第6話 大家さんの家宅捜査

 この触手はアルスから伸ばされた物らしい……。

 でもそこまでやらんでも!?


「ア、アルス……何もそこまで……あっ! そこは!」


 肌を撫で回す様に動いている……正直気持ち悪い!

 でもこれってアルス的には抱き締めている感じなのかもしれない。別に締め落とそうとかじゃないし、今でも優しい鳴き声を出している。


「キュウキュウ」


「アルス……心配してくれるのは嬉しいよ? でもこれはさすがによしてくれないかなぁなんて……」


 さすがにやめてなんて直球に言う訳にはいかない。ここは穏便に柔らかに断らないと。


 シュルシュル……!


「あっ! あっ!」


 胸とか足に絡み付いてくる! 全然分かってない!!

 あっ、いや……服が破れちゃう……もうダメ……ダメ……!






 結局解放されたのはそれから三分後の事。

 触手から解放された私の身体は強く火照って、動く事もままならなかった。


「……こんなの初めて……」


「フウウ……」


 一方でアルスが息を吐いていた。

 どう見てもやり切った的な感じにしか見えません本当にありがとうございます。というかこの子、そういう目的でやっていたのか? やっていたのだろうか?


「うう……制服が……」


 着ていた制服のボタンが外れたりはだけている。もうこれ第三者が見てもそうにしか見えない。

 そして張本人(人じゃないけど)はというと、そんな私に元気そうな声を出している。


「キュイ! キュイ!!」


「もうアルス! こういう事はしちゃ駄目だよ! やるならこんなキツめとかじゃなくて……」


 最後まで言おうとしたものの、目の前のアルスはやけに嬉しそうだ。

 

 ……こういうのを見ると、何だが怒るに怒れない。それに何だが、さっきまでの憂鬱が嘘のように晴れた気がする。

 この子と一緒にいるからかな。にしても何か違和感とかあるような……。


 ――ピーポーン。


「ん? はい、ちょっと待って下さい」


 こんな時間に誰だろう? 

 すぐに玄関の扉を開けると、森さんがそこに立っていた。


「やぁ沢口ちゃ……………………あの、もしかしてそういうプレイでもしてたの?」


「ん? アアアアアアアアアアアアア!!?」


 制服の胸元開いたまんまだった!! アルスとかインターホンとかですっかり忘れてた!!


「ち、違うんですよ!! えっと……脱がし途中でして!!」


「そ、そう? その割りには誰かにレ○プされたような感じになっているっぽいけど……」

 

「ここ外ぉ!!」


 せねて家の中でそれを口にして下さい! いや、やっぱり直接言われるのも嫌だわ!


 というか突っ込む前に服直さないと。すぐに服を整えて、外に出ても恥ずかしくないような格好にする。


「えっとすいません、取り乱してしまって……」


「いや別にいいよ。それよりもお邪魔じゃなかったら中に入っていいかな? 何かさっきから動物の鳴き声がするからさ」


「……えっ? 中に?」


「うん、家の中。もしかしたら沢口ちゃん家に何かが侵入したかもしれないから、見つけ次第追っ払おうかなって」


「……えっと、少々お待ち下さい。今、中がごちゃごちゃしているので……」


 私はそっと扉を閉め、部屋に戻った。

 間違いない、家宅捜査だ。来るかもと思っていた事態が、ついにこの時にやって来たのだ。


 もし森さんがアルスを見たらよくて失神。悪ければ敷金没収&アパート追放されかねない。


 何としてでも解決しないと!


「アルス、ちょっとごめん」


 アルスを持ってどこか隠せる場所を探した。


 ベランダにしようかと思ったけど、ここも調べられると思うから駄目。

 押し入れは物が多すぎて入りきれないし、アルスが埃を嫌がっていたから駄目。

 浴槽の中はお湯を張っているから駄目。


 くっ、どうすればいい!? どうすればこの危機を逃れられる!?


『沢口ちゃーん、大丈夫ぅ?』


「あっはい! もうすぐ待って下さい!! ……じゃあアルス、ここでじっとしてて」


「キュイ?」


「動かないでって事。普通の植物みたいになるの。あと返事はしない」


「…………」


 こうなれば普通の植物のようにさせるしかない。大丈夫、この子は植物、ただ本来の姿に戻るだけ。

 ひとまず念の為、人目の付かない奥に置いておく。後は森さんを呼ぶだけだ。


「ど、どうぞ! 鍵は開いてますので!」


『はーい、じゃあ失礼しマンモス』


 森さんがうすら寒いギャグをしながら入ってくる。

 そうしてしばらく周りを見渡して、うんうんと頷く。


「いやぁ、やっぱり部屋綺麗だね。私の汚い所とは大違い」


「……ありがとうございます……。ところで動物は……」


「ああごめんごめん。今の所獣臭いってのはないけど、何かやけにいい香りがするなぁ。こっちかな?」


 森さんが部屋の奥へと進んでしまう。間違いなくアルス一直線だ。

 一気に心臓の鼓動が早くなってしまう。アルスを疑っている訳じゃないけど、もし何らかの拍子で動いてしまったら……。


「あの、すいません! こっち片付けが終わってなくて……」


「ああ、別に気にはしないよ。それにそういった所に猫とかが隠れているかもしれないし」


 わざわざ前に立って止めたのに跳ね除けられてしまった。

 もう心臓が張り裂けそうだ、目もつぶってしまう! 頼む、どうか早く終わって!


「……ん? これってもしかして観葉植物? 珍しい形しているじゃない」


 部屋の奥から声が聞こえてくる。

 そっと目を開けると、森さんがアルスを珍しそうに眺めていた。アルスは私の言った通り固まったように動かない。


 よかった……言う事は聞いてくれたんだ。


「これって初めて見るけど、外国の植物とかそういうの?」


「……え、ええ……外国に親戚の方がいまして、家に来た時にもらった物です…」


 どうやらそう解釈しているみたいので話に合わせる。

 本当は外国の親戚なんていませんけどね。


「ふーん、そうなんだ。まぁ、動物はまだしも植物なら全然いいけどねぇ」


 も、森さん……そんなにマジマジとアルスを見ないで。

 このままではアルスが……。


 ――ピクッ。


「ん? 動いた?」


 しまった! アルスが少しだけだけど動いてしまった!!

 いやアルスは悪くない、森さんが近付いたりしたから、その拍子に動いてしまっただけなんだ。決してこの子には罪はない。


 だけどお願い! どうか敷金没収だけは……!

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