「アマゾンにはまだ未知の動植物が潜んでいる。そう前にテレビで聞いた事があるわ。もしかしたら沢口ちゃんの親戚は何らかの方法でアマゾンからこれを入手。そして沢口ちゃんに贈った……こんな所じゃないかな?」
何か語り始めてますよこの人?
ああ、でもそういった事にしておいた方がよさそうだ。アマゾンなんたらとかはチンプンカンプンだけど。
「な、何か親戚がそれっぽい事を言っていたの覚えてます……。あんまり出所は聞くなとか」
「……あっ、もしかしてそういう系? うわやばいな……今から聞かなかった事にしてもいい?」
「…………」
私はこのアパートに引っ越してから二ヶ月は経っている。大家の森さんもまだ知り合ってばかりだ。
この人、絶対人の言う事を信用するタイプだ。
「ええ、ちょっと裏のあるやばい奴だとか聞きましたね。何かヤ〇ザが絡んでいるとか。まぁ、私はただもらっただけなので関係はないのですが」
「マジでやばい案件だった! でも沢口ちゃんが関係なくてよかった……ちょっとビビっちゃったよ」
チョ、チョロい……チョロすぎる! そんなんじゃ本当に悪い人に騙されますよ!?
ちょっとからかおうとか思ったけど、逆に心配だよ!
「あの、ところで動物の件は……」
「えっ? ああ、別にどこもいないっぽいからやめにするわ。ごねんね、急に上がり込んじゃって」
「いえ、大丈夫ですよ」
私がそう言うと、「じゃあまた明日ぁ」と言って外に出ていった。
ふぅ、何とか
「もう動いて大丈夫だよ、アルス」
「キュウウ……」
「ごめんね、こんな事をさせちゃって。何かお礼をしないと」
動かないよう頑張ってくれたし、そうしてしまったお詫びをしないと私自身が許さない。
と思っていたらアルスが両手を使って移動。一体どこに行くんだろうと後を追ってみると、その子が冷蔵庫の野菜室を開けていた。
「ミネラルウォーターならさっき飲んだばかりでしょう?」
「キュウ? キュウ……」
やはり飲むつもりだったのか。飲み過ぎイケナイ。
ただ落ち込んでいたアルスが何かに興味を示していたようだ。どれどれ……ああ、キャベツか。
「これが欲しいの?」
「キュウウ!」
うーん、猫や犬に与えちゃ駄目とは言うけど、植物(?)なら大丈夫……かな。私はキャベツの葉をちぎってアルスに与えてみた。
アルスは大きな口でくわえて美味そうに食べている。もう一回キャベツをあげてみると、またぱくりと飲み込む。
「美味しい?」
「モグモグ……モグモグ……」
食べるのに夢中だからか、返事はしなかった。
メロ君が与えるのは水だけでいいとは言ったけど、食べ物も食べるみたいだ。
まだまだアルスの事は知らないんだから、近い日にも店に行って聞いてみるとしよう。
「モグモグ……キュウウ!」
あとどうでもいいけど、これって要は共食いって事だよね。
見ようによっては残酷だ。
-------------
あれから時間が経ち、夜の7時になった。
夕ご飯を食べた後、すぐに風呂に入る事にした。今日はランニングに加えて色々な事があったから、汗がびっしょりだ。すぐにでも洗い流したい。
「……そうだ。アルス、一緒にお風呂入る?」
「キュウ?」
「お風呂。たまにはこういうのもいいかなって」
今までは部屋に待たせていたんだから、今日くらいは一緒に入ろうとは思った。
ただいつもは元気な声を上げるアルスが、明らかに口をへの字にして不満げにする。
いつもとは違う場所に連れていかれそうで警戒しているのかな。
「大丈夫だって、別に変な所じゃないんだから。それに直接入る訳じゃないんだし」
いくら何でも浴槽に入れるのはまずいし、お風呂の中というのを堪能してもらえば十分だ。
まだムッとしているアルスを持ってお風呂に入る。温まったお湯から湯気が立っていてちょうどいい感じ。
とりあえずアルスは浴槽近くに置いて、ゆっくりとお湯に身体を沈ませた。
――ザアアアア……。
「ハァ……」
私が入るとお湯が流される。
そんでもって気持ちいい……やっぱりお風呂はいいよね。お風呂がない人生なんて考えられない。
ちなみにアルスの方は物珍しく周りを見渡している。初めて入ったんだから仕方ないよね。
「お風呂っていい所だよ。気持ちいいしゆったり出来るしで……そういえばメロ君の異世界にもお風呂あるのかな?」
アルスが異世界出身だからか、そんな事を考えてみた。まぁ、それはアルスじゃなくてメロ君に聞けばいい事だけど。
そんなお風呂に興味を持ったのか、アルスが水面に手を入れたりしている。温度でビクったりと何だが微笑ましい。
「……ゴク、ゴクゴクゴク……」
「飲むなあああああああああ!!」
まさかお湯を飲むなんて思わなかったよ!?
いや飲み物じゃないって教えなかった私が悪いけど!
「駄目だよアルス! ちゃんとした水があるんだから!」
「キュウ……」
そんな「これ美味しいんだけどなぁ……」って目で見られても……目はないけど。
飲むのやめたようなので、ひとまず身体を洗おうと浴槽から出た。自分の身体が鏡に映る訳だが、うん、いつ見ても貧相だ。
同じ歳の女の子がスタイルよくなっているのに、全然成長の兆しがない。毎日牛乳飲んでいるのに何でなんだし。
……いかんいかん、またアルスに心配を掛けてしまう。さっさと忘れて洗わないと。
「……あっ」
タオルで身体を拭いていた途端、アルスに取られる。
どうもアルスが洗ってくれるみたいだ。初めてなのでぎこちない……でも健気だな。
「フフッ、じゃあ背中お願い出来るかな?」
今まで背中がやりづらかったので任せようかなと。それでその子が一生懸命洗ってくれる。
ん、割と優しくやってくれている。それから段々と動きが速く……
「いたたたたたた!!? もっと優しく!! 優しくして!!」
ゴシゴシが強い!? 肌が剥けてしまう!!
それからはちゃんと注意して加減はしたものの、背中はすごいヒリヒリしていた。まるで日焼けのように痛い……。
まぁでも、悪いか良いのかと言えばもちろん後者。一人で入るよりは楽しかったと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます